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精神科医、病院百物語をする(前編)
皆様こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
ご存知かも知れませんが、長年病院で勤務を続けていると一つや二つ「ゾッとする体験」をします。
したがって医療従事者が酒の席で集まって"この手の話"をすると結構盛りあがるんですよね。
やはり病院というのは「生と死」の境界……自然と怪談めいた話が生まれてしまうのでしょう。
実は小生も「ゾッとする体験」は一度ほどあります(詳細はnote過去記事をご参考くださいな)。
さて今回は、小生が医局の同期と集まって「病院百物語*」をした時のエピソードです。
季節外れかも知れませんが、皆様にも医師たちの恐怖体験を是非シェアして頂きたいと思います!
尚、プライバシー配慮のため、論旨を変えない程度に脚色しております。
*百物語: 夜、何人かが集まって色々な怪談話をしあう遊び
【精神科医、遅刻する】
寒風荒ぶ1月、精神科医は繁華街を彷徨い歩いていた。
(どこだ……場所がわからん……)
入局同期のAから「久々に同期会をやろう」と誘いがあったのは昨年末。
訪れたことのない店だったためスマホを片手に探すが見当たらず、精神科医は30分ほど同じエリアを徘徊していたのだ。
立て看板で見えづらくなった細い路地にその居酒屋はあった。
20分ほど遅刻して店に入り、店員に予約している旨を伝えようとすると、
「お〜い、鹿冶!こっちこっち」
と、喧騒の中から聞き覚えのある声がする。
「すまん、場所が分かりにくくて……」
幹事のAが手招きする方に向かうと、他のメンバーはすでに着席していた。
「遅刻、遅刻!かけつけ三杯!」
Bがそう言い、席に着いたばかりの精神科医にお猪口を手渡す。
「昭和か(笑)!」
と笑いながら、精神科医はお猪口になみなみと注がれた日本酒をすみやかに三杯飲み干した。
【精神科医、手を挙げる】
同期会には精神科医を含めて11名が参加していた。
入局した時の同期は15名いたので、同期会の出席率は7割といったところか。
医師になってから10年ほど経過するが、この年代になると医師としての進路(キャリアパス)は少しずつ別れていく。
その日出席した面々は、実家の病院を継ぐ者、医局人事で基幹病院での勤務を希望する者、クリニックの開業準備をしている者、フリーランスになる者、社会人大学院に行く者……様々な進路を歩みつつあった。
ちなみに精神科医は大学に残ること、すなわちアカデミックキャリアを模索している最中であった。
お互いに忙しく、話すことも勤務先の不満、医局の人事、研修医時代の思い出話など、パターンはだいたい決まっていた。
(その話、前にも聞いたような……)
とデジャビュを感じ始めた頃、飲み放題の時間も終わりに近づいていた。
「なぁ、もうすぐ締めないといけないけど、二次会に行く人いる?」
幹事のAの呼びかけに、精神科医を含め6名が手を挙げた。
【精神科医、病院百物語をする】
居酒屋から10分ほど歩いたアイリッシュパブで二次会をすることになった。
薄暗くこじんまりとした店内は客も少なく、居酒屋の喧騒とは対照的に、闇夜の沼のように静かな雰囲気を醸していた。
ウェイターが配った熱めのお手拭きで一斉に顔を拭きはじめた時「みんなオッサンになったな……」と互いに思ったであろう。
一次会で既に話すネタが尽きた感はあったが、案の定、二次会の出だしはそれほど盛り上がらない。
そんな雰囲気を察してか、Aがこう切り出した。
「なあ、ちょっと提案があるんだけど……」
皆がギネスビールを片手にAに注目する。
「ほら、病院に勤務していると"怖い話"ってよく聞くよな。今からみんなの"ゾッとする体験"について語らないか?」
「お、いいね!店も薄暗くて怪談には丁度いいな」
Bはすぐに賛成した。
「面白そう!病院百物語やなあ!」
Cも同調する。
「そうそう、病院百物語!……で、一番"ゾッとした話"をした奴は二次会の飲み代を無料にするってのはどうだい?」
Aが賭けを持ちかけたところ、皆が「乗った!」と賛同する。
「じゃ、あいうえお順で、トップバッターは鹿冶な!」
「えっ!?俺?」
Aの急なフリに戸惑いつつも、精神科医は「離島での不思議な体験」を語ることにした……
「……まぁまぁ、スタンダードな話だな。鹿冶、疲れていたんだよ」
Aがうっすらと伸び始めた顎髭に手を当てながら寸評した。
精神科医は、Aの薄いリアクションに気色ばみ、
「じゃ、次はAの番な!」
と話を振った。
「ふふふ……俺の話はちょっとゾッとするぞ」
自信ありげにAは語り始めた……
【A医師: 内線0142】
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