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横山佐紀『中高生からの美術館・博物館入門 ミュージアムを知ろう』ぺりかん社

 2020年刊行。タイトル通り中高生向けの本ですが、中高年が読んでも十分面白いと思います。特にこれから学芸員の勉強をしようという人にとって、良い読み物になってくれるかもしれません。

 本書ではミュージアム(ここでは美術館・博物館)の歴史、そして国内・海外の事例を参考にミュージアムの所蔵するコレクションについて、そしてミュージアムの社会的意義についても言及。教育普及に関する記述が駆け足的なのはちょっともったいないですが、ボリュームとしては十分です。

 個人的には、「お手ふれ禁止」の経緯が興味深かったです(pp44-49)。ミュージアムの前身である「驚異の部屋」が一つの部屋に収集品を敷き詰めて「小宇宙」を表現しようとしたのに対し、公教育制度の誕生をきっかけとし、ルーブル美術館では複数の部屋を使った地域別・時代別による展示が行われることとなります。これによって収蔵品が公共財産としての性質を帯びたことで、それらは接触禁止となり、代わって視覚のみに頼った作品鑑賞、そして館内を歩き回ることが要求されることとなります。

【参考】オレ・ウォルムの「驚異の部屋」

 今でこそ接触可能な作品、レプリカ等を使った教育プログラムも登場しておりますが、そもそもなぜ禁止となったのか、あまり考えてこなかったところでもあり、面白かったです。

 そのほか、展覧会の展示を巡る論争も興味深いんですが(5年前の本ですが、トランプ政権の影響を受ける形で、本書に書かれている議論は大きく変動するものと考えられます)、個人的には『退廃芸術展』に興味が沸きました。現代では展覧会そのものを中止・阻止する動きになりやすいのに対し、以前はむしろ批判・差別的文脈で展示していた、という点には興味があります。調べてみると他にもあるようなので、時間があったらちょっと調べてみようかなと思っています。

 様々な職業紹介を行っている、「なるにはBOOKS」シリーズの別巻として刊行された本書。しかし「展示されていないものに注目してみる」(p149)など、その内容は単なるガイドブック的役割を超え、非常に示唆的な内容も含まれております。

 ミュージアム内部、そして周辺で行われている議論を知り、そして考えるヒントを与えてくれる一冊になるのではないでしょうか。





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