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『さざなみの日記』幸田文著
夫と離婚し習字の教室を開いている母、その母と共に暮らす一人娘、それから猫。この一家の日常を流れるような筆致で描いた一作。
題名の通り、この家にはそれほど大きな出来事は起こらない。母が、娘の結婚相手に適していると思った人が、娘からすると母の再婚相手にふさわしいと考えていたり、お手伝いさんの掃除の仕方がちょっと乱暴で、多少の行き違いがあったり。
さざなみのように、波ともいえない水の揺れのような出来事が続くのだけれど、それが退屈とも感じない。
というのも、それぞれの事件に対する母や娘の心情が細かく丁寧に記され、そこに彼女らの人柄の良さや品の良さ、芯の強さが感じられて、なんとも心地いいからだ。
大きな出来事としては、娘のお見合い、お手伝いさんの家の台風による倒壊、同じ嵐による母の親戚の罹災などがあるのだけれど、これらとて日本人であれば誰もが多少は経験するものだ。
けれど、さざなみのような生活を送る母子にとってはそうしたことすら大事件で、それぞれに思い悩み、事件を自らに引き付け、周りの助けも得て乗り越えながら解決し、加えて彼女ら自身の成長につなげていく。
ひと昔前の女性たちが、はたから見ればか弱く映りながら、その実しなやかなに生き抜けて行く姿が窺われ、なんとも読後感の良い作品だった。
#読書感想 #幸田文 #近代日本文学