【書評】恋人や夫や愛人では埋められないもの〜『男ともだち』(千早茜)
千早茜さんの『男ともだち』の書評です。自分の倫理観を試されているような小説でした……。2014年の直木賞候補になった作品です。
1、内容・あらすじ
イラストレーターをしている29歳の神名葵は、彰人という恋人と同棲をしています。その一方で、医師の真司と愛人関係にあります。
「自分のしたいことだけを求める」という倫理観で動く神名は、その通りに行動しながらも「いつか報いを受けるのでは」ときどき不安を感じる日々。
そんな時、大学の先輩だったハセオから電話がかかってきます。
ハセオは先輩ではありましたが気の置けない仲で、いわゆる「男友達」。恋人関係になったことは一度もなく、それでいて常に一緒にいた存在。
七年ぶりにハセオと再会した神名は、昔と変わらない彼に安心しつつも心が揺れ動き、その波紋がやがて彼女の生活に大きな変化をもたらします――。
2、私の感想
この小説は読む人によって全く感想が違うだろうなあ、と思います。
顔をしかめながら読む人と、うなずきながら読む人に分かれることでしょう。
巻末の解説で「登場人物全員、ものの見事にクズばかりだ」とありますが、確かに独自の倫理観を持っている人ばかりが出てきます。(解説はあの村山由佳さん)
そんな中で描かれるのが、いわゆる「男女間の友情は成り立つのか」という古典的な問いに対する答えです。
私は否定派、つまり「男女間の友情などあり得ない」という立場でしたが、読んでみて「確かにこういうことはあるのかも……」と思いました。
恋人でも愛人でもない絶対的な理解者。所有欲も独占欲もない相手。男友達でなければ埋められないもの。
こういうことをグルグル頭の中で考えながら読み進めていきました。
そしてこの小説の最大の見どころ、「男友達のハセオと一体どうなるのか、関係を持ってしまうのか」ということについてはちゃんと答えが用意されていて、大いに納得しました。すがすがしささえ感じました。
「自分にはこういう相手がいるかなあ」ということを考えさせられる小説でした。
3、こんな人にオススメ
・「愛が面倒くさい」と思う人
こういう人はかなりハマると思います。
・「自分はクズである」という自覚がある人
ぜひ「登場人物全員クズばかり」を体験してください。
・「男女間の友情は成り立つ」と思っている人
神名とハセオの関係に大いに共感できることでしょう。