【書評】ストーカーの無間地獄~『消えない月』(畑野智美)
『神さまを待っている』『海の見える街』で知られる、畑野智美さんの『消えない月』です。これは怖かった……。
1、内容・あらすじ
28歳の誕生日を迎えた河口さくらは「福々堂マッサージ」でマッサージ師として働いています。
そのお客さんの中に、いつも彼女を指名してくれる松原という男性がいました。
松原は大手出版社勤務で、ベストセラー作家を多く担当しているとのこと。
話が上手で背が高く、ルックスもいい松原に、さくらはほのかな好意を抱いていました。
ある日、松原からプレゼントをもらったことがきっかけで、二人は付き合うことになります。
しかし、付き合っていくうちに松原の言動に常軌を逸したものを感じ、さくらは別れを告げます。
そこから松原の恐怖のストーカー行為が始まります──。
2、私の感想
怖くて怖くて、でも先が気になって気になって、一気に読んでしまいました。
松原のストーカー行為におびえるさくらに感情移入し、読んでいる最中に物音がしようものなら「ビクッ」となる有様でした。
半ば化け物のようなストーカーが出てくる小説はよくありますが、松原はお坊ちゃんオーラがあってルックスもよく、それでいて行動は常軌を逸しています。これがやけににリアルでした。
世間を騒がすストーカー事件はこうやって起きるんだろうな、と思いました。
さくらの視点と松原の視点、交互で話が描かれるので、ストーカーの心理もよくわかります(理解も共感もできませんが……)。
後半に出てくる女性警察官が語る「ストーカーと運」の話はとてもうなずけました。これはもしかしたら実際に警察の人が言った台詞なのかもしれません。
そして、SNSが網の目のように張り巡らされている現代では、どんなことも調べようと思えば調べられてしまうんだな、と改めて恐ろしくなりました。
解説も含めて全編を通して私が感じたのは、
ストーカーが出来上がるキーワードは「承認欲求」と「成功体験」である。
ということでした。
3、こんな人にオススメ
・ストーカー被害に遭いかけている人
まずはこういう人に激しくおススメしたいです。対策が読み取れます。
・警察関係者
作中には、全く頼りにならない警察官も出てきます。現実もこうでしょうか?それとも今は理解が進んでいるでしょうか?
・女性の方
転ばぬ先の杖、という意味を込めて。どこに松原がいるかわかりません。