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大河ドラマに見る、俳優の成長と役柄の重厚さ

大河ドラマの魅力は、俳優が例えば10代から50代までの幅広い年齢を1年という枠の中で演じ分ける点や、俳優自身の個性と役柄の「違い」を表現する力にあると感じる。

大河ドラマは、視聴者として俳優の演技の幅を楽しめる作品だ。たとえどれだけメイクで壮年風に見せても、演技や雰囲気が若々しいままでは、役に求められる重厚感が損なわれてしまう。

例えば、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、多くのキャラクターが無冠・無名の若者として登場し、年を重ねるにつれ役職を得て年相応の重厚さが備わっていく様子が描かれ、その成長が物語の魅力を引き立てていた。(私が三谷幸喜さんの脚本が好きであることも影響している。)特に、小栗旬さんが演じた北条義時役や、中川大志さんが演じた畠山役は、年を重ねるごとにその変化が明確に表現されていた。特に中川さんの、年老いた男性の魅力を感じさせる演技が素晴らしく、30代の中川さんが演じているとは思えないほどの円熟した雰囲気を醸し出していた。 

一方、2023年の大河ドラマ『どうする家康』では、過去に観た『葵 徳川三代』の影響で「家康役」への期待が高かったせいか、松本潤さん演じる家康はどれだけ年を重ねても内面的な成長が感じられず、少し残念に思った。周囲の俳優たちの演技は素晴らしかったものの、多くの俳優が年相応の内面的な変化を表現しきれていない点が惜しく、もし演技に、役の年齢に応じた深みが加われば、さらに良い作品になったかもしれない。メイクや話し方に頼るだけでは物足りないと感じる部分があった。 

話は逸れるが、三谷脚本の大河ドラマ『新撰組!』で中村獅童さんが演じた役についても触れたいと思う。彼は「太鼓持ち」で頼りなげなキャラクターを演じ、その弱々しさに驚いたが、『鎌倉殿の13人』では冷徹で不気味な人物を見事に演じ、演技の幅に感銘を受けた。

また、大河ドラマでは「若手が主役なら、周囲を演技力のあるベテラン俳優で固める」、「名優が主役なら演技力のある若手を配置する」というバランスが理想的だ。特に『篤姫』ではこの構成が顕著だったが、時代が進むにつれ名優たちが年を重ね、引退していくことには寂しさも感じる。

2024年の大河『光る君へ』では、道長役の俳優が見た目も内面も年相応に老けた演技を見せており、非常に良いと思う。しかし私の中では『鎌倉殿の13人』で小栗旬さんが演じた北条義時が、若い頃から壮年までを見事に演じ分けたことに匹敵するものはまだないと感じる。

また、道長の娘・彰子役の俳優さんの「演技」と「本人」とのギャップにも驚かされ、若手ながらその才能を感じた。登場時、藤原彰子は無口で何事にも反応できない様子が病的に見えたが、吉高由里子さん演じる「紫式部」には本音を語るようになり、その演技が非常に印象的だった。特番で彰子役の俳優が「彰子の内面の揺れを表現した」と語っており、その背景を知ることで役への理解が深まった。

吉高由里子さんについては、好みが分かれるようだ。彼女の独特な個性や演技スタイルについて、私は共感を覚えるが、夫は少し苦手なようだ。私が彼女を好きな理由は、「我の強さ」、「不思議さ」、「奔放さ」に共感し、「鬱屈し、素直になれない悩みを抱える」面に自分と似た一面を感じるからだ。今回の吉高さんの役柄は、「若い女性、母親、教師、人生の先輩」という多面的な役どころで、年を重ねる難しさが感じられる。

また、ロバートの秋山さんも初出演ながら見事な演技を見せ、はまり役だと思う。さらに、道長が次第に政治に染まり、政治家としての人柄に変わる様子が、人は役割によって形成されていくものだと考えさせられた。

藤原詮子役の山田羊さんも素晴らしい演技を見せている。「私は単に御前のためを思って」と語る場面や、自分の未熟さを父や環境のせいにする姿が人間味に溢れており、印象的だった。

大河ドラマの魅力は、登場人物が年を重ねることで俳優の演技の幅が試され、物語全体の重厚感が俳優の成長と共に描かれるところにある。脚本だけでは語りきれない魅力がある。


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