オセアノ号、海へ!【わたしの本棚⑧】
物語を読み進めるため、ページの角にそっと指を掛ける。かすかな音をたてて、はらり、と世界が動く。初めてそのときめきを知ったのは、いつだっただろう。
こどもの頃には、くるくると場面が移り変わる、かわいらしい絵本に。中学生の頃には、小学生の頃よりも少しだけ文字が小さくなった、瑞々しい気持ちが綴られた単行本に。大人になった今は、電車のシートに座って読む、窓から入る光を眩しく反射する文庫本に。歳をとるにつれて「読むもの」が変わっても、「ページをめくる幸せ」は、いつでも私の心を満たしてくれる。
それでもやっぱり、原点にあるのは「絵本」だと思う。ページを送るときに、指先にかかるわずかなテンション。1枚ページをめくれば、鮮やかに変わる世界。
『オセアノ号、海へ!』は、アヌック・ボワロベールとルイ・リゴーによる仕掛け絵本。自然への敬意を込めて、そして自然を守るためにふたりの絵本作家がタッグを組んだこの絵本は、世界12か国語に翻訳されているそう。
お話は、真っ赤な旗を掲げた「オセアノ号」が、世界航海のために港