【はがきサイズの短編】秋の日のドローレ テーマ:桜前線
ハロウィーンの朝、秋の国の王子ドローレが窓を開けると、強そうな剣に見える大きな枝を発見した。
わんぱくな王子は青い目を輝かせ、その剣を拾って黄金色の森へ戦いに出かけた。
美しく紅葉した森で王子が枝を振り回していると銀杏の長老がどなった。
「やめんか!」
「だって、こんなすっげえ枝、見たことねえよ」
「それは春の国の桜の枝じゃ。ほら、蕾がついているだろう?」
「桜?これが?赤い葉っぱがついていないじゃん。」
長老ははっと気がついた。
「この子は、他の国を知らないのだ……。ああ、お妃様だけでも生きていてくれていたら!しかしなぜ、春の国の枝がここに?」
桜の枝は、春の国へ返してやらねばならぬ。
青空から夜空まで現れる、紅色に輝く星たち。
彼らを一直線に繋いだ星座「桜前線」を辿った先に、春の国はあるだろう。
「なーんて言われたけどさ、そんな遠くまで行くの、おれ初めてだぜ。母ちゃんにも会えるかなあ。ま、もういないんだけどさ……。」
桜の蕾は、王子に抱きしめられてふるっと揺れた。
王子は、渡り鳥たちとふざけたり、大きなりんごの木をつついて実を拾ったり、枝を小川に浸して遊んだりした。
そうしていくうちに日は落ち、二人はすっかり遊び疲れていた。
紅色に輝く星が一番近くに見える、若葉がそよぐ丘へ二人はやってきた。
「なんだあ、何にもないじゃん!仕方ない、今日はここで寝るか。緑の草が布団を分けてくれるよ。なんて柔らかいんだ……。」
そういうと、王子は枝を抱えたままコテンと眠りについた。
すると、桜の枝は地面に根を張り、幹をきたえ、太い枝を空いっぱいに広げた。
蕾は起き上がるように一斉に花開き、夜の闇に白く浮かび上がった。
花の繊細な薫香に誘われ、青い目をした牡鹿の群れが姿を現した。
桜の木は鹿たちに伺いを立て、王子を鹿の背に乗せた。
そして、秋の国へと走りだした鹿の背の上で、王子はある夢を見た。
まだ生まれて間もない頃、母親に抱かれる夢。
その夢にいた母親の腕は、桜色の薄布を纏っていた。
Fin
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