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『乳と卵』読書感想。


「乳と卵」
取り憑かれたように豊胸手術を望む母“巻子と、
ある時から筆談でしかコミュニケーションを取らなくなった娘・緑子。

出産で失ったものを取り戻そうとする母のあり方に、自分さえ産まなければ失わなかっただろうにと思う負い目と、失った代償の方が産まれた自分よりも母にとって大切なのだろうとおもう悔しさとで心が壊れそうになり、
“目がすごいくるしい“くなっている緑子に
母としての視点から一言言いたい。

「違う、違う、そうじゃないのよ。」

産まれた大切な子供と出産で失う代償は全く別軸のもの。

女は欲張りだから、全部欲しいんです。

子供だって大事だし、きれいにだってなりたいでしょう。

私も帝王切開の出産でお腹に傷は残っているし、妊娠中罹患した手根管症候群の指の痺れも未だに消えない。

お腹の傷は消したいし、痺れだって無くせるものならなくしたい。

同じ軸の話じゃないの。

でも子供は想像力豊かだから、大人のちょっとした一言を深読みしてきっと傷ついてしまうんだろうな。

自分だってそうだったし。

思いやりって、案外身近な人には持てていないのかもしれない。

ラストの無精卵をかぶり、親子で咽び泣くシーンが印象的だった。
もし2人とも同じ子宮に入っていて、透明なドロドロの中に包まれて対話できていたら、こんなふうにすれ違うことはなかったのかもしれない。

でも別の肉としてあるからこそ、その反発から閃くような感情が芽生えて、線香花火のような繊細な煌めきが生まれるんだろうな。



「あなたたちの恋愛は瀕死」
直視してしまったら自分が壊れてしまうような現実を無意識化で必死に目を逸らし生きている主人公の女の在り方に、自分を見ているような気持ちになって心が苦しい。

誰もが信じて跳んで成功する訳ではない。

谷底に直下した瀕死の女に生き場所はあるのか。

デパートの化粧品売り場を愛し、書店を毛嫌いする女の感性。

他人の視点を意識せざるを得ない書物というツールを徹底的に嫌悪している。

夢を見せてくれないものは全て悪。

精神と体、外見と内面、全てがちぐはぐで、それでいて共感できる。

何よりもそれが苦しい。


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