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夭折の画家、ウィリアム・キーツの話──No.09

ウィリアム・キーツが「描いたことを後悔している」と話した作品は、しかしキーツらしい穏やかなタッチが特徴だ。「The Funeral Cross(葬儀の十字架)」は、バンゴールの街からほど近いアングルシー島で描かれたものとされている。

柔らかな色使いながら、不吉にも死を連想させる絵を描いてから、キーツの人生は不運の連続だった。妹のルーシーが結核で永遠の眠りにつき、父のイアンはおそらく天然痘でこの世を去った。ひそかに恋心を寄せていたマデラインも絶命した。マデラインは自ら命を絶った。キーツが十七歳の時、いわく“シーシュポスの挑戦”として一〇〇日間描き続けた自宅近くの小径で首をくくった。理由はわかっていない。

ロンドン芸術大学のノーマン・バージェス教授の言葉を借りれば、キーツの人生は「Infant Sorrow(無垢なる悲しみ)」と「Infinite Sorrow(終わりのない悲しみ)」だった。だからこそ、キーツは自らも生き絶えるまで、悲しみを振り払うべく筆を離さずにはいられなかった。そう考えざるを得ない。

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