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夭折の画家、ウィリアム・キーツの話──No.12
ウィリアム・キーツは若くしてこの世を去ったほとんど無名の画家だ。二十四歳のとき、イングランド中央部のコッツウォルズ地方を小旅行で訪れている。芸術家のウィリアム・モリスが「イギリスで最も美しい村」とたたえたバイブリーに一週間ほど滞在し、周遊を楽しんだ。
隣にはルーシーがいた。といっても妹のルーシーではない。母と弟を養うため、フェリーの発着基地だったガース桟橋の職員として働くなかで出会ったルーシー・アシュクリフトとキーツは近しい関係になっていた。こちらのルーシーは小学校の教師だった。コッツウォルズへの小旅行には友人のカレル・ヤンクロフスキとシャルロット・フェアも同行した。
コッツウォルズでキーツにはエピファニーの瞬間がほとんど訪れなかったようだ。一週間で描いたのは「Broadway Tower」の一枚のみ。同じウェールズ生まれの美術評論家マーク・ベルは「塔は男性器のメタファーだろう。コッツウォルズ滞在中に描いた唯一の絵の塔は、ルーシー・アシュクリフトに対する錯綜した性的な思いが読み取れる」と記している。なるほど、妹と同じ名前のルーシーを愛しながら、同じ名前だからこそ一線を超えることができなかったと考えても、荒唐無稽ではないだろう。
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