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①脳疲労の教科書:58を超える科学データですべて解決!あなたの心の疲労を99%解消する9つの科学的なテクニックとは?
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まえがき
脳疲労は万病のもと——脳のオーバーヒートは鬱病への第一歩⁉︎
脳疲労は万病のもと。
脳の疲れは心の疲れ。心の疲れは鬱の始まり。
気の使いすぎは精神疲労を原因とした脳のオーバーヒートにつながり、やがてうつ病を始めとした精神疾患の罹患へと影響するかもしれない——
ここで1つあなたに質問させてください。近ごろ次のように感じることはありませんか?
「なにか特別なことしたわけじゃないのに、どうしてか1日じゅう頭がボーッとする。ただスマホでSNS眺めてるだけなのに……」
「近ごろ、仕事中のケアレスミスが増えた。作業に集中できないことも多いし、まるで頭にモヤがかかったみたい……なんでだろ?」
これらはいずれも脳疲労の症状です。
Johansson, B., Starmark, A., Berglund, P., Rödholm, M., & Rönnbäck, L. (2010). A self-assessment questionnaire for mental fatigue and related symptoms after neurological disorders and injuries. Brain Injury, 24(1), 2–12.
とりわけ、思考力の低下は多くの方に見られる主症状なのだそう。
脳疲労が溜まってくると、風邪を引いたときのように頭がボーッとしてきます。まるで高熱を出したときのように、頭がズシンと重たくなってくるのです。
あなたも1度は、このような経験をしたことがありませんか?
脳の疲れが積み重なると集中力や仕事効率の低下につながるほか、ひとによっては下痢や便秘といった身体的な症状が生じることも。
Mental fatigue and impaired cognitive function after an acquired brain injury. Axel Jonasson et al. Brain Behav. 2018 Aug.
じっさいに、脳疲労を原因とした自律神経の乱れによって、日中の眠気や倦怠感などの精神的な症状に留まらず、胃腸の活動にまで悪影響が出る可能性があるのだそうです。
いずれにせよ、そのまま放っておくには少々やっかいかもしれません。
ちなみに、学術的には『精神疲労』と表現するのが適切で、脳疲労という言葉は医学用語ではないのだとか。『脳疲労』は世間一般で使われる俗称なんですね。
こまかい言葉の定義は置いといて、脳の疲れは心の病気につながるリスクがあります。
とりわけ、脳のキャパオーバーによって生じる鬱病は、昨今では現代病と言われるほどメジャーな精神疾患となっており、今日も精神的な不調を訴えて精神科・心療内科の門を叩く人が後を絶ちません。
あなたが「ここ最近、なんか頭がボーッとする……」と感じているのは決して気のせいではありません。
現代はかつてないほど、脳に負荷がかかるような社会構造になっています。
ネットニュースしかり、SNSのタイムラインしかり。
今日ほど大量の情報が飛び交う環境は過去どの時代にもなく、また同時に現代ほど神経をすり減らすようなストレス社会はなかったでしょう。
もちろん、時代ごとに大変な思いをされた方は数多くいらっしゃることと思います。
しかし、現代人が受ける情報ストレスは過去どの時代よりも異質なものとなっているはずです。
これはあくまで一説に過ぎないものの、現代を生きる人たちが触れる1日あたりの情報量は、8〜12世紀の平安時代に生きた人たちの一生分に相当するのだそう。
このことを踏まえると、いかに現代人が日ごろ大量の情報に触れているかが分かりますね。
あまりにも大量の情報は脳が処理しきれません。
意識的に何か対策を取るでもしないかぎり、私たちの脳は情報の洪水に溺れてしまいます。
ネットニュースやSNSの流し見は、その一例と言えるかもしれません。
先にネタバレさせて頂くと、ほとんどの脳疲労は自律神経の使い過ぎによって生じます。
たとえるなら、鉄を叩き過ぎることによって金属疲労が生じるようなものでしょうか。
ここで1つ想像してみてください。
鉄を叩き過ぎれば金属疲労を起こすのと同じように、自律神経もまた使い過ぎると神経疲労を起こします。
金属の同じ箇所ばかりを叩いたり曲げたりを繰り返していると、やがて金属疲労が生じてパキッと割れやすくなってしまうもの。
どんなに硬い金属も繰り返されるストレスには耐えられません。
私たちの脳もまたコレと同じように、何度も繰り返し神経にストレスを与え続けていると、やがて金属がパキッと割れるように心がポキっと折れてしまいます。
となれば、過熱した脳はしっかりと冷やしてあげる必要がありそうです。
脳疲労という熱を取り除くには脳の負担を軽くしてあげることにより、溜まりに溜まった熱を頭のなかから外に逃してあげる必要があります。
これからご紹介するいくつかの科学的な方法が、必ずやあなたをサポートしてくれることでしょう。
マルチタスクは脳疲労のもと——シングルタスクが知的作業の救世主に?
