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2021年12月の記事一覧
復讐の女神ネフィアル 第1作目『ネフィアルの微笑』 第1話
マガジンにまとめてあります。
暗い灰色ばかりが視界に入る街がある。ジェナーシア共和国の中部に位置する、大きな河川沿いの街だ。
河川には様々な舟が行き交い、人々や物を流れに乗せて運ぶ。大抵は商用だが、単なる楽しみのために旅する者も少ないが全くいないわけではない。
街の名は《暗灰色の町ベイルン》。見た目そのままだ。街の建造物や河に掛かる橋、道の全ての石畳も、暗い灰色だけの街であった。
復讐の女神ネフィアル 第5作目『愚かな商人』 第6話(最終話)
再び、ライアスからもらった護符から放たれる水流でキバリノ神官を撃つ。水流はみずみずしい青として空(くう)を流れる。
最深部に来るまでに、護符の力が再充填されていた。無制限に使えるのではないがかなり強力な護符、それも積極的な力を持つタリズマン系の物だ。
キバリノ神官が二体の魔族に《治癒》の神技を掛ける前に撃つ。先に撃つのは、魔族でなくキバリノ神官でなければならない。
キバリノ神官は自らが張
復讐の女神ネフィアル 第5作目『愚かな商人』 第5話
「出してあげてもいいわ。飛び切りよく効くのをね」
キバリノ神官は艶やかに笑う。余裕を見せようと考えてもいるのだろう、とアルトゥールは思う。
「いいや、けっこうだ。それより聞きたいことがある。答えてくれるなら、だが」
羽ばたきは聞こえなくなった。どこに消えたか、潜(ひそ)んでいるかは分からない。
この時アルトゥールは、昔に友人から言われた言葉と、自分が返した言葉を思い出していた。
──君は
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第4話
奥へと進んでいくとやがて、外で見た青銅の見事な両開きの扉と同じ物が見えた。
奥から詠唱が聞こえる。リーシアンは言った。
「ここを去る前に聞いたのと同じだな。まさかずっと続けていたのか」
アルトゥールは答えた。
「あれからまた半日も経ってはいない。それくらいやれるさ」
「お前もか?」
「もちろん。何となれば三日くらいは不眠不休で出来る」
「へえ、そりゃすげえな。で、あの女は何のために?」
「言
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第3話
キバリノ神官の怒りは予測していたので、アルトゥールの《防護》は間に合った。青い光は薄い防護膜となる。アルトゥールの前に立つリーシアンの盾になった。
《衝撃》を受けて青い光の防護膜はたわむ。リーシアンは大斧を構える。巨大な刃の戦斧。
刃を支えるのは、太い頑丈な、樅(もみ)の木の柄(つか)。北の地の樹林の木。いくつもの、呪術の印が刻み込まれていた。
再度キバリノ神官が神技を使う。また弾かれる。
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第2話
「一つだけここで約束してくれ」
北の地の戦士はアルトゥールに言う。
「何だ」
他に漏(も)らせない密約でも結んだか。ネフィアルの若き神官はそう思ったが、返ってきた答えは意外なものだった。
「俺は、ヴィルマが守っているこの店の女主人から依頼を受けている。ただヴィルマに会いに来たわけじゃない。女主人が言うにはな、この街の地下に《法の国》時代の遺跡が残っている。それを探し当てて来てくれと言われたのさ
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第1話
アルトゥールは、以前訪れた街に来ていた。アリストの街である。本拠地にしている街からは乗り合い馬車で七日過ぎた場所だ。
アルトゥールはここに依頼を受けて来たのだった。
