『スマグラー』を読む
漫画家・真鍋昌平の初期の作品。短期連載で月刊漫画雑誌『アフタヌーン』に掲載されたとき読み、単行本化してから読み、さらにブックオフで見つけて衝動買いして読み、それを最近再読した。『闇金ウシジマくん』のヒットで誰もが知る漫画家になってしまったが、絵の癖が強いので、それがために消えてしまうことを掲載当時危惧したものだった。余計なお世話だったが。
暴力の描き方、絵画表現において衝撃を受けた。当時まだインターネットが今ほど普及してなかったものの、同じような衝撃を語る人が著名人も含めて多くいたように記憶する。冒頭から、最強存在として登場する二人の殺し屋、背骨と内臓の、仲間割れのシーンである。ほんの数ページだが、「速度」を表現するために、背骨の顔の下半分が省略され、怪異の様相を呈する表現方法が斬新だった。
物語自体は古典的な、青年の成長型ビルディングロマンを踏まえており、安定感があった。物語終盤、中途半端で何事もなすことが出来ず運び屋の手下になり下がった若い主人公と、冷酷だがやけに思惟的な繊細さを持つ殺し屋・内臓との短いやり取りが、読み手の自分の魂を打つ。作者がアフタヌーンの「四季賞」で大賞を獲った『憂鬱すべり台』で、表紙の横に「アフタヌーンドラマ班に強力新人が加わった」と惹起文が載っていたのを、今でも覚えている。その、おそらく編集者が評しただろう惹起文の通りの盤石のストーリーテリングだった。こういう抒情の描き方は、懐かしくもあり、角質多めの鋭利な画調でそれをやられることへの頼もしさが、読者として心地よかった。