「渋江抽斎」を読んで自己肯定感が高まった
森鴎外の「渋江抽斎」を読んだ。
渋江抽斎は江戸末期の医師である。
本筋とは関係ないが、この人の次男が放蕩息子なのだ。
ツケで遊んで、支払いを親族や知り合いにさせる。
支払いができなくなるとどこかに蒸発してしまう。
そんなことばかりしているので、困った父親の抽斎は自宅に座敷牢をこさえた。
今度次男が帰ってきたら閉じ込めるという。
むかしの人はクレイジーだ。
座敷牢は使われずにしまった。
次男が戻ってくる前に、自宅もろとも倒壊したのである。
安政の大地震が起こったのだ。
次男は運がよい。
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次男は芸能の才能があって、観劇三昧の結果、役者のものまねが上手になった。
そしてものまね芸人として寄席の舞台にたった。
また舟を借りて、ものまね興行を開催したりもした。
これまた武士としては大問題である。
他の侍はこっそり役者をしたせいで勤め先をくびになっている。
父親の渋江抽斎も実は劇を見るのが好きである。
あるとき抽斎が目見以上に昇進した。
目見以上になると将軍に謁見できる。
その際、エラい人から、これからは劇場に行かないほうがいい(銭湯もダメ)とアドバイスを受けた。
江戸時代、劇はかなり下品なものとされていたようだ。
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明治維新が起こった。
次男坊は紆余曲折のすえ、公務員になることに成功する。
あそび仲間が先に公務員になっていて、推薦してもらうのだ。
そうしたら情が厚いのと書道がうまいのとで才能を表した。
のみならず、昔取った杵柄で、新聞に劇の批評を載せる。
鴎外によれば新聞の劇評のパイオニアだという。
鶏鳴狗盗の故事にもあるとおり、人みな才能を持っていて、どこで役立つかはわからないものである。
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飯の記録、2025/1/6より再開予定