【連載再開!】悩み のち 晴れ!Sideサヨコ(ライトブルー・バード第3部&FINAL《5》)
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《1》
「あー、面倒くさっ!!」
デスクワーク中の小暮サヨコが無意識に発した言葉は、平日昼下がりのスタッフルームに思い切り響き渡った。
「……サヨコさん、お疲れのようで」
同じ空間にいたのは休憩中の白井ケイイチ。参考書から目を離した彼は、苦笑いをしながらサヨコに労いの視線を向ける。
「あ、驚かせちゃってゴメン。心の声がうっかり駄々漏れしちまったよ」
そう言って自分の頭をコツンと叩き、サヨコは視線をパソコンへ戻す。
「大丈夫ですよ。僕も一応サラリーマンをやっていたので、サヨコさんお気持ちは解っているつもりです」
「お前……いいヤツだな」
「大変ですよね。例えムチャ振りでも、業務命令に拒否権はないんですから……」
ケイイチは昔を思い出したのか、顔をしかめて溜め息をつく。
「確かに業務命令が関係しているけど、今回は上からの圧力が理由じゃないんだよ。あ、ちなみにさ、拒否権ならワタシはバリバリ連発しているぜwwww でなきゃメンタルがおかしくなっちまうじゃん」
「……さ、さすがサヨコさん」
「圧力は『上から』じゃなくて『横から』だな。……とは言っても、実はまだ何も起きてはいないんだけど……」
「?」
「………なぁケイイチ、ちょっとワタシの愚痴聞いてくれるか?」
サヨコはキーボードから指を離し、椅子に座ったままで思い切り背伸びをした。
「えっ? えぇ、僕で良ければ」
「サンキュ。ワタシが悩んでいるのは『GESS』の件なんだよ。先々週あたりのインフォメーションファイルに載っていた内容は読んだよな?」
「えぇ、いわゆる『おもてなし』に特化したポジションでしたよね?」
『GESS』とはGuest Experience Star Stuffの略だ。
サービスクオリティの向上を目的として、『全店に1人以上、このポジションを設置するように』と本店から通達が来ており、現場のマネージャーがその候補を推薦することになっていた。
ある程度のカタチと場所が決まってるカウンタースタッフとは違い、GESSはホール内の全てが仕事範囲だ。お客様からの声が一番届きやすく、時には自分から働きかけるような接客スキルも必要とされるだろう。
「制服がカッコいいですよね。男女共通の赤いジャケットが都会のレストランみたいだな……って思いました。そういえばインフォメーションを見ていた高校生が『私も着てみたい』って言っていましたよ」
新制服は単独で見ると『ファストフード店』というよりは『お洒落なレストラン』のイメージに近いかもしれない。しかし、一般スタッフに交ざって働いても、GESSが一人だけ浮くようなスタイルではないことは確かだった。その辺りは計算してプロがデザインしたのだろう。
「来週の水曜日までに推薦状送らなくちゃいけないんだよね。まあ、既に決めてはいるけど……」
「ちなみに誰を?」
「マナカ」
「えっ? 今泉さん!? 適性に異論はありませんが、彼女は高2で、来年『卒店』ですよね? 活動期間は短いのに大丈夫なんですか? 学校と仕事の合間に研修をするとしたら、2、3ヶ月はかかるでしょうし、実質数ヶ月しか……」
「その数ヶ月の間にマナカは最高の仕事をしてくれるとワタシは信じているからね」
「まあ、それは僕も同意です。彼女は頑張り屋ですから」
「きっと『第1号』に高校生を推薦するなんて、ウチの店舗くらいだろうな。でもさ、何事もスタートが肝心なんだよ。これから第2、第3のGESSが続くのは間違いないんだから、しっかりとした『足跡』を残せるようなスタッフを推薦したい」
「本店が人件費の『コスパ』を、どう判断するかが不安ですが、僕はその考えには全面的に賛成です。『第1号』がいい仕事をすれば、GESSの価値は上がるでしょうから。更にお客様がこの店の仕事に興味を持つきっかけになって、人材確保に繋がるかもしれません。……で、サヨコさん、そこまでしっかりと考えているのに、一体何を悩んでいるんですか?」
その疑問によって、サヨコは苦虫を噛み潰したような表情に変わった。
「いるだろ?『サヨコさんはいつも今泉さんばかり贔屓するんだからっ!』っていうヤツが……」
「あっ……」
ケイイチの顔がひきつる。
浅野ユリ!!
