読書記録「本性」
川口市出身の自称読書家 川口竜也です!
今回読んだのは、伊岡瞬さんの「本性」KADOKAWA (2020)です!
・あらすじ
私立高校に勤める40歳の梅田尚之は、会員制のお見合いパーティにて「サトウミサキ」という女性と出会う。意気投合した2人は何度かデートをした後に、体を重ねることとなる。しかし、尚之がどんなに貢いでもサトウミサキは靡くことなく、母親の金で好き放題遊んでいる尚之を陥れる。
地元のファミレスのバイトリーダー的立ち位置である小田切琢磨は、突如お店に現れた「サトウミサキ」と出会う。無職で、金やコネがあるわけでもない琢磨であるが、あれよあれよと言う内にサトウミサキと肌を重ねる。その後、彼の前に現れたのは警察と、1人の男であった。
地元の町役場に勤める古谷沙帆里は、3ヶ月前に夫に先立たれたばかり。保険金が未だに支払われないと文句を言う矢先、高校の同窓会にて「サトウミサキ」と出会う。夫の死の真相をネタに揺さぶられるも、依然として不慮の死だと主張する。その後、沙帆里は行方不明となる。
一連の騒動の裏にいる「サトウミサキ」を追う2人の刑事。彼女は一体何が目的で彼らに近寄り、そして犯行に及んだのか。一方で、何故彼女は犯行をする相手と、いわば憎い相手と体を重ねるのか。その「本性」はいったい何なのか。
以前読書会で勧められた本。「私、クズが出てくる物語が好きなんです」としか聞かなかったけれども、いや、だからこそ気になってしまった。
物語に登場する人物は、揃いも揃って確かに酷い人物だらけである。物語の根底に触れるため詳しくは書けないが、恨まれてもしょうがないと思わずにはいられない。
だとしたら、どうして「サトウミサキ」はそんな男と寝るのだろうかと疑問も残る。恨みから来るのならば、それこそもっと手っ取り早い手段もあったはず。そこが警察の捜査を錯乱させることにもつながるのだが、不可解ではある。
吉田大助さんの解説の言葉をそのまま使えば、ここで描かれているのは、人間存在そのものの「本性」なのだ、と。人間の根源的な欲望がサトウミサキによって引き出される、それは、彼女自体もまた同じであった。彼らと出会っているうちに、新たな欲望が生み出されていく…。
人間の欲望は限りない。それがエネルギーとなり前進するものもいれば、残念ながら悪い方向へ進むこともある。私が生まれる前の事件のため詳しくはないのだが、どうやらこの作品は過去に起きた殺人事件の被害者の面影が溶かし込まれているのではないかと、解説で述べている。
欲望があることを誰1人として否定することはできない。人間が遺伝子レベルで持っているものであり、欲望があるからこそ、人類は進歩し、文明は築かれ、歴史が出来上がったと言っても過言ではない。だが、時として欲望は暴走する。まるでその人の「本性」が浮かび上がったかの如く…。
登場人物の「本性」が暴かれていくうちに、事件は思わぬ結末を迎える。
是非この目で確かめてもらいたい。それではまた次回!
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