とりわけ、マルチタスクは脳疲労のもとかもしれません。
Modality-specific effects of mental fatigue in multitasking. 2022. Marie Mueckstein, Stephan Heinzel, et al.
というのも、ひとつの作業にガッと集中するシングルタスクとは違って、いっぺんに複数の作業をおこなうマルチタスクでは注意力が分散します。
言ってみれば、これは複数の部屋の電気を点けっぱなしにしているようなもの。
これでは電気代がかかって仕方ありません。しっかりと節電しなきゃですね〜?
のちに詳しくお話ししますが、いちどに複数の知的作業をおこなうさいには、脳の前のほうにある『前頭前野』というエリアに過剰な負荷がかかます。
タスクを切り替えるたびに『注意資源』と呼ばれるリソースがより多く消費され、結果的に脳への負担も増加するため精神的な疲労が溜まっていってしまうのです。
これは脳疲労の蓄積に他なりません。
Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., & Evans, J. E. (2001). Executive control of cognitive processes in task switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), 763–797. Task switching. 2003. Stephen Monsell.
かんたんに言うと、マルチタスクは脳内エネルギーを必要以上に浪費してしまうのです。「マルチタスク=心の浪費家」とも言えるでしょうか。
脳の主なエネルギー源たるグルコースは、決して無限に供給されるわけではありません。
近所のスーパーやデパートなどの棚に並べられた商品よろしく、ブドウ糖の脳内在庫も数に限りがあるようです。
マルチタスクによって作業ごとに頭を切り替えるたび、限りある注意資源が湯水のように消費されていきます。
タスクの切り替え時には自律神経を始めとした神経が使用されますから、ニューロンの使い過ぎは脳疲労の蓄積という形であらわれることでしょう。
Ampel, B. C., Muraven, M., & McNay, E. C. (2018). Mental work requires physical energy: Self-control is neither exception nor exceptional. Frontiers in Psychology, 9, Article 1005.