彼女は普段からマナカを目の敵にしている女子高生スタッフだ。何かにつけて過剰反応をするから、さすがのサヨコも頭を抱えている状態。
『ザ・女子』であるユリと、群れた行動を嫌うマナカの関係は、もはや水と油……。
更にユリは大学生バイトだった荒川ヒロキに熱を上げていたことがあったが、彼が可愛がっていたのは、他でもないマナカだった。ユリの嫉妬心が最高潮まで達してしまったことは言うまでもないだろう。
「絶対に反発すると思わないか?」
「…………はい」
「GESSのこと考えていると、もれなく架空のユリが文句を言ってくるんだよ。まあ、実際にそうなったとしても、直接の文句ならばワタシは受けて立つよ。だけどさ、一番やっかいなのは、他の女子スタッフを巻き込むことなんだよな。『いいコぶりっ子』っていう力業ワード使って……。贔屓じゃないんだよ。やる気のあるスタッフに対して、更に活躍できる場所を提供するだけなのに……」
「本当に……やっかいですね」
「マナカの立場が心配だし、そんな小娘一人の嫉妬に振り回されている自分も情けないと思う」
そう言って大きなため息をちくサヨコ。
「浅野さんが今泉さんに当たりが強い原因は、僕にもありますよね……」
ケイイチは天井を見上げる。
「ケイイチ、そこは気にすんな」
ヒロキが退職した後、ユリが次に夢中になった男子はケイイチだった。そして今回はストレートに告白もしている。まあ、その場で見事にフラれてしまったのだが……。これで諦めるかと思いきや、ケイイチを見つめるユリの視線に、恋愛感情が残っているのは、誰の目から見ても明らかだった。
ケイイチが一番可愛がっているのは星名リュウヘイだが、マナカとも仲がいい。そしてリュウヘイに勉強を教えるついでに、マナカに英会話を教えることもある。ユリにとってはそれが面白くないらしいのだ。
「もしもトラブルが軽減するなら、僕がゲイだってカミングアウトしても構わないんですよ。本当は」
ケイイチは女性に恋愛感情を持ったことがない。彼が想っているのは、同性の幼馴染みである土居ユウスケだけ……。
「いやいやケイイチ、そこまでは……」
ちなみにこの事情を知っているのは、サヨコ一人だけだ。
「ただ……それがバレたら、今度はリュウくんに好奇の目が集まるでしょうから、口が裂けても言えませんよ」
ケイイチは肩をすくめた。
「色々フクザツだよな」
「まあ、自分のことは置いといて……。サヨコさん、僕も今泉さんにはGESSで活躍して欲しいと思います。彼女は本当に努力家ですよ。この間も外国人相手にしっかりと会話をしていましたから。さすが『将来は一流ホテルで接客をしたい』って言っていただけありますね」
「あ、お前もその話を聞いたんだ?」
「はい。3人で勉強している時に教えてくれました。両親にすらなかなか言えなかったけど、自分がずっと思い描いていた夢だって……。今泉さんは、本当に接客が大好きなんですね」
「そうなんだよなー。だから余計にマナカに肩入れしてしまうんだよ」
「サヨコさん」
「んっ?」
「浅野さんが不平不満を言うのは避けられないでしょうけど、普段から群れない今泉さんなら大丈夫じゃないですか? 彼女なら将来の勉強も兼ねて、強い気持ちで取り組んでくれると思いますが……」
「……ああ、そうだな」
サヨコの表情から迷いが消える。
そして、机の上にある栄養ドリンクを手に取ると、それを一気に飲み干した。
「あー美味い! よーし! 明日、御本人に直接打診してみるか!!」
《2》
「え!? 私でいいんですか?」
次の日、サヨコはマナカを誰もいないスタッフルームに呼び出し、『ワタシはオマエをウチの店第1号のGESSに推薦しようと思っている』と告げた。
その直後に見せたマナカの表情は、サヨコがほぼ想像していた通りだ。
驚きと戸惑い、しかしその目はキラキラと輝いている。
(やっぱりマナカはGESSに興味があったんだな)
心の中でVサインをするサヨコ。そして「マナカ、オマエがいいんだよ」と言って微笑んだ。
「私……、てっきりフリーターや長時間インしている主婦の方が選ばれると思っていました。私がここにいられるのは、長くても来年の3月までですし……」
「まあ、研修の時間も時給が発生しているから、本店としては、長く働けるスタッフを選べって言うに決まってるよな。でもマナカのお客様に対する姿勢は、大人のスタッフ達に負けていないと思っている。だからワタシはマナカを選んだ。あ、接客担当だからって全てを背負う必要はないからな。例えばクレームが来たら、速やかにマネージャーに取り次げばいいんだから……」
