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大江健三郎の映画化、待っていますよ
井上 隆史の『大江健三郎論 ~怪物作家の「本当ノ事」~』を読んだ。
わくわくした。
これは新書の皮をかぶった小説・大江健三郎だと思った。
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タイトルの"本当ノ事”とは、「万延元年のフットボール」に出てくるセリフだ。
本作で、主人公の弟のたかしくんは、
「ぼくは本当のことを言ったぞ!」
というようなことを書き残し、猟銃で自分の頭を吹き飛ばす。
コワイ!
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「本当のこと」というのは小説的なギミックではなく、大江健三郎のなかに存在していた!
そして、大江は本当のことを言うために小説を書いてきたのだ!
というのが本書の主張である。
そして彼は晩年になってついに成し遂げる。
「水死」という小説で、本当のことを言えたのである。
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たかしくんは本当のことをいうのに命を捨てる必要があった。
「本当のこと」というのは、それぐらい莫大なコストを支払わなければ言えないヤバい代物なのだ。
よって大江も本当のことを軽々とは言えない。
それどころか「万延元年のフットボール」で本当のことにかなり肉薄した後、「どうしよっかな、もう本当のことを言うの、諦めよっかな…」みたいな気持ちになってしまう。
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クライマックスは中年から老境に差し掛かった大江である。
中年になった大江は分別がつき、社会的地位もできて、世間一般のおじさんのように日和見的な気持ちになっていた。
このまま、書きやすい小説を書いて、人生を逃げ切ろうかな。
そんな、甘い気持ちにもなった。
ところが事件が起こる。
なんとノーベル賞を取ってしまったのだ。
これは評価ではなく、世間の期待である。
日和ってんじゃねえぞ健三郎、言っちまえよ、本当のことを。
みんなの声が聞こえる。
大江はそう受け取った。
そして肚をくくった。
よし、もう一度、本当のことをいうための努力を再開するぞ。
再起の意思表明として、「あいまいな日本の私」を発表するのだった。
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肚をくくっただけですぐに本当のことを言えるはずもない。
彼はあいも変わらずくよくよしながら、本当のことのまわりでぐるぐる周りの悪戦苦闘を繰り返した。
実際、本当のことをいうのに決意後20年以上かかったのである。
偉大であり、また人間らしくもある。
私は大江健三郎が愛おしくなった。
と同時に反省した。
この本を読むまでは、彼を単なる変態性欲の人だと思っていたのだ。
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映画化まったなしである。
ぜひ若めの俳優に演じてもらいたい。
本書の大江健三郎は、本質的に青春の人なのだ。
あ、本当のことってのがなんなのかってのは、本書に書いてあります。
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