アーサー・マッケン『パンの大神』感想
電子書籍にて、アマゾンキンドルのサブスクリプションで読みました。出版しているのは、BOOKS桜鈴堂なるインディーズレーベルです。
アマゾンにある説明によれば、
『BOOKS桜鈴堂は、「本好きの、本好きによる、本好きのための本」をモットーに、英米古典文学の隠れた名作たちを電子書籍として紹介する、電子出版のインディーズレーベルです』
とあります。
アーサー・マッケンは20世紀初頭に活躍した作家で、クトゥルフ神話体系のラブクラフトにも影響を与え、高く評価されています。
アーサー・マッケンの本は他の出版社でも出ています。従来型の紙の本の出版社からです。
今回読んだ『パンの大神(おおかみ)』の訳は、読みやすかったです。インディーズレーベルですが、新たに訳して出しているそうです。原文と比較してみないと正確な評価は出来ないのでしょうが、とても自然な分かりやすい日本語訳でしたね。
さて、内容はというと、引き取って育てた孤児の娘の脳に手術をして、禁断の能力を目覚めさせてしまった後の恐ろしい出来事を書いた物語です。分類としては怪奇小説となります。
その後、ヘレンという名の怪しげな美女が名前を変えて各地に現れ、人々を不幸で不自然な死へと導きます。
その謎を追う三人の男たち。
謎の美女は大変美しいが、 同時に忌(いま)わしさをも感じさせる。数々の人々を悲惨な最期へと追いやる。それを止める手立てはあるのか?
そして結末へ。
書かれた当時、あるいは現代でも、アーサー・マッケンのいたイギリスではよく知られていた事が、あえて説明はされていないようで、少しだけ分かりにくい箇所もあります。
しかし全体的によく出来た怪奇小説でした。程よく不気味で、品のある怖さや世界観の奥行きを感じさせる演出、なかなか素晴らしい1篇でした。
悲惨な目に遭った人々が具体的にどのような目にあったのか、明記はされていません。美女の背後にいる、恐ろしい太古の神の正体も最後まではっきりとはさせません。
それだけに想像を働かせる余地があるのです。
キリスト教以前の古代の神を恐れる状況は、ラブクラフトの小説とも似ています。影響を受けたとされるのも分かりますね。
ただ、ラブクラフトに比べると押し出しの強さはなく、淡々としています。たぶん、登場人物たちに冷静さがあるからだと思います。
また、異教の神を『邪悪と断ずる』から、『畏敬の念を感じる』までにグラデーションがあるとすると、アーサー・マッケンのはラブクラフトのよりは畏敬寄りに感じられます。
これは作家としての個性の違いですが、イギリスとアメリカ、国民性の違いもあるのかなと思いましたね。
なかなか良かったです!
あまり日本では知られていない古典的な名作を紹介する試みをしてくださっている、インディーズレーベルの桜鈴堂BOOKSさんに感謝。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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