海音寺ジョー(涸れ井戸)

超短編小説、短歌、俳句を作ってます。

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最近の記事

『しずく』を読む

 西加奈子さんの短編集である。光文社文庫版。四月に頸椎の手術で入院した時、五冊本を持ち込んだのだが、術後二日ほど経って、入院病棟のロビーのテレビ台の横の収納引き出しに、くたれた本がどかっと入ってあるのを見つけて、その中の一冊がこの文庫だった。表紙がはげたり、濡れて変色してるのもあり、入院患者が次に入院する者の暇つぶしになればと、置いて行ったのだろう。『しずく』は表紙カバーが無かったが、状態は一番ましだったので病室に持って帰って、三日ほどかけて読んだ。  冒頭のは、久しぶりに

    • 『桃』を読む

      作者のヨシダジャックさんに初めて出逢ったのは滋賀の歌人、千原こはぎさんが主催する鳥歌会でだったと記憶する。短歌の評を、物語を語るように滔滔と弁じられるのに惹かれ、それから何年経ったか。 『桃』は小文と短歌の合わさった一冊で、こういうのは何と呼ぶのだろう。詩文集というのだろうか。一昔前のイギリスの絵本風挿絵も、随所にある。それは不思議な国のアリス風であり、自分の読書記憶にさらに寄せるとイタロ・カルヴィーノの『宿命の交わる城』を想起させられる趣向だった。 まずタイトルがあり、

      • 『王立院雲丸の生涯』を読む

        東京の国分寺に住んでいた頃、恋ヶ窪の古本屋で何の気なしに、多分タイトルに惹かれて買い、即読んだ。そして折につけ読み返す漫画。文庫版で全2巻。原作・広井王子、作画・池上遼一。連載第一回分だけ、少年サンデーで読んだ記憶があり、十何年後かに答え合わせをするように物語の顛末を知ることができた。昭和初期を舞台とした冒険活劇で、主人公が進取の気性をもつ快活青年で武道に秀で、少年漫画の主人公として申し分ない、まっとうな魅力がある。舞台が日本、フランス、イギリス、中国、また日本とハイテンポで

        • 『しらふで生きる』を読む

          もともと、新聞で、禁酒成功!との見出しの広告が目に付き、本書の存在を知った。暴飲がちの俳人、中山奈々さんの肝臓を心配し誕生日プレゼントに贈ろうかと購入。しかし内容が極めて特殊で誕プレ向きじゃねー、と即断し今も家の本棚にあるのです。 作者の町田康さんは若いときは町田町蔵という名でパックロックをやっており強烈な無法者イメージが僕の中で育まれてたが、そんな人が酒を断てるのだろうか、という懐疑がやはり念頭にあった。しかし作家として、「くっすん大黒」から着実に作品を書き続けておられ、

          『東京都同情塔』を読む

          図書館の文芸春秋のバックナンバーが返却されてたので、その雑誌掲載バージョンで読んだ。 人を精神性の象徴として描く話より、モノ、物質として描く話の方が、個人的には好きだ。たとえば司馬遼太郎の「彼は感情量が多い人物だった」というような、大根をぶつ切りにするような形容のしかたに好感を持つ。感情って、量ではかれるものなのか?と高校生の時分などはいちいち突っかかった覚えがあるものの、そういう平易な表現なら、誰でもすっと読めるし、わかりやすい。 この作品には登場人物、人間が出てくるが

          『東京都同情塔』を読む

          『スマグラー』を読む

          漫画家・真鍋昌平の初期の作品。短期連載で月刊漫画雑誌『アフタヌーン』に掲載されたとき読み、単行本化してから読み、さらにブックオフで見つけて衝動買いして読み、それを最近再読した。『闇金ウシジマくん』のヒットで誰もが知る漫画家になってしまったが、絵の癖が強いので、それがために消えてしまうことを掲載当時危惧したものだった。余計なお世話だったが。 暴力の描き方、絵画表現において衝撃を受けた。当時まだインターネットが今ほど普及してなかったものの、同じような衝撃を語る人が著名人も含めて

          『スマグラー』を読む

          星合(ほしあひ)

          句会で一点(★)だけ入った句で編んだ連作 星合(ほしあひ)             海音寺ジョー デシャップに顎のせて寝る春近し フェンリルの前肢が避けるいぬふぐり 血行をよくするための八角棒 夜食にはキーマカレーのランチパック ミステリー仕立ての伝記年の暮れ 五十肩揉んで寝返り初御空 女正月犬が吾が背を凝視せり 花信風姪の受験が今日終はる ジャンボーグA(エース)土足で海開き 玉手箱バキバキにして生身魂

          誤算の話

          転職を先月した。昨年末まで働いてた滋賀の老健から、引っ越して京都の特養に移った。理由は家の事情によるものだが、大きな誤算があった。 それは過疎化が進んでる湖北の介護施設よりも、人口増加で確実に需要が大きい京都のベッドタウンの介護施設の方が自然と合理化、進化の度合いが高く、洗練されハイレベルだろうという推測である。 実状は逆だった。これは京都的な内輪で仲よくする排他的な気質、新駅や新道路などのインフラに伴う人口の急増に対して、介護業界や市政のフォローが追い付けてないという現

