読書記録「ブラフマンの埋葬」
川口市出身の自称読書家 川口竜也です!
今回読んだのは、小川洋子さんの「ブラフマンの埋葬」講談社 (2007) です!
・あらすじ
僕は〈創作者の家〉と呼ばれる、とある出版社の社長が遺した芸術家たちの仕事場の管理人をしている。
ここは鉄道が敷かれるまでは、船で川を下る以外に交通手段がなかった辺鄙な村にある。
かつて故人を川に流して墓地の石棺に納棺する風習があったこの地域では、今なお〈創作者の家〉の工房にいる碑文彫刻家が、毎日誰かの墓石を創り上げている。
僕自身は文字を綴ることも、音楽を奏でることも、何か工芸品を創造するわけでもない。
彼らの邪魔をしないよう注意し、ただ訪れる人を迎え、去っていく人を見送るだけだ。
ある夏の日、ぼくはブラフマンに出会った。
裏庭のゴミバケツの脇にひっそりと息を潜めていた野犬は、体中傷だらけで、肋骨が浮くほど痩せていた。
どうして怪我をしているのか、なぜここにやってきたのかも分からない。
僕は彼をサンスクリット語で「謎」を意味するブラフマンと名付け、世話をすることを決めた。
先日、神保町は「たかひでの本棚」さんの小説限定の読書会に参加した際のこと。
小川洋子さんの「偶然の祝福」を紹介された方が、「心温まる系の物語がお好きならば、こちらの作品もおすすめです」と伺い、同じ作家つながりで紐解いた次第。
作中の僕は、自身の身の上話はほとんどしない。僕がどこから来て、どうして今の仕事をしているのかも謎である。
そもそも、登場人物全員に名前がない。「碑文彫刻家」「クラリネット奏者」「雑貨屋の娘」「レース編み作家」など。
まるで僕は、(僕自身を含めて)誰にも興味を持っていないかのように。
そんな僕が、ブラフマンについて解説するシーンがある。
ブラフマンの尻尾は胴体よりも長く、この尻尾は床の埃を払い、寝ている僕にくしゃみを誘発し、床を鳴らして食事の催促をする。
ブラフマンは一日の半分以上を寝て過ごしているが、真っ暗になるのは怖がる。僕は彼が眠っているとわかっていながらも「おやすみ」と言う。
ブラフマンに好き嫌いはない。口に入るものなら何でも食べる。いつも食べる勢いが強いせいで、最初は部屋の真ん中にいても、最後は片隅で終わる。
それで充分なのだ。ただいっしょに過ごすだけで、尊いということさえわかっていれば。
謎を解き明かそうとか、過去を知ろうだとか、わざわざ秘密に触れようとする必要など無かったのだ。
それもまた、失わずとも知っているけれども、失ってから気づくことなのかもしれませんね。
小川洋子さんの作品にしっぽりと酔いしれる。それではまた次回!