ひるがえって、脳に疲労を溜め込まない人はシングルタスクが大変お上手です。
彼ら/彼女らの脳はマルチタスク的な働き方をしていません。
いっぺんに複数の作業をこなすマルチタスク的な仕事の仕方ではなく、ひとつの作業を終わらせてから次の作業に取り掛かるシングルタスクが前提です。
したがって、はた目には一度に色んな作業をやっているように見えても、じっさいには1つひとつの仕事に集中して取り組んでいます。
作業ごとに目の前のことに全集中して仕事に取りかかっているため、終業を迎えても仕事終わりにジムに行って汗を流すような余裕があります。
もちろん、1日の終わりにグッタリと疲れて何もしたくなくなるようなことはまずありません。
シングルタスクによる自律神経の節約こそ、脳に疲労を溜め込まない上手な働き方です。わぁ、うらやましい〜(羨)。
しかし一方で、誰もがシングルタスクの達人になれないのもまた事実。
とりわけ、会社では作業中に上司や部下から声をかけられることも多いでしょうから、どれだけ自分で気を付けてはいても自然とマルチタスク的な働き方になってしまうもの。
集団生活では何かとシングルタスクを妨げる要素が多いものですよね。
そこで本書では、できるだけ脳に疲労を溜め込まないための科学的な方法として、以下に示す9つの要素それぞれを詳しく解説させていただきます。
▼脳疲労を蓄積させないために……
①シングルタスクを徹底
②呼吸瞑想を習慣にする
③部屋の室温を一定に保つ
④あらかじめ知的作業に慣れておく
⑤適度に外に出て運動する機会をもうける
⑥日頃から質の良い睡眠とお昼寝の時間を取る
⑦普段の食事で鶏肉や柑橘類などをより多く食べる
⑧作業の合間にスマホでSNSやネットニュースを見ない
⑨マイナスな感情を生むイヤな人との関わりはできるだけ避ける
以上9つの要素のうち、特別なものは何もありません。あなたの日頃の心がけ次第で何とかなるものばかりを揃えました。
これら9つのうち1つでもおこなえば脳疲労をグッと抑えられますし、すべてコンプリートできたら疲労感と無縁の日々が送れることでしょう。
まずは自分にできそうなもの1つをピックアップしてみて、あなたなりに日々の生活に落とし込むのがいいかもしれませんね。
ただし、一気に全部やろうとすると大変です。
となれば、階段を一段ずつのぼるように脳疲労対策を1つずつモノにしていって、気付いたときには多くのことができるようになっていた——というのが理想的です。
なにも急ぐことはありません。あまり焦らず1つずつ確実にこなしていきましょうね。
まずは、脳疲労を引き起こす自律神経の乱れと併せて、作業疲れを避けるためのシングルタスクについてお話ししていきましょう。
第1章:シングルタスクが脳疲労を減らす?
あなたの脳に疲労という毒を溜め込む『マルチタスク』の問題とは?
マルチタスクは毒です。
いっぺんに複数の作業を同時におこなうことは、あなたの脳をドッと疲れさせるに違いありません。
ひるがえって、シングルタスクは脳の疲れに効くお薬です。ひとつ1つの作業に集中して取り組むシングルタスクこそ、脳疲労の軽減に役立つ科学的な処方箋だと言えるでしょう。
冒頭でも少しだけお話ししたとおり、マルチタスクが脳内の注意資源をより多く浪費する一方で、シングルタスクはより効率的にグルコースを始めとしたエネルギーを消費します。
通常、脳の主要なエネルギー源はブドウ糖です。
集中が切れてきたときに甘いものを摂ると元気が湧いてくるのは、不足ぎみだったグルコースが血液を通じて脳へと補給されるから。
たとえば、糖分が足りていないと誰しも怒りっぽくなるものですが、レモネードを飲むとイライラが和らぐことが科学的に証明されています。
これは糖分が補給されることで脳が本来の働きを取り戻し、前頭前野を中心とした各領域が再び息を吹き返すからです。疲れてるときって、ついつい甘いものが欲しくなっちゃいますよね。
Low glucose relates to greater aggression in married couples. Brad J Bushman et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014.
Acute hypoglycemia impairs executive cognitive function in adults with and without type 1 diabetes. 2013. Alex J Graveling, Ian J Deary, et al.
Glucose facilitation of cognitive performance in healthy young adults: examination of the influence of fast-duration, time of day and pre-consumption plasma glucose levels. 2001. S I Sünram-Lea, J K Foster, et al.
