超短編小説「自白の必勝法」
「刑事さん。自白したら、本当に刑期を短くしてもらえるんですね?」
「ああ、司法取引ってやつだ。だからさっさと被害者の監禁場所を教えるんだ! 誘拐されてもう三日、てめえの言う通り水すらやってねえなら、今日中に死んじまう」
俺は、今にも嚙みつきそうな中年刑事と目を合わせ、ゆっくりと地名を言った。
「あすこの山はバブル崩壊で放棄された空き家だらけなんでね。俺だってどの建物か覚えちゃいない。適当な家の地下室にポイで、鍵をがちゃり」
罵倒と共に、熊のような刑事が取調室から出て行った。うなだれたふりをして、俺はにやりと笑みを浮かべる。
前々からスパイ映画を見るたびに、拷問の必勝法を考えていた。これは少々うるさいだけの取り調べだが――真実のために痛い思いをするよりも、さっさと嘘の情報を流す方が賢いだろう、と。
この狭い部屋に時計はない。口笛を吹きながら、さらった子供が絶望の中死んでいくところを楽しみに待つ。
あの山は片道二時間だ。刑事も親も、今頃必死に向かっているだろう。まったくの無駄足とは知らないで!
数分後、息を切らした中年刑事が戻ってきた。
「お前の言う通り、別荘の地下室にいたそうだ! まだ生きてると報告が来た!」
「……は? なん、で」
目を見開く。今、なんて言った。
「驚いただろう。もうアタリをつけて、現地の警察が探してたんだ。お前の自白は答え合わせに過ぎなかったんだよ!」
刑事の豪快かつ野卑な笑顔は、演技やハッタリには見えなかった。かあっと腹が熱くなる。
「ありえない、そんなわけねえだろ! よく見ろ別人だ! だってガキは埠頭に隠したんだ、今頃狭くて暗いコンテナの中でみじめに…………」
心臓が跳ねる。
しまった。口が滑った。言っちまった。
「んん? そりゃどういう……?」
愚鈍な中年は首をかしげている。体表に汗をかきながら、誰も聞いていないことを確認するため辺りを見回す。
「はい、自供ありがとうございました〜」
すっと扉の影から出てきたのは、高級そうなスーツを纏った、狐目の若い警官だった。
「港は県内に二つありますが、被害者がいるのは山から最も離れている、南の方でしょう。こういう単純な手合いは、隠しごととは正反対の場所を言うものです」
「この野郎ッ!」
にやにや笑いと柔らかい声で馬鹿にされ、思わず手が出た。が、腰紐の拘束のせいで拳は届かない。
「先輩、さっきまでの報告は全部僕のカンチガイなので、はよ港へ行きましょう」
「お、おいエリート! どういうことなんだ、説明しろ!」
警官二人の足音が遠ざかり、俺はただ叫んだ。机を殴り、壁を蹴ったところで他の警官に止められる。
数時間後、子供の生存と司法取引が無効になった旨を伝えられた。
「クソッ、クソッ、クソがッ——! 取り調べで嘘ついてんじゃねえよ!!」
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