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短編小説。 あいまいに日々を生きるセンセイと、それをめぐる人々の物語。 あいまいな頻度で更新されます。
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2021年1月の記事一覧

【twilight 第12話】リーさん マスター

【twilight 第12話】リーさん マスター

「そういえば、ター坊最近ハマってること、何かないの?」
喫茶トランペットのテーブルで3人揃ってカツハヤシである。リバティがそうたずねたのには、それだけの理由があった。
「ちょっと前までは、休みの日に陶芸やってたけどね…」
「やめたな」
ター坊より先にリバティが結論を告げた。

「しっかしそれにしても、ター坊って昔から飽きっぽいよなぁ。新しいこと始めたと思っても、次会ったらもうやめてるんだもん。まぁ

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【twilight 第11話】 年明けの工房 かもめ食堂

【twilight 第11話】 年明けの工房 かもめ食堂

「親方、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
年が明けて初めての工房の朝、センセイは深々と頭を下げて親方に挨拶をした。
「おう。こちらこそ、今年もよろしくな。そんなに、かしこまるんじゃねぇよ。フツーでいいよフツーで」
普段から礼儀にはうるさい親方であるが、あまり丁寧にされるとそれはそれで居心地が悪いらしい。

「あ、そうでしたね」
折に触れて指摘されることを、センセイは

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【twilight 第10話】 白髪  空き地

【twilight 第10話】 白髪 空き地

髪を切ったセンセイは鏡の前に立っていた。少しだけ右寄りの分け目から、一本だけ白髪がのぞいている。
よく見れば、他の髪と比べてうねうねと曲線を描いているそれ。
厳かな手つきでつまむと、引き抜こうとしてはみたがなんとなく思い改めて、そのままにしておくことにした。

「そうだよなぁ」と年齢を重ねるにつれ忘れがちな自分の年齢を、センセイは思い出していた。それについては別段の感慨もない。
ただ目の前を通り過

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【twilight 第9話】鍋 宝くじ

【twilight 第9話】鍋 宝くじ

台所に立って夕食の支度にとりかかるセンセイ。今日は奥さんの帰りが遅く、久しぶりの自炊である。
冷蔵庫を開けてみると、野菜室にしいたけ、白菜、大根、豆腐がある。
こういう時、奥さんならパパパっといくつかの料理が思い浮かぶのだろうが、レパートリーが少ないセンセイは「鍋にしよう」と、他の選択肢のことは考えもせずに、冷蔵庫の品々を手に取った。

その昔、居酒屋の厨房でアルバイトをしていたことがあるセンセイ

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