前頭前野は脳の司令塔。
とりわけ、知的作業をするさいに最も酷使される領域の1つです。
じっさいに、作業を別の作業にスイッチするときには前頭前野が活動し、私たちが仕事をスムーズに切り替えられるよう機能してくれます。
言ってみれば、この脳領域は脳という部屋の電気のオン/オフを切り替えるスイッチのようなものでしょうか。どの部屋の電気を点灯させるかは前頭前野さんの気分次第です(?)。
ひるがえって、マルチタスクをおこなうときは通常時よりも前頭前野が酷使されるため、シングルタスクのときと比べて脳疲労が溜まりやすくなってしまうもの。
金属の同じところを叩きすぎると金属疲労を起こしてしまうのと同じように、脳もまた同じ領域ばかりを使っていると神経疲労を起こしてしまうでしょう。前頭前野についてもコレと同じことが言えます。
マルチタスクによる「作業の切り替えコスト」が脳疲労を蓄積させる⁉︎
マルチタスクが作業効率や脳の疲労を悪化させてしまうのは、目の前の作業をしているときも別の作業のことを考えるからです。
むむっ、どういうことでしょうか?(謎)
私たち人間の脳には『ワーキング・メモリー』と呼ばれる機能があります。
言ってみれば、ワーキング・メモリーは一時お預かり場のようなもので、外から入ってきた情報を一時的に保管するときに使われる機能です。
この脳の機能については、情報という荷物を預けるための脳内保管所と理解すると分かりやすいかもしれません。「ワーキング・メモリー=記憶の脳内保管所」です。
この機能は前頭前野の働きによって生み出されているため、この脳領域がマルチタスクによってあまりにも酷使されると、当然ながらワーキング・メモリーの働きも低下してしまいます。
グルコースを始めとした脳内のエネルギーは決して無限ではありませんから、節約しながら使わないとあっという間に資源が枯渇してしまうことでしょう。
ワーキング・メモリーの機能を担う前頭前野についてもコレと同じことが言えます。
ひるがえって、シングルタスク時はワーキング・メモリーの働きを目の前の作業にのみ集中投下できます。
マルチタスク時は脳内保管所で働く人たち(?)が大慌てですが、ひとりのお客さんからの荷物を預かるだけならシンプルでしょう。
たとえるなら、シングルタスクは1人ひとりの顧客に丁寧に対応する優良企業のようなものです。わぁ、私もこんな会社に勤めてみたぁ〜い(羨)。
さておき、ここで1つ想像してみてください。
色んなところから荷物が預けられる保管所は、ほとんど休むことなく毎日ずっと大忙しです。
しかし、お客さんがきちんと一列に並んで荷物を順番に預けてくれるなら、顧客情報を1つひとつ丁寧に処理できて仕事もはかどることでしょう。これは脳という組織を動かすに当たって、とっても大きなメリットになるはずです。
たとえるなら、マルチタスクは脳内保管所にお客さんが押し寄せているようなものですから、ワーキング・メモリーという従業員がフル稼働で働きっぱなしになってしまいます。
これではリーダー役を務める前頭前野も休むヒマがありません。まるで、従業員全員ずっと稼働しっぱなしのブラック企業さながらですね。こんな会社では働きたくありません。
脳の働き方改革——シングルタスク社は脳内作業員に優しいホワイト企業?
ひるがえって、シングルタスクでは従業員の仕事が明確です。
目の前の作業に1つずつ取り組めばいいので、いっぺんに大量の荷物を預けてくるお客さんに悩まされることも、従業員を休みなく働かせるブラック経営者にこき使われることもありません。
わがシングルタスク社は世界に誇れる超優良ホワイト企業でございますのよ〜っ(?)。
茶番は置いといて、シングルタスクが脳疲労の軽減に効果的なのは、前頭前野という働き手の仕事がシンプル化されているからです。
マルチタスクではワーキング・メモリーという従業員の仕事が煩雑化していますが、シングルタスクでは1つひとつの作業に集中して取り組む環境がととのっています。
お客さんもきちんと一列に並んで情報という荷物を預けてくれるため、脳内保管所としてのワーキング・メモリーもパンクせずに済むでしょう。
いちどに色んな方向から大量の顧客情報が流れ込んできては処理が大変ですから、従業員第一主義のシングルタスク社では働き手に優しい取り組みがなされています。
