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【GMT】グリニッジ天文台ってどんなところ?

みなさんのなかに、「グリニッジ天文台」という言葉を聞いたことがある方はいませんか?

そう、長らく国際的な経度や時間の基点となっていた天文台です。

かつては、この天文台を基点とした時間がGreenwich Mean Time(GMT)と呼ばれ、長らく多くの国で世界標準時として使われていました。

※わざわざ過去形で説明しているのは、現在の経度や時間の基点になっていないからです。詳細は後述します。

それでは、グリニッジ天文台とはどんなところなのか? 今回は、それを現地に行って確かめた様子をシェアします。

なお、これから紹介する写真は、2006年6月に撮影したものです。現在とは異なる点があるかもしれませんが、その点はご了承ください。

■ 場所はロンドン南東部

グリニッジ天文台(Royal Observatory, Greenwich)は、イギリスの首都・ロンドンにあります。ロンドンの南東部には、グリニッジ公園(Greenwich Park)と呼ばれる広い公園があり、そのほぼ中央にグリニッジ天文台があります。

グリニッジ天文台の最寄駅は、Cutty Sark for Maritime Greenwich(直訳すると、海事都市グリニッジにふさわしいカティサーク…でいいのかな?)駅です。「ロンドンのへそ(中心地)」と呼ばれる広場(ピカデリーサーカス)からは、電車で50分ほどかかる場所にあります。

なお、駅名についている「カティサーク」は、19世紀にイギリスで建造された帆船の名前です。

私は、これから紹介するグリニッジ天文台ばかりに気をとられ、一般公開されていた「カティサーク」の内部を見忘れてしまいました。この話は別の記事で書いたので、ここでは割愛します。

Cutty Sark for Maritime Greenwich駅は、Docklands Light Railway(DLR:ドックランズ・ライト・レイルウェイ)の途中にあります。ロンドンの再開発地区を通る鉄道で、東京の「ゆりかもめ」と同様に、乗務員がいない自動運転を実施しています。

再開発地区を走るドックランズ・ライト・レイルウェイ(DLR)

■ 広い公園にある天文台

グリニッジ天文台から見たロンドンの街並み。左に見える高い建物は、ヨーロッパ最大の超高層ビル街(カナリー・ワーフ)

グリニッジ天文台は、グリニッジ公園にある小高い丘の上にあります。ここからロンドンの中心地を見ると、ヨーロッパ最大の超高層ビル街(カナリー・ワーフ)が見えます。

お待たせしました。これがグリニッジ天文台です。

グリニッジ天文台

建物の内部は一般に公開されているので、建物に入り、このような写真を撮ることもできます。

グリニッジ天文台3階からの眺め

■ 本初子午線が通っていた場所

グリニッジ天文台の建物には、赤い線を引いた部分があります。この赤い線が、かつて本初子午線(ほんしょしごせん)が通っていた場所です。本初子午線とは、経度0度を示す子午線(経線)で、東半球と西半球の境界を指します。

グリニッジ天文台の建物に引かれた赤い線

ちなみに、この赤い線の奥(建物の内部)には望遠鏡のレンズがありました。つまり、望遠鏡のレンズの位置が本初子午線の基点となっていたのです。

赤い線の延長にある地面には、東半球と西半球の主要都市の名前が書いてありました。

地面に書かれた西半球(左)と東半球(右)の主要都市の名前。右側には東京も!
このように、東半球と西半球をまたぐこともできます

この赤い線の近くには、以下のような案内看板があり、グリニッジ天文台を通る本初子午線(グリニッジ本初子午線)の説明が日本語でも表記されていました。

グリニッジ天文台の案内看板

この看板には、次のように記されています。

本初子午線はグリニッジを通り、南北に伸びる想像上の線です。
1884年の国際子午線会議によって、この場所が子午線0の位置に決定されました。
地球上すべての場所は経度(グリニッジを中心とした東西への距離)と緯度(赤道を中心とした南北への距離)によって定義することが可能です。緯度も経度も度・分・秒を使用して計測されます。

グリニッジ天文台の案内看板より

■ なぜここが基点になったのか?

