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一首評 歯磨きの漱ぎの水に少しある苦みのような懐疑のような/鬼頭孝幸
歯磨きの漱ぎの水に少しある苦みのような懐疑のような/鬼頭孝幸
第三回超然文学賞優秀賞「米の花」
底知れない魔力を持っている歌だと思う。
この歌を読み進めていくと、四句までは「共感」だ。確かに歯磨き粉というのは独特な味で、飲んだことはないのに絶対に飲み込みたくないと感じる。食べ物の側では歯を磨きたくないと思う程だ。それが水と混ざって薄まったときの微妙さを、「少しある苦み」はよく表している。「歯磨き
一首評 ときどきどこかへとてつもなく帰りたい眼科検査の気球への道/飯田有子
ときどきどこかへとてつもなく帰りたい眼科検査の気球への道/飯田有子『林檎貫通式』
「眼科検査の気球への道」、眼科で白い紙の上に顎を置いて機械の中を片目で覗き込んだときに見えた、気球の浮かんだ景色。
初めてこの歌を読んだとき、私はこの景色が持つノスタルジーがすんなりと理解できた。すとん、と「帰りたい」に対して共感した。
「とてつもなく帰りたい」「どこか」は、故郷といった生半可なものではないだろう