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歌もよひの散文どち

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心のままに書くなんて簡単に言いますが、たまたま思いについた言葉が「心のまま」かどうかは、よくよく見直すようです。
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2024年7月の記事一覧

「いつか歩いた道なのに」

場所に記憶されている感情とは、不思議なものだ。あまりに思いで深い場所にゆきあうと、かつてそこに立っていた、まさにその時に抱いていた感情が、ありありと手にとるように感じられることがある。しかし時間はまきもどるわけもなく、いまの私は、当時の自分をすこし後ろから見守っている。「そこはそうじゃない。こうするところだろ」と思わず声をかけたくなるような悔恨と、「あの時の自分にはそうすることしかできなかったな」

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「おどろくと今日はたそがれ」

肉体的に疲れているときも、精神的にまいっているときも、とにかく休むにこしたことはないようだ。読みたい本は山のようにあっても、人間はAIではないのだから、やみくもに読めばよいというものでもあるまい。意識を読書に集中できないときは、ソファーにでも寝転がって、頭のなかを空っぽにしてみる。あるいは私のいなくなった世界を想像してみるのもよいかもしれない。冷蔵庫のなかでゆっくりと朽ちてゆく野菜ども…… 雨のあ

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「私の影は色濃くなりぬ」

このポストモダンという時代は、影の薄いほうが生きやすいようだ。巨大なショッピングモールを思い浮かべたらよい。そこでは四方八方から明るい照明を浴びせられ、影のない人たちが居心地よくゆきかっている。そして私もその中の一人となり、他者との摩擦を生むことがないようにゆきすぎる。そこはそういう場なのだから、それでよいのであろう。しかし家庭でも、職場でも、居酒屋でも、あるいはSNSなどのネット空間でも、それが

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