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温泉地に生まれて
家から車で30分ほど走ると、日帰りでも楽しめる温泉宿が10以上、小さいのも含めればもしかすると20近くのお湯が楽しめる恵まれた温泉地がある。
実家からも、エリアは違うけど同じくらいの距離に温泉があったので、子どもの頃から温泉はかなり身近なものだった。
だから、家族や友人とは「ちょっと今日行く?」くらいのノリで温泉に行っていたし、常にお風呂セットを車に積んでいる友人も珍しくなかった。
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ところが大学で東京に出た私は、温泉というのが豪華なアクティビティであり、デートの花形であるということを知る。
小さなカルチャーショックだった。
温泉の日帰り入浴という文化も一般的なものではなく、そこは都会らしく、銭湯やスパ施設が担っていた。
「温泉に行く=温泉地へのちょっと豪華な観光旅行」というのが、温泉地育ちじゃない人たちの感覚だと学んだ。
それまでは、温泉は嫌いじゃないけど家のお風呂でも気持ちいいし、わざわざお風呂のために出かけるのは面倒だなくらいに思っていた節があったので、私はとても贅沢な環境で育ってきたことにも気付かされた。
(でも地元民ってそういうものだよね。)
ちなみに現在、日帰り入浴は場所にもよるけど平均800円/人くらいかな。
安いと驚かれるけど、昔はもっと安かった。5-600円くらい。
たぶん私が生まれる前はもっと安かったかも。
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おそらく温泉地に暮らす人たちは、それぞれにお気に入り・行きつけのお湯というのがあるのだけど、私たち夫婦にもよく行く温泉がある。
(日帰りか泊まりかでも行き先が変わる)
日帰りでよく利用するのは、華やかさはなく、どちらかというとちょっと古びていて、観光客より地元民(特にじっちゃんばっちゃん)の方が多く利用するようなところ。
ここ5年くらい気に入って通っていた日帰り温泉が閉業してしまったため、一時はジプシーになるかと危ぶまれたが、結局どこにもそれなりの良さがあるので、いつもそこまで混んでいない行きやすい場所に落ち着いた。
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とある休日。
熱めの内湯に浸かり、露天風呂に出ると、この時期の外気はまだ暖かくてなんだかぼんやりする。日射しも強い。
露天風呂はやっぱ雪の積もる寒い時期が好きだな。
サウナをゆるく往復し、また熱いお湯に短く浸かって脱衣所へ。
知らないメーカーの、どデカいわりに風が頼りないドライヤーで髪をほどほどに乾かし、前髪の内側に汗をかきながら外に出る。
夫とはいつも、待ち合わせをしなくても、どういうわけかだいたい同じタイミングであがってくる。
それから閑散としたロビーのソファーで少し休んでから、真夏と真冬以外は、しばらく窓を全開にして山道を走る。
この時の風はすこぶる気持ちいい。
ただでさえお店や娯楽が少ない田舎の、さらに山の中にある温泉地となると立ち寄るところも数えるほどで、観光客ならまだしも、何度も通う地元民にとってはわざわざ寄りたい場所もない。
大抵は、そのままスーパーで買い物をして(もちろんすっぴんである)、家に帰ってビールを飲んだり、ためていた録画を見たり、まあいつも通りな休日を思い思いに過ごす。
温泉地に住む人たちにとっての温泉って、たぶんそれくらいだと思う。
日常の、一コマ。
でも、飽きるということはなくて、日帰りでも温泉に行くとなるとワクワクするし、水圧を感じるほどだっぷりとしたお湯に全身をのばして入るのは最高に気持ちいい。
ああ、また行きたくなってきた。
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年を重ねるごとに温泉や温泉街の雰囲気というのが大好きになってきている。
国内旅行を計画すると、どうしても各地の温泉宿に泊まりたくなる。
話題のおしゃれなホテルより、ラグジュアリーな宿より、歴史とそこに住まう人たちの営みを感じる、なんならちょっと寂れた感さえある温泉街の、個人でやっているようなこじんまりした宿に圧倒的に惹かれてしまう。
とはいえ私の地元がそうであるように、全国の温泉街や小さな温泉宿は、いくら観光に活気が戻ってきたとて、ゆるやかに衰退の一途にあるようだ。
もちろんいつまでも続いてほしい。日本の温泉・風呂にまつわる文化はとても個性的で貴重なものだし。
だからこそ、行けるうちに行っておきたいという思いも増す。
未来に残したいもの、私たちの世代はどれだけ残すことができるんだろうな。
なんてことを、温泉から考えた。