グリニッジ天文台の近くにある帆船「カティサーク」。イギリスが船で世界を制した時代の象徴

写真でわかるように、グリニッジ天文台はさほど大きな建物ではありません。

なぜこの建物が経度や時間の基点になったのでしょうか?

その理由を端的に示すと、「かつてイギリスが船で世界を制した時代があったから」です。

※正確には「イギリス」ではなく「イングランド」ですが、この記事ではわかりやすくするため「イギリス」と呼びます。

グリニッジ天文台があるグリニッジは、テムズ川南岸に位置する海事都市です。ここには、国立海洋博物館があり、船による貿易が盛んだった時代を物語る帆船「カティサーク」が保存されています。

ナショナルジオグラフィックに掲載された「本初子午線はなぜグリニッジを通るのか」(2013年5月29日投稿)には、1763年に発行された『英国航海者ガイド』が、グリニッジ天文台を経度の基点とするきっかけになったと記されています。

この記事には、『英国航海者ガイド』は、ネヴィル・マスケリン氏(1732-1811)が船員向けに出版したガイドブックであると書かれています。また、これが出版される前は、洋上での位置を知ることが困難で、海難事故が多く発生していたと書かれています。

なお、マスケリン氏はイギリスの天文学者です。経度測定の実用化に尽力し、グリニッジ天文台の5代目台長を務めた人物です。また、グリニッジ天文台は、イギリスが天文学と航海の発展のために1675年に建設した施設でした。

結果的に、グリニッジ天文台を経度の基点として現在地の緯度・経度を求める方法は、イギリスから世界に広がりました。先ほどの記事には、次の文が載っています。

1884年の時点で、世界の船腹量の約72%がグリニッジを基点とする方式に従っていた。この年、国際子午線会議が開かれ、イングランドのグリニッジ王立天文台を地球の経度の基点とすることが正式に決定された。

本初子午線はなぜグリニッジを通るのか(ナショナルジオグラフィックウェブサイト)

■ 現在の経度や時間の基準はちがう?


なお、現在は、グリニッジ天文台が国際的な経度や時間の基準になっていません。

現在の経度は、IERS基準子午線が基準になっています。国土地理院のウェブサイトには、「IERS基準子午線は、グリニッジ子午線(英国のグリニッジ天文台のエアリー子午環を通る子午線)の102mほど東を通過します」と記されています。

いっぽう時間は、協定標準時(UTC)が基準になっています。グリニッジ天文台を基準とするGMTとは、測定方法が異なります。

国際協定により、UTCはGMTと等しいことになっていますが、その測定方法は異なります。GMTは正午から測定されており、一方、UTCは午前0時から測定されています。UTCは世界の法的な時刻の基礎となっています。

スイス時計産業のウェブサイト

なお、世界の各地の時刻は、このUTCを基準にして何時間ずれているかで定義しています。たとえば、日本の時間の基準である日本標準時(JST)は、UTCよりも9時間進んでいるので、国際的には「UTC+9」と表記します。

■ おわりに

現在わたしたちは、自分が今いる位置を正確に知ることができる時代を生きています。ポケットからスマートフォンを取り出し、地図アプリを開けば、自動的に衛星を使った全地球測位システム(GPS)を使って緯度と経度を検知し、地図上に現在地が表示されます。

また、スマートフォンの地図アプリのナビゲーション機能を使えば、知らない場所でも現在地を把握しながら、目的地にたどり着くことができます。

いっぽう、スマートフォンやGPSがなかった時代は、このような位置検知が難しかったので、目的地までの経路を示し、自動的にナビゲーションをしてくれる機械がありませんでした。

たとえば、グリニッジ天文台を国際的な経度の基点と決めた140年前は、船がいったん広い海に出てしまうと周囲の目印がなくなり、現在地をすぐに把握できませんでした。このため、空に見える太陽や月、星の位置から緯度と経度をそれぞれ計算していました。つまり、天文学と航海がリンクして発達していたのです。

グリニッジ天文台には、このような時代を知る展示もありました。

その点においては、行って損はない施設と言えるのではないでしょうか。

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