もちろん、仕事が終わった後も心地よい疲労感があります。われらがシングルタスク社は、従業員フレンドリーな会社として有名なのです。
おそらく、従業員同士でジムや飲み会に行くだけの心の余裕もあることでしょう。私もこのような優良企業でのびのびと働きたいものです。あれれ、今そういう話してましたっけ?(すっとぼけ)
まぁ、それはいいとして。
マルチタスクは自律神経の敵——切り替えコストがあなたの脳を疲れさせる……
マルチタスクが脳疲労を悪化させることについては、おおよそなんとなくイメージできましたでしょうか。
すべての基本はシングルタスクにあります。
前頭前野は作業時だけでなくストレスに対処するときにも働きますから、この脳領域を酷使すると自律神経の働きにまで悪影響をもたらすでしょう。
前頭前野は脳の司令塔であると同時にタスク切り替えの役目も担っているので、マルチタスクよろしく頻繁に作業がスイッチするとほとほと疲れてしまいます。
脳内のチームリーダーたる前頭前野に余裕のある働き方をしてもらえば、脳全体としても疲れの溜まりにくい労働環境がととのえられるはずです。私たちの働きかた改革はシングルタスクから始まります。
ひるがえって、自律神経は切り替えに非常に弱い。とくにマルチタスクは最大の敵と言ってもいいでしょう。
自律神経は交感神経と副交感神経を交互に切り替えつつ全体のバランスを保ちますが、あまりにも両神経の切り替えが頻繁すぎると金属疲労よろしく疲れきってしまいます。
これと同じように、いちどに複数の作業を同時並行して進めるマルチタスクでは、脳内の一時保管所であるワーキング・メモリーが働きっぱなしになるので、おのずと前頭前野チームリーダーから交感神経に「ずっと働いてて!」と指令が出るでしょう。
まことに残念ながら、これで晴れて脳内ブラック職場の誕生です(?)。
マルチタスクでは別の作業のことを頭の片隅に置いておかなければいけませんから、ワーキング・メモリーを主とした前頭前野が働きっぱなしの状態になってしまいます。
大量の情報が脳内保管所に押し寄せられるような状態では、従業員ひとり当たりにかかる作業負担も相当なものでしょう。きっと交感神経という裏方の従業員もまた、忙し過ぎて目が回りそうになっているはず。
シングルタスクによる働きかた改革を新規導入して、従業員の作業負担を和らげてあげたいところですね。
騒音もマルチタスクの温床。あなたの職場はうるさくありませんか?
ところで、騒音もマルチタスクを生む原因の1つです。
マルチタスクというと複数の作業を同時並行で進めることをイメージするかもしませんが、仕事中に外から聞こえてくる工事の音や電車の走行音などの騒音もまた脳の負担になります。
さて、これは一体どういうことでしょうか?
想像してみてください。
今あなたは窓越しに電車の走行音が聞こえてくる職場で働いています。駅チカの会社に多い職場環境かもしれませんね。
電車が通過するたびにガタンゴトンと轟音にも似た走行音が鳴りひびいて、パソコンとにらめっこしているときも騒音のせいで度々集中が途切れます。
言ってみれば、あなたの脳が作業と騒音の両方に気を取られているのです。これでは仕事に集中しようがありません。そう思いませんか?
音がうるさいと気が散って、勉強や仕事に集中できない。
読書に集中したいのに近所の工事の音に気を取られ、どれだけ読んでも本の内容が全く頭に入ってこない。読書の効率も上がらないまま、ただただ時間だけが過ぎていく——
きっと誰もが一度くらいは、このような経験をことがあると思います。
もちろん、人によっては「多少ノイズがあったほうが集中できる」という場合もあるでしょう。無音だとかえって落ち着かない方もいらっしゃることと思います。
ただ一方で、度が過ぎた騒音が脳にとってストレスとなるのは間違いありません。
じっさいに、うるさい音は学習効率を下げることが分かっていますから、騒音ストレスがあなたの脳をマルチタスクにしているのは自明です。マルチタスクの魔の手は『耳』からもやって来ます。
Does noise affect learning? A short review on noise effects on cognitive performance in children. 2013. Maria Klatte, Kirstin Bergström, et al.
このような音がうるさい騒音環境では、興奮をうながす交感神経が働きっぱなし。となれば、たとえ休憩中でデスクから離れていたとしても脳が休むヒマがありません。
交感神経は騒音というストレスに対処するために、あなたが意識していなくともずっと働き続けます。これは先ほどからお伝えしている金属疲労と同じような状況ですから、ずぅっと働き続けてきた交感神経はやがて疲れ果ててしまうでしょう。
おなじ箇所ばっかりを叩き続けていると鉄がバキッと割れてしまうように、おなじ神経ばかりを使い続けていると心もまたポキっと折れてしまいます。
心の金属疲労は騒音ストレスによっても引き起こされるでしょう。私自身、仕事中は耳栓を付けて騒音対策をしています。耳栓によって音に集中をジャマされるのを防いでいるのですね。
騒音ストレスは交感神経を過剰に働かせるのと同時に、脳に負荷をかけるマルチタスクの状況を生み出します。
音に気を取られている状態では勉強や仕事がはかどらないうえ、自律神経が興奮しっぱなしで交感神経も休むヒマがありません。
となれば、おのずと脳疲労もとい精神疲労も溜まりやすくなってしまうことでしょう。騒音被害は心の被害へとつながります。
参考になるか分かりませんが、私が駅の近くに住んでいた頃は騒音が仕事の妨げになっていました。駅チカに住まいをお持ちの方は少なからず経験がおありかもしれませんね。
駅チカのマンションは便利ですが、騒音というデメリットもあります。
窓を開けっぱなしにしていると轟音にも似た走行音が部屋の中に入ってくるため、私は朝方や夜間など電車が通過していないときを見計らって窓を開けていました。
そのマンションに住んでいたのは1年くらいの短い期間でしたが、騒音被害が仕事の妨げになるのだと身をもって体験したものです。私もう2度と線路沿いの家には住みませぇーんっ(※確固たる意思)。
騒音ストレスによる学習効率の低下——うるさい環境のせいで頭が悪くなる?
すでにお話ししたとおり、騒音環境では学習効率も低下します。
恐らくですが、音に気を取られて勉強に集中できなくなるのでしょう。図書室のように静かな環境ならいざ知らず、周りがうるさいと気が散ってしまいますよね。
2008年のデータでも明らかにされている通り、騒音から来るストレスには「慣れ」が生じにくいようですから、近くで頻繁に工事が行われるような職場環境では仕事効率も低下します。
自動車による交通騒音は不安障害への罹患リスクを悪化させるほどの由々しき問題です。避けて通るに越したことはありません。
Autonomic arousals related to traffic noise during sleep Barbara Griefahn, Peter Bröde, Anke Marks, Mathias Basner. 2008.
Transportation noise exposure and anxiety: A systematic review and meta-analysis. 2020. Yuliang Lan, Hannah Roberts, Mei-Po Kwan, Marco Helbich.
とりわけ、近くに空港があるなどして日常的に飛行機やヘリなどの騒音に悩まされる場合では、うつ病に罹患する割合が平均で12%も悪化することが分かっているのだそうです。騒音のせいでいかに交感神経が働きっぱなしになっているかが理解できますね。
ちなみに、騒音の上限は75dBくらいなのだそう。この数値を上回ると騒音被害による悪影響が懸念されるため、耳栓やイヤーマフなどで何らかの対策を取ることが望まれます。
言ってみれば、騒音ストレスは心と脳を蝕む毒みたいなもの。ストレスは『耳』からやってくる場合もあるのでご注意くださいませね〜?
Janice Hegewald, Melanie Schubert, et al. Traffic Noise and Mental Health: A Systematic Review and Meta-Analysis. August 2020 International Journal of Environmental Research and Public Health 17(17):6175.
Risk of noise-induced hearing loss due to recreational sound: Review and recommendations. Richard L Neitzel et al. J Acoust Soc Am. 2019 Nov.
もちろん、騒音以外にもマルチタスクにつながるものは数多くあります。たとえば、のちにお話しする『イヤな人との人間関係』もまたマルチタスクの温床です。
ともかく、交感神経の使いっぱなしは脳疲労の蓄積を引き起こします。精神的な疲労は雪が降り積もるようにだんだんと積み重なっていくため、雪かきをするのと同じく定期的に疲労を取りのぞく必要がありそうです。
放っておいたら脳疲労という雪の蓄積で家がぺしゃんこになってしまうため、頭の中に積もった黒い雪には精神衛生上ご退場いただかなければいけません。
言ってみれば、脳疲労の解消は脳内に積もった雪を雪かきで取り除くようなものです。科学的な方法をもって、あなたの心に雪が積もる前に除去しちゃいましょう。
『多動力』は脳疲労のもと——ひとつの作業を終わらせてから次の作業に!
脳疲労解消の第1歩は、シングルタスクの徹底にあります。
ビジネスシーンにおいて、はたから見ると1度に多くの仕事をこなしているように見える場合でも、じつは仕事がデキる人ほど目の前の作業ひとつひとつに集中して取り組んでいるもの。
たとえば、日本では一時期『多動力』という言葉が流行りましたね。しかし、このフレーズは決してマルチタスクを推奨するものではありません。
むしろ、シングルタスクの積み重ねこそ多くの仕事をこなすための鍵で、複数の作業を同時に進めるマルチタスクはかえって作業効率を下げてしまいます。いい仕事の基本はシングルタスクにあります。
シングルタスクを徹底することで、交感神経にも休むヒマが出来ます。となれば、マルチタスクと比べて自律神経のスイッチングもスムーズにできるでしょう。
たとえるなら、交感神経の使いっぱなしは部屋の電気を点けっぱなしにしているようなものですから、脳の電気代とも言えるグルコースの消費もシングルタスク時と比べて大きくなってしまいます。
脳内の電気代を節約するには1つの作業を終えてから次の仕事に取り組む必要があるため、交感神経に休む時間を与えるシングルタスクこそコスト削減の第1歩だと言えるでしょう。
節約上手なママさんよろしく、脳に優しい節約家を目指したいところですね。
ところで、ながら作業は典型的なマルチタスクの一種。
日頃、スマホを観ながら食事をとっていらっしゃる方も少なくないと思いますが、脳疲労の軽減という意味では、いちどに複数のことに取り組む『ながら作業』は御法度です。
現在の社会状況をかんがみると、なかなか1つの作業に集中するのは難しいかとは思います。
しかし、日常に潜んでいるマルチタスクを避けるためには、洗い物をするときは洗い物にだけ集中するよう意識する必要があるかもしれません。
『ながら作業』もマルチタスクの1つ——歩きスマホで脳をイジメてませんか?
たとえば、私も「掃除のときは掃除だけ」「読書のときは読書だけ」といったように、ながら作業で脳をマルチタスクにしないよう日頃からできるだけ注意しています。
ひょっとしたら、シングルタスクは脳に優しい暮らしの第一歩なのかもしれませんね?
もちろん、時にはどぉ〜しても誘惑に負けてしまうこともありますが、食事中はスマホやタブレットを遠ざけて動画などを観ないようにしています。
たまにはSNSのフィードやタイムラインから離れちゃって、食事にだけ集中する時間をもうけてもいいかもしれませんね。シングルタスクのトレーニングは日常の中にあふれています。
ちなみに、歩きスマホもマルチタスクの一種です。
今まさに「ドキッ」とした方も多いのではないでしょうか。自身の歩きスマホに心当たりのある方も少なからずいらっしゃることでしょう。えぇ、私のことです(自戒)。
さておき、ここで1つウニを想像してみてください。
放射状に飛び出した黒いトゲが特徴的なあのウニです。日本のお寿司でもよくネタにされる高級食材の1つですね。
ウニのトゲのように放射状に突き出たものこそ、歩きスマホをしているときのあなたの注意力です。
ウニの中心部分——あなたの手元にあるスマホに大半の注意が向いている一方、ほかの通行人にぶつかったりしないよう四方八方に意識が向いているでしょう。
先ほどご紹介した「ながら作業」と同じく、これもまた典型的なマルチタスクの1つです。歩きスマホは注意力がウニのトゲのように分散している状態に他なりません。
このような状況では、脳はずっと手元のスマホ以外のところにも気を配っている状態になりますから、ながら作業よろしくマルチタスクによる交感神経の過活動につながることと推測できます。
不幸なことに、歩きスマホのせいで起きる接触事故も少なくないようですから、歩いているときは歩くことに集中するシングルタスクがオススメです。
もちろん、シングルタスクはワーキング・メモリーの助けにもなります。
過去に発表されたいくつかの研究データが示すとおり、ワーキング・メモリーの働きによって1度に覚えていられるのは、せいぜい3〜5個くらいのチャンク(=情報のかたまり)なのだそうです。
ひとことで言うと、4±1がワーキング・メモリーの限界です。
Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97.
Baddeley, A. (2007). Working memory, thought, and action. Oxford University Press.
Cowan, N. (2001). The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87–185.
となれば、マルチタスクよろしくあまりにも多くの情報を頭の中に詰め込もうとすると、おのずと「あれ、私いま何しようとしてたんだっけ……?」という事態に直面する機会が増えてしまいます。
ワーキング・メモリーで覚えられることにも限界がありますから、脳にあまり負担をかけないのが上手な働き方と言えるかもしれません。脳内の働き方改革はワーキング・メモリーへの気遣いから始まります。
付箋やメモがワーキング・メモリーへの負荷を和らげる特効薬に⁉︎
たとえば、私は脳に負荷をかけないために付箋をよく使います。
自宅には常に付箋を6〜7つほどストックしてあるので、もうちょっと数を増やせば付箋屋さんをオープンできますね。できません。
さておき、付箋に覚えておくべき内容を書き出しておけば、仕事中もワーキング・メモリーに負担をかけずに済みます。
ワーキング・メモリーへの過剰な負担は脳の使いっぱなしにもつながりますから、ちゃんと交感神経に休むヒマを与えるという意味でも付箋の利用がオススメです。
言ってみれば、ふせんで頭の中にある記憶を外部化するようなものですから、ペンで書き出すことによって必要以上にワーキング・メモリーを使わずに済みます。
もちろん、メモ用紙に1日の仕事スケジュールを書き出すことによっても、ふせんと同じように脳内にある記憶を外部化する効果が得られるでしょう。
参考になるか分かりませんが、私は1日のうちに複数の作業をこなさなければいけない日は、前日の夜のうちにタイムスケジュールを書き出してからベッドに入るようにしています。このおかげで安心して夜もグッスリです。ぐっない(?)。
もし他にも脳の負担を減らす工夫がございましたら、私のほうまで是非ご一報いただけると嬉しく思います。もれなく、この私めが小躍りして喜びますのでね〜?
いずれにせよ、ワーキング・メモリーにかかる負担を軽くして、交感神経の使いっぱなしを防ぐ工夫は数多くあります。
騒音が気になる場合は耳栓を活用するのも1つの手でしょうから、私のように付箋と同じく使い捨て耳栓をストックしておくのもアリ。脳に優しい工夫があなたの脳疲労の軽減につながります。
工事の音や電車の走行音など、ほかのことに気を取られるような環境では脳がマルチタスクになりますから、できるだけシングルタスクで仕事を進められるようなマウンド作りが大切です。
となれば、こうした環境づくりこそシングルタスクの土台とも言えるかもしれません。
とりわけ、呼吸はシングルタスクの真髄です。
ただジッと座って自分の息づかいにのみ集中する呼吸瞑想は、あなたの脳をシングルタスク化させることに役立つでしょう。さて、どういうことでしょうか?
この先では呼吸瞑想と脳疲労との関連についてお話ししていきましょう。
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