「実は、物凄く興味がありました。制服もカッコいいし……あ、これは不純な動機ですね」
マナカは悪戯っぽく笑う。
「別に不純じゃないよ。それでヤル気がアップするなら、デザイナーも喜ぶ」
「だといいんですが……」
「一緒に頑張ろう? マナカが『GESS第1号のトレーニー』っていうことは、オマエを教えるワタシも初心者トレーナーと同じなんだから。いつものヤル気さえあれば緊張しないでいい」
「はい!!」
マナカの返事がスタッフルーム中に響いた。
「よしっ!」
サヨコが指をパチンと鳴らした。
「でも、やっぱり緊張はしますよ」
「大丈夫だって」
「へぇ、やっぱり今泉さんがGESS候補なんだ!!」
2人しかいないハズのスタッフルームに聞き慣れた別の声が飛び込んできた。
「リュウヘイ!?」
「星名くん!?」
サヨコとマナカの声が重なる。
「あ、お疲れさまです」
ひょっこりと姿を見せたのは星名リュウヘイだった。
「リュウヘイ、何で?」
「へっ? 俺は店長に頼まれて、在庫表のバインダーを取りに……」
「違う違う。ワタシが聞きたいのは、『どうやってここまで来たんだよ?』っていうこと。気配を全く感じなかったんだけど?」
乾物の倉庫も兼ねているスタッフルームへの出入口は、店側と外側の2ヶ所で、どちらも暗証番号入力が必要だ。2つのアルファベットと4桁の数字を押す音は、意外と部屋まで響き、『誰かが入ってくる』という気配を感じ取ることが出来る。
まるでワープでもしたかのように現れたリュウヘイに、2人は驚いた……というワケなのだ。
「ドアが半開きでした。ロックがかかっていなかったんですよ」
「へ?」
聞けば、店側扉が完全に閉まっておらず、飛び出したままのかんぬきがドアストッパーの役目を果たしていたらしい。これが『リュウヘイ、ワープ疑惑』の真相だった。
「サヨコさん、ごめんなさい。私が扉をちゃんと閉めたか確認しなかったから……」
マナカが頭を下げる。
「いや、ドアがポンコツなのが原因だ。それにしても聞いてしまったのがリュウヘイで良かったよ」
サヨコが机の上のバインダーをリュウヘイに手渡しながら言った。「リュウヘイ、GESSのことは、まだ誰にも言うなよ」と付け加えながら……。
「はーい。それにしても今泉さん、良かったね。この店で今泉さんが一番GESSに相応しいと思っていたから、俺もメチャクチャ嬉しい。じゃ、失礼しましたー」
リュウヘイはそう言い残して、スタッフルームを後にした。今度はキチンとドアがロックされたようだ。
マナカの頬に別の赤みが追加されたのが分る。
(……全くよぉ、マナカを褒めてる口があるなら、さっさと告白もしちまえよ)
マナカに見つからないように、サヨコはクスッと笑った。
マナカとリュウヘイ……。この2人は、実質両想いだ。
初めはリュウヘイの片想いだったが、一緒に働くうちに、どんどん仲が良くなってきたようだった。ただし『トモダチとして』だったが。
しかしストーカー事件を経て、マナカも彼を異性として意識するようになった。最近は『スキ歴』の短いマナカの方が、うっかりと表情に出してしまうことが多い。
(まあ、この店で気づいているのは、ワタシとケイイチだけのハズだが……)
しかし2人共『相手には既に想い人がいる』と勘違いをしている。
マナカが好きなのは、今でもヒロキだと思い込んでいるリュウヘイと、リュウヘイのウソを真に受けてしまい、彼には中学時代から好きな女の子がいると信じてしまったマナカ……。
(2人ともおバカで可愛いけどな)
本人たちに真実を伝えるのは簡単だ。しかしサヨコはそれは違うと思っている。2人が2人のペースで確実に距離を縮めていくのが理想だろう。
「マナカ、GESSになったら、その記念として、リュウヘイに告白しちまえば?」
それでも『外野』として、こんな風にからかってはしまうけど。
「えっ!? えっ!? えっ!?」
案の定、目を丸くして挙動不審になるマナカ。そしてこの後に続く言葉は『サ、サヨコさん、何で知っているんですか!?』のハズだとサヨコは予想していた。
しかし己を取り戻した後のマナカの返事は、サヨコ超意外過ぎた。
「……ハイ……あ、あのぉ……ちょっと考えてみます」
「………………………………えっ?」
