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ボクがテイスティングを真剣に学び始めた訳。

ボクはコーヒー焙煎士。
かれこれ20年以上昔の話になるのですが、ボクが真剣にテイスティングを学び始めるきっかけがあった。

もうすでに焙煎の仕事に従事していたのですが、ちょうどその頃からSCAJが主催となりスペシャルティコーヒーのセミナーなどいろいろと開催し始めた頃でした。

そのテイスティングの初級セミナーに参加したときでした。
一人で参加していたので、初めて会った人たちとグループを組み、同じテーブルで配られた4種類のカップのまずはアロマを嗅ぐところから。
コーヒーのカッピング(テイスティング)を学んだことがある人でしたら、コーヒーの粉の香りを嗅いで分析をすることは当たり前のことなのですが、その当時は仕事でもアロマをそれほど重要に考えていなかったので、ボクは粉の香りを嗅いで、その4カップの中に入れられている、ダメージのある香りのするカップを鼻を近づけてどれなのかを探していました。

すると、ボクと同じテーブルになった面識のないとある方が、あるカップに鼻を近づけた瞬間に「うわっ、クサッ。これもう嗅ぎたくない。」とボクが聞こえるくらいの声量でボソリと言ったのです。

ボクは心の中で、
「えっ。ボクは鼻をカップに近づけてしっかり嗅いでも、どれかわからなかったのに、この人は一瞬嗅いだだけで、そのクサいニオイをキャッチしている。」
と思ったのです。

正解は、やっぱりその人でした。
ボクは不正解。
その出来事があって、自覚できました。
ボクは嗅覚が鈍いことに。
ショックでした。
ダメージすら理解できない嗅覚だったのです。

当然ですが、しばらく落ち込みました。
ボクはもう「仕入れすら満足にできないこと」を意味していることに気づかされたからです。

かなりのダメージを受けましたが、ある時から考え方を改めました。
それはコーヒーをローストする仕事に面白みを感じていたことと、ボクも良質なコーヒーをローストできるようになりたかったからです。
「嗅覚が鈍いのなら、嗅覚を敏感にすればいいだけのこと。」だと考えたのです。

そして、
「嗅覚を育てること。」と
「品質の良さを理解しよう。」と決意したのです。
しかし、嗅覚を敏感にするトレーニング方法など聞いたこともなければ、そういった書籍もセミナーも探しましたが見当たりません。

なので、まずはワインやウイスキーや日本酒などに従事している人たちが書いた著書を片っ端から読み、その中でその人たちが日常的に取り組んでいることをボクも真似していこうと思ったのです。
近道ではないけれど、道すら存在していないのなら、道を探りながら頂を見据えて登っていくしか方法はないと思ったのです。
なので、すぐに嗅覚が敏感になるということよりも、少しずつ今の感覚よりも成長していける道を探すという道を歩き始めることを思いついたということです。

それと同時に「品質の良さとはなんなのか?」を考える旅も始まりました。
ボクは理屈っぽい一面があったので、そんなことを考えることはとても面白かったのです。
ただし、嗅覚が育たない限り理屈で終わってしまう。
そこは理解をしていました。
なのでその当時から、理屈や理論は空想の類いのものであって、正しいわけではないこともなんとなく理解していました。
理屈や理論を検証することで、それが正しいかどうかを判断しなければならない。
その検証をする役目が感覚であるのだと。

ただし、その検証する役目はしっかりとした基準を学んでいる人に限られる。
何が良質であり、何が劣るものであるのかという基準を理解している人だけが、正しい基準で検証することができるのだと考え、ボクの選んだ道では「嗅覚を育てること」と「良質さの理解」はセットで取り組まなければならないのだと認識をしたのです。

そんな取り組みを16年ほど続けた結果、SCAJ主催のコーヒー焙煎の競技会/JCRC 2018で予選を通過し、日本3位になることができました。
JCRC(ジャパン・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップ)は、焙煎機を所有しており、業務にて焙煎経験が1年以上あることが競技参加資格となっているので、仕事として焙煎に従事していることが条件となっている。
言わばプロたちが、焙煎の腕を競う競技会であるということになり、予選から決勝進出者はわずか6名に絞られるため、予選通過が狭き門なのだ。

バリスタの競技では、ローストされたコーヒー豆を持ち込むため、どのような豆を入手し、誰にローストを依頼(焙煎機と焙煎士の選定)し、どのようにローストされたコーヒー豆を用意するのかでそのほとんどが決まってしまうため、資本力を含めたサポート力と競技者の抽出技術という総合力が試されるのに対して、ローストの競技では、大会側が用意した生豆しか使うことは許されていないことと、大会側が用意した焙煎機を順番で使うことで、純粋にロースト(焙煎)の技術力とカッピング・スキルを評価をされるため、個人の力量が試される競技会となっている。

ローストの競技会では、ローストによって登場したクオリティを審査員がカッピングにより採点されるのだが、アシディティを含むフレーバープロフィールを事前に提出してからローストし、そのプロファイルに近いローストが出来た競技者が点数を多く獲得できるというシステムになっている。
そのためサンプルのカッピングでフレーバープロフィールの詳細をきちんと書き綴ることができないことには点数も伸びないので、上位入賞をするためには、きちんとフレーバープロフィールを感じられるテイスティング・スキルあることが条件となるのです。

予選を通過することが第一関門ですが、予選はロースト技術だけが審査対象となっており、決勝大会に進むと、フレーバープロフィールの提出があるため「テイスティング・スキルとロースト技術の両者」を持ち合わせていなければ戦えない競技会なのです。

ボクがそれまで取り組んできた
「嗅覚を育てること。」と「品質の良さを理解すること。」
という道が間違いではなかったことの証明であったのだと思ったのです。

ダメージすら認識できなかったボクが決勝に残り、日本3位というところまで歩んできたのですから。
そして、何も持ってはいなかったボクが、道を切り開いてきたということの意味は、これまでに歩んできた道を説明ができるということを意味している。

テイスティングの本質は、香りの情報を脳内にマッピング(配置図)することにある。
これが本質なのだと考えています。
なので、香りの情報を正しい位置にマッピングすることができれば、皆ボクのように嗅覚を敏感にすることができるのです。
ですが、話はそんなに単純ではないことを経験で理解しています。

それが難しいのは、香りの情報を「分解して見られるようになること」が求められるからです。
それには、コーヒーのCOE評価を学ぶことで、徐々に「分解して見られる」ようになってくるはずです。
まずは、評価項目ごとに感じられるようになることが第一歩です。

ただし、分解の仕方の目線は評価項目ごとに分解するのではありません。
そこに難しさがあります。

まずは、口の中の重なり合った香りの情報の重なりあった部分を別々に感じられるようになること。
そのために、なにをしていかなければならないか?
そこが、大切なポイントなのです。


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