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【世界の駅めぐり#09】街の素顔が見える巨大駅/ペンシルベニア駅(アメリカ・ニューヨーク)動画付き

今回は、ニューヨークにあるペンシルベニア駅を紹介します。この街の素顔に迫ることができる駅の話として、お楽しみいただけたら幸いです。

※掲載した動画・写真は、2011年11月に撮影したものです。


■ 2つある巨大駅の1つ

ニューヨークの中心地には、東京の東京駅や新宿駅に相当する巨大な駅が2つあります。その駅の名前をご存じでしょうか?

1つは、【世界の駅めぐり#02】で紹介したグランドセントラル駅です。この駅は、映画の舞台に繰り返しなった場所であり、観光名所にもなっているので、「行ったことがある」という方もいるでしょう。また、日本で公開された映画でもたびたび登場するので、「行ったことはないけれど、なんとなく知っている」という方もいるでしょう。

もう1つは、今回紹介するペンシルベニア駅(New York Pennsylvania Station)です。名前が長いので、略してペン駅(Penn Station)とも呼ばれます。

この駅は、映画の舞台にほとんどなっておらず、観光名所にもなっていないので、「名前を初めて知った」という方もいるでしょう。

はっきり言うと、「大きいけれど地味な駅」です。ただし、この駅だからこそ見れる興味深い風景も存在します。

■ 街の中心にある巨大地下駅

ペンシルベニア駅は、ニューヨークの中心にあります。繁華街であるタイムズスクエアからは地下鉄で1駅、摩天楼の象徴であるエンパイアステートビルからは徒歩圏内という、代表的な観光名所にアクセスしやすい場所に位置しています。

その位置を、Google Mapで見てみましょう。

ごの地図を見て「どこが駅なの?」と思う方もいるしょう。それは、線路やホームが地下にあり、駅らしいものが地上にないからです。

グランドセントラル駅に並ぶ巨大駅なのに、地上からはその姿が見えない。それが、ペンシルベニア駅なのです。

■ 朝のラッシュアワーの様子

この駅は、オフィス街の中心に位置するため、朝夕は通勤者で混雑します。

下の動画は、朝の駅の様子を撮影した動画です。約1分間にまとめました。

■ この駅の2つの特徴

ペンシルベニア駅は、1910年に開業した駅です。グランドセントラル駅(1871年開業)よりも39年後、日本の東京駅(1914年)の4年前に完成しました。

グランドセントラル駅とくらべると、おもに次の2つの特徴があります。

  • ①駅全体が地下にある

  • ②線路が「通過式」である

それぞれくわしく説明しましょう。

■ 駅全体が地下にある

①の「駅全体が地下にある」は、この駅の大きな特徴です。

メインとなる出入口は、7番街通り(7th Avenue)に面した建物の1階にあります。この建物は「ペン・プラザ」と呼ばれるオフィスビルで、駅舎ではありません。

建物の1階にある駅の出入口(「PENN STATION」と書いてある部分)

また、この建物の奥(西側)には「マディソン・スクエア・ガーデン」と呼ばれる施設があります。これは、試合観戦ができるスポーツアリーナであり、エンターテインメントの会場となっています。

東京で例えるならば、「東京ドーム」のような多目的スタジアムが、「東京駅」のような大規模な駅の真上にある...というイメージです。アクセスのよさは抜群です。

ちなみに、かつてはこれらの地上部分に初代駅舎が建っていました。それは、古代ギリシャ神殿のような荘厳な建造物でした。

この初代駅舎は1963年に解体され、その跡地に「ペン・プラザ」や「マディソン・スクエア・ガーデン」などの建物が造られました。

先述したグランドセントラル駅の駅舎も、ペンシルベニア駅と同様に解体される予定でしたが、それに対する反対運動が起き、解体をまぬがれました。

なお、ペンシルベニア駅の西側には、初代駅舎とほぼ同時期に建造された建物があります。これは、ジェームズ・ファーレー郵便局(ニューヨーク市の中央郵便局)で、初代駅舎と外観が似ています。かつては、ここを基点として鉄道で郵便物を運んでいたため、ペンシルベニア駅の貨物ホームと直結していました。

なお、この郵便局は2021年に改築され、その一部が駅の施設になりました。その中心にあるホールは、天井がガラス張りになっており、地下空間に陽の光が入り込む構造になっています。

ジェームズ・ファーレー郵便局。初代駅舎と外観が似ている

さあ、7番街通りに面した出入口から駅の内部に入ってみましょう。

駅の内部に続く階段とエスカレーター

階段やエスカレーターで降りた先には、吹抜けになったホールがあります。下の写真は深夜に撮影したため、人がほとんどいませんが、朝夕のラッシュアワーには多くの人々がここを行き交います。

吹き抜けになった広場
地下広場にあるエスカレーター。時間によって色が変わります

通路を抜けると、ホーム階に続く階段とエスカレーターが見えてきます。

ホーム階に続く階段とエスカレーター

下の写真は、通路にある発車標(列車の発車時刻を示す案内板)です。右側に表示された時刻は、日本の鉄道のような24時間表記ではなく、午前・午後の12時間表記となっています。

駅にある発車標

■ 駅が通り抜ける「通過式」の駅

②の「線路が『通過式』である」も、この駅の大きな特徴です。

グランドセントラル駅は、すべての列車が折り返す「行き止まり式」です。東京で言えば、上野駅の地平ホーム(13〜17番)の構造に似ています。

いっぽうペンシルベニア駅は、列車が通り抜ける「通過式」です。東京で言えば、東京駅の山手線・京浜東北線・東海道線のホーム(3〜10番)の構造に似ています。

ホーム階には、21本の線路と11面のホームがあり、1日約600本の列車が発着しています。

北東回廊を走る「メトロライナー」

このホームで発着する列車の代表例には、「アセラ・エクスプレス」があります。これは、アメリカで唯一の高速列車(最高速度240km/h)で、ボストン・ニューヨーク・ワシントンD.C.を結んでいます。このルートは、アメリカでもとくに輸送需要が高く、「北東回廊」とも呼ばれています。

つまり、この駅は、アメリカの大動脈の途中にある巨大駅なのです。

■ この街の「素顔」が見える?

ペンシルベニア駅にあるのは、合理的に設計された地下空間のみです。グランドセントラル駅にある華やかさや、派手な装飾、他国の文化を引用した形跡はありません。

それゆえ、インテリアデザインにおいては「つまらない駅」だと思う方もいるかもしれません。

しかし、この駅は街の縮図です。地下鉄の駅とも直結する交通の結節点なので、平日は毎日60万人以上(2019年)の人が利用しています。それゆえ、都市の特徴がここに凝縮されています。

ニューヨークは、多種多様な人種の人々が混在して暮らす都市なので、「人種のるつぼ」や「人種のサラダボウル」とも呼ばれます。この駅で多方面から人が集まる人々の姿を眺めると、そのことを実感します。

ここには、観光客が集まるタイムズスクエアやエンパイアステートビルでは見ることができない、多民族が共存する社会の日常風景があります。

その点においては、ニューヨークの「素顔」に迫れる駅と言えるでしょう。

ニューヨークを訪れた際には、ペンシルベニア駅に立ち寄ってみてはいかがでしょうか? 観光地ではわからない、この街のリアルに接することができるかもしれませんよ。

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川辺謙一@交通技術ライター
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