今度は自分が目を丸くする番だった。
《3》
マネージャー歴8年のサヨコ。しかし今回、GESSの研修を進める自分は、トレーナーであると同時にトレーニーであると思っている。
『前例』となるスタッフがいるのといないとでは、教える側としての心の準備はかなり違ってくるだろう。
多忙な身ではあったが、サヨコはGESSの資料を読み込むだけでは終わらず、自分なりに『咀嚼』しながら、トレーニングの勉強を進めていた。
だからヤル気のあるスタッフと一緒に頑張りたかった。
(正直、マナカしか考えられなかったもんな)
そして……
「マナカ、頑張ろうな」
「はい、サヨコさん」
渋るかもしれないと予想していた本店からの許可があっけなく下りたことで、サヨコとマナカの『二人三脚』が始まったのだ。
研修は座学から始まった。
企業理念や顧客心理、そして接客マナーの総復習など、取り組まなければならない課題は山積みだ。それが終わると、今度は実際にあった過去のトラブルを例に挙げながら『こんな時はどう対応するのか』をディスカッション形式で行う。
研修時間の確保は案外難しい。マナカとサヨコがインしている時間帯の中で、店舗の混み具合を予想しつつ、他のスタッフたちの状況も考慮しなければいけないのだから。おそらく週2時間が限界のハズ……。
ちなみにマナカの『GESSデビュー』は来年度のGWを予定している。それまで最終研修である実践演習終了に間に合うかどうかは、2人の頑張り次第だ。
柄にもなく、少々プレッシャーを感じてしまったサヨコだったが、そんな不安は研修1日目に吹っ飛んだ。
マナカは渡されたプログラムの全ページに目を通していただけでなく、大事な箇所や疑問のある部分にアンダーラインを引いて、自分なりの見解を書き加えていた。
「すげぇなマナカ。でも、こっちに時間を割きすぎて、学校の勉強が大丈夫かな?って心配になってきたんだけど……」
勿論、まだ高校生ということもあり、考えが迷走してしまうこともあるが、それでもこの『手応え』は、サヨコの予想をはるかに上回っていた。
マナカはキラキラした表情でこう言った。
「私、この本を開いていると、ワクワクして、つい時間を忘れてしまうんです」
…………と。
だから2週間後にマナカの口からこんな言葉が出るなんて、サヨコは夢にも思っていなかった。
「サヨコさん、実は私……GESSを辞退したいんです」
どんなに嫌なことがあっても笑顔で仕事をしていたマナカ。そんな彼女が深刻な顔をしていただけでも驚きなのに……。
「ど、どうした!? マナカ!?」
ボールペンを投げ出して、サヨコはマナカの側に駆け寄る。
「…………プレッシャーを感じてきました。私には無理だって」
「ウソだよね!? あんなに楽しそうに勉強してたじゃん」
マナカのキラキラした瞳、シャーペンでびっしり書きこまれた本。サヨコはそれを思い出しながらマナカに詰め寄る。
「ごめんなさいっ!!」
マナカは、これ以上曲げることが出来ないだろう…という角度で頭を下げた。
「……………」
「サヨコさんの貴重な時間を無駄にしてごめんなさい。こんな失礼なことをして、このまま店にいられるとは思っていません。だから私、今入っているシフトを終えたら、退職させて頂きます」
「……………マナカ?」
意味が…………解らなかった。
《4》
世の中には無責任に仕事を放り出す人間は山ほどいる。ここは門戸が広めの飲食関係なので、そんな輩にはしょっ中遭遇していた。
サヨコが可愛いと思っている学生たちも然り。残念ながら仕事を舐めているヤツは一定数存在する。
『お盆期間は毎日インできます!』と言いながら8月中旬に全く連絡が取れなくなった子、トモダチが『一緒に辞めよう』と言ってきたから2人仲良く残りのシフトを放棄した子……思い出せばキリがない。
マナカは……絶対にマナカは違うと思っていた。いや、今でも違うと思っている。だからあの後、サヨコはマナカの予定シフト全てに✕印をつけ、『今はとにかく休め! 話し合いはそれからだ!!』と言って、現時点の退職だけはストップさせた。
来るものはある程度選ぶが、去るものは追わない。それがマネージャーであるサヨコの方針だ。『またマナカだけを特別扱いしている』と、ブーイングを受けそうだが、この件に関しては何とでも言え!と思う。
あれは絶対にマナカの本心ではない。
泣きながら首を縦に振ったマナカの態度が何よりの証拠だ。
(……一体何があったんだ?)