          『空海の風景』を読む

           司馬遼太郎の書く真言宗の開祖・空海上人の話。  学生の頃、クラブの合宿とか何やらで各地に遠出が多くなったころようやく気づいのだが、全国あっちゃこっちゃの寺の由緒に弘法さんの名が出てくる。これは同時期に文芸学部の民俗学的な授業があって、弘法大師伝説というテーマに触れてくれたこともあり、無宗教のぼくも必然的に気になってた人物であった。  ときどき、司馬遼太郎はいんちき、歴史を捏造しとる、というアンチ司馬遼太郎派に出くわすが、彼らのほとんどは司馬遼太郎の小説を読まずに誰かの受

          『空海の風景』を読む

          『カツカレーみたいに馬鹿で明るい子』を読む

          たろりずむさんの私家版第一句集『カツカレーみたいに馬鹿で明るい子』を読んだ。 たろりずむさんは短歌界に彗星のように現れたと思いきや、ドゴーン・バゴーンと短歌研究新人賞、角川短歌賞といったでかい賞をかすめ、人気の公募や新聞歌壇でも入選を繰り返す謎の人である。少し後から俳句も始められ、俳句四季新人賞の最終候補に残ったり、新聞俳壇や各種公募に採用されまくり、勇名を上げ続ける八面六臂の活躍ぶりである。最新の語彙を駆使する先進的な句会の中でも最先端を行く、高円寺りぼん句会のオンライン

          『カツカレーみたいに馬鹿で明るい子』を読む

          『加藤楸邨の百句』を読む

          四月に頸椎の手術で入院することになり、雑誌『群像』の五月号と手ごろな四冊、計五冊を持ち込んだ。そのうちの一冊が『加藤楸邨の百句を読む』だった。 著者は北大路翼さんで、ぼくの俳句の先生でもある。翼さんの先生にあたるのが、結社「街」のボスである今井聖さんで、今井聖さんの師にあたるのが加藤楸邨らしい。そんなゆきさつで、自分も楸邨山脈の最末端という位置づけになるので、これは読んでおかねばと思い至ったのだった。 この「有名俳人の百句」は最近ふらんす堂が始めたシリーズもので、ラインナッ

          『加藤楸邨の百句』を読む

          『サンショウウオの四十九日』を読む

           話題になってたので読む。最初は幻想小説なのかと思ったが、いや、広義ではそうなるのかもしれないが、シビアな話だった。出生の際の、とばっちりを食ったような早逝の伯父と、底抜けにのんきな父の対比とか、命の残酷さをたんたんと描きつつ、希望の落としどころを求めて逍遥するという物語だった。ちょっと前、話題になった砂川文次の「ブラックボックス」にも通じるニヒリズムというか、硬骨な文学だなと思った。「ハッチバック」はどうだろう。お葬式のシーンは、昔読んだ玄侑宗久の「中陰の花」を思い出した。

          『サンショウウオの四十九日』を読む

          『モジオロジー』を読む

          屍派、里俳句会の、喪字男さんの句集『モジオロジー』を読んだ。 生活感と文学的哀愁がないまぜになって、独特の面白みとペーソスがハートをわしづかみにする。この場合のわしは、鷲というかっちょいい鳥とちょっと違い、「わしー、わしー」「わしまだ朝飯食ってへんねんけどー」と迫って来るお爺ちゃんぽいわしであり、その妖しさが喪字男俳句の本領ではなかろうか。狂気をTOYにする、喪字男マジックの魅力に翻弄された。 BCCKS / ブックス - 『モジオロジー』喪字男著 (句集『モジオロジー』

          『モジオロジー』を読む

          『海のうた』 左右社 所感

          ひょんなことから、左右社さんから出た「海のうた」をもらったので、自分がいいなと思った歌をいくつか引用します。海をテーマにした、短歌アンソロジー「海のうた」から。 きみからの電話に出ずに海へ行き、骨。とおもって拾う貝殻 山中千瀬 家から、海までどんだけの距離があるんだろう?ということが気になった。その距離と、貝殻を骨、とおもうことには関係があるんだろう。『さよならうどん博士』より もう一度言うがおれは海の男ではない フラワーしげる なんのダメ押しなんだろう。海の男ではな

          『海のうた』 左右社 所感

          ジャクソンフルーツ

          朝ごはんラーメンにする酒粕と生姜と味噌と黒ゴマを入れ 策謀を尽くし定時で退勤しキレイキレイで消毒をする 平日の古書店街を歩いたら派手な上着の手品師がいる 私信でも記せぬ気持ち週末のまんまる餃子みたいな至福 ケーキよりドライアイスが気になって市営団地に霧雨の降る 外海を漂うシャチが夢を見る三千マイル先の浮き橋 人材の宝庫などなく土くれを捏ねるが如く育てる主任 お砂糖と優しさをだかだか入れた甘すぎる珈琲の贖罪 婆ちゃんが他言無用と前置きし秘密を皆に打ち明けている 文旦と同じ価格で

          我以外皆和菓子

          ハリケーン・ボルトで石橋をたたく 大猿の風車手裏剣夏来たる 自転車に乗ればおぬしもドライバー 葉桜やハローワークにも山師 パーやんの脱税テクや月日星 マシュマロで誤魔化されてる業平忌 ぽんこつのロボットと見る日雷 パーやんがパソナと組んで金魚売り 水無月やタイマン張ればロボダッチ 我以外皆和菓子すか桜桃忌