街の中心を走る大通りから、一本脇にそれるとそこには小規模な商家の並びとなる。瑞々しさと落ち着きのある空気が流れる場所とアルトゥールには思えた。その瑞々しさは流れる空気の『色』であり、匂いでもある。それぞれの店に手の込んだ設(しつ
復讐の女神ネフィアル 第4作目 『孤島の怨霊』 第5話(最終話)
三人は、はしごを上ってさらに上の階に出た。
そこもまた、見事な風景であった。
三人は、山の上にあって天高く流れる星の川を見上げていた。煌(きら)めく星々の夜空はどこまでも澄み切っていて高く高く。
「美しい」
思わずアルトゥールも声を上げた。そんなに大きな声ではない。
「凄えな。これも幻、なのか」
「ああ、おそらくは」
二人とも感心して見上げながらも、警戒は怠(おこた)らない。
「私が杖
復讐の女神ネフィアル 第4作目 『孤島の怨霊』 第4話
アルトゥールとしては舌打ちしたくもなる状況だった。完全に油断していたわけではないだろうが、リーシアンは炎を避けられなかった。
ここで北の地の戦士を責めるつもりはない。個人的な友誼(ゆうぎ)の他にも理由はある。今もこれから先も、この戦士は貴重な戦力であり味方なのだ。死んでもらっては困る。これは冷たい打算のようであるが、実のところは戦士の実力や気質を信頼しているからでもある。
アルトゥールは咄
復讐の女神ネフィアル 第4作目 『孤島の怨霊』 第3話
「分かってるさ、これでもお前とはそれなりには長い付き合いだ」
リーシアンはあっさりそう言った。
「しかしこいつはな、単なる威力や便利さだけの問題でもねえんだ」
「その話も前に聞いた」
アルトゥールは、今度はクレアの杖にも《強化》の《神技》を使う。
「後にしてくれ。それどころじゃない」
それでもリーシアンは止めなかった。
「聞けよ、高みを目指す魂は確かに高みへと上(のぼ)ったが、高みにたどり着
復讐の女神ネフィアル 第4作目 『孤島の怨霊』 第2話
アルトゥールが壁の中に入っていくと、そこには赤い空の上だった。雲もまた茜色(あかねいろ)に染まっている。その茜色の雲の上に出た。今、その上に乗っていた。
「どうなっているんだ。そこは本当に、あの雲の上なのか?」
背後からリーシアンの声が聞こえる。
「さすがに雲の上に乗るのは無理みたいだな」
「おいおい、じゃあどうやって先に進むんだよ? 《法の国》にはお前の方が詳(くわ)しいはずだ。何とかしろよ
復讐の女神ネフィアル 第4作目 『孤島の怨霊』 第1話
その湖の真ん中に、一つの小さな島がある。全体に草木が生い茂り、歩く道さえも今はない。島の真ん中に、《法の国》末期の遺跡が残っていた。
一行はそこに舟で渡った。渡し守は壮年の女であった。渡し守は言った。めったにあの島に渡る人はいない、自分は岸辺から岸辺へと人を運ぶ仕事をしているだけなのだと。
アルトゥールは、子爵令嬢クレアと北の地から来た戦士リーシアンと共に、渡し舟に乗り込んでいた。島に
復讐の女神ネフィアル 第3作目『美女トリアンテの肖像』 第7話
一方、こちらは魔女ルードラと対峙するアルトゥール。
「これから先、僕が信じる通りにすればするだけ、女神信仰は広がっていく。その時、過去の轍を踏まないためにどうしてもしなければならないことがある」
「ほう、何をすると言うんだ? 言っておくが、その女の手助け無しでわらわには勝てぬぞ」
「手助けはある」
そう告げて、ここに残ったネフィアル神官の青年は、ローブの内側から小瓶を取り出し、すぐさま中身
復讐の女神ネフィアル 第3作目『美女トリアンテの肖像』 第6話
その一瞬の疑念が湧いたスキを狙い定めたかのように、ルードラの魔法がアルトゥールの精神に侵入した。
ヴァインアールの神技も、それを妨げられなかった。
ルードラの過去。四百年前、まだ幼い少女であった頃。
過去の幻影の中の少女は美しくも愛らしくもなかった。今見る姿からは想像も出来ない。今の姿は魔法によって作り出された美であり、生まれ付いてのものではないのだ。その幻影の中でそう知らされた。