おそらく本人から聞き出すのは無理だろう。それを口にすることで、マナカの傷口に塩を塗る可能性が高い。
(だからってなぁ……この後どうすればいいんだろ)
仕事をしていても、マナカのことが頭から離れない。しかしそれは意外なルートから発覚することになった。
それはピークタイムが過ぎた日曜日の昼下がり……。
「サヨコさん、大変です!」
休憩中だった高校生スタッフのサホが店舗に飛び込んで来た。
「どうした? サホ」
「あのぉ、星名くんが急に私たちにキレ出して……今、ユリとケンカしているんです」
「はっ!? リュウヘイが!?」
リュウヘイはバカだが、温厚で優しいヤツだ。そのリュウヘイに『キレる』というワードは結びつなかい。
(もう何がナンだか……)
サホと共にスタッフルームへとダッシュするサヨコ。
扉の暗証番号を押し、中に入った途端、リュウヘイの怒号が耳へと入る。
「だから『満足か!?』って聞いているんだよ!? 今泉さんに嫉妬する資格のないヤツらがガンクビ揃えて、ワケの分からねーデマで追い詰めて!!』」
(今泉さん? 嫉妬? デマ?)
散りばめられたワードによって、ケンカの背景はすぐに分かった。
「ウチのお姉ちゃんが言っていたことを今泉さんに質問しただけで、なんで『追い詰めた』なんて言われなきゃいけないのっ!?」
「浅野さんの口から出た以上、それは自分自身の言葉でしょ!? 分が悪くなったら、『元々は私が言ったことじゃないから』って責任転嫁するワケ!? 俺から言わせれば、浅野さんが話の『大元』を自分から遠ざければ遠ざけるほど、悪質さが倍増されていると思うんだけど!? ……ってか、そもそも『イイ子ぶりっ子が気に入らない』って何!? 給料が発生しているんだから、イイ子で仕事するのは当たり前なんだよ!!」
「………………」
強気な態度を取っているものの、ユリの心の中は今、驚きでいっぱいに違いない。彼女はサヨコに弄られてヘラヘラしているリュウヘイしか知らないハズだから。
(まあ、ワタシだって時々『リリュウヘイ、実はバカのフリをしているだけじゃね?』って思うことがあるからな)
そんなことを考えながら、サヨコは2人の間に割って入る。
「リュウヘイ、ユリ、そこまでだ。今の口論で大体の背景は把握した。……ユリ、マナカとの間で何かがあったんだな? 誤解があるなら先にユリから話を聞く。もしも当たっていたなら、リュウヘイ……オマエが何に対してキレたのか教えてくれ」
うつむくユリ、一方リュウヘイは唇を噛みながらも、意を決したような目をサヨコに向ける。
「コイツら……『今泉さんのせいで荒川さんが彼女と別れた』って言ったらしいんです」
「えっ!?」
やはり退職はマナカの本心ではなかった。その部分にはホッとしたが、それを知らせてくれたのは、更に面倒な問題だったことに気が付く。
(……一難去らずにまた一難)
サヨコは小さな溜め息をついた。
《6》に続きます
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