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短編小説倉庫

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怪談やSSなどの倉庫です。 ※投稿前にネタ被りがないか一応検索していますが、もし被っていたらすみません
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記事一覧

怪談「顔さがしゲーム」

 メタバースで、少しだけ怖かった思い出。

 自分はよく「シナリオ抜きのネトゲ」と言っているのだが、アバターを選んで、いろいろな人がいる場所に行って、お話しできるゲーム空間がある。映画でいうと「サマーウォーズ」や「竜そば」、「レディプレイヤー1」の世界といえば伝わるだろうか。

 PCだけでも可能だが、VRゴーグルを使えば、まさにその場所にいる感覚が味わえる。遠方の友達との音声通話に慣れていたので

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超短編小説「自白の必勝法」

「刑事さん。自白したら、本当に刑期を短くしてもらえるんですね?」
「ああ、司法取引ってやつだ。だからさっさと被害者の監禁場所を教えるんだ! 誘拐されてもう三日、てめえの言う通り水すらやってねえなら、今日中に死んじまう」

 俺は、今にも嚙みつきそうな中年刑事と目を合わせ、ゆっくりと地名を言った。
「あすこの山はバブル崩壊で放棄された空き家だらけなんでね。俺だってどの建物か覚えちゃいない。適当な家の

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超短編小説「身代わり」

 事故だった。
 揉み合いの末に押したら、バルコニーから落ちてしまった。突き落とすつもりなんかなかったのに。

 手すりから身を乗り出して覗き込んだ、遥か下の花壇には赤い血が広がっている。ぴくりとも動かぬ肉塊になったのは、我らが王子だ。割れてはいけないところが割れていて、遠目に見てもはっきり死んでいると分かる。 

 まるで未来を予言するかのように、自分と瓜二つの死体。顔も服装もまるで同じだ。あえ

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怪談「ブログ執筆依頼」

怪談「ブログ執筆依頼」

Cさんから飲み会で聞いた話。会話はそれっぽく再現してあります。

リモートワーク制にしたら退職者数が何倍にもなったので、うちの会社の上層部は慌てて「在宅勤務を減らそう!」「飲み会を増やそう!」という方向に舵を戻した。
「手取りの少なさが原因だろ」という魂の叫びはさておき、久しぶりに行った飲み会で、Cさんから聞いた話。

中途でうちに来たCさんは、前職を辞めた後、数年無職の期間があったという。貯金を

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怪談「人よけの嘘」

怪談「人よけの嘘」

職場のAさんから聞いた話。会話はそれっぽく再現しています。

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Aさんは東京で就職したが、三十代になって地元にUターンした。
飲み屋でたまたま大学時代の先輩と再会し、お互い釣りが趣味だったのでたいそう話が盛り上がったという。

二人は釣りの約束をし、次の次の週末にはもう海に現地集合していた。夏休みの時期となると人が多い。おまけに土日だ。

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怪談「深夜のASMR」

怪談「深夜のASMR」

「ASMRってご存じですか?」
――焚火の音や石鹸を削る音、耳かきの音なんて有名ですよね。心地いい音のことなんですけど、一時期はまっていたんです。ああいう意味のない音を聞いていると、寝付けないのが治るかなって。

時々見るアルファベットの連なりはそういう意味だったのか、と得心しながら私はうなずいた。
後輩のBさんは無意識なのか、安眠動画について話しながらかりかりと机をひっかいている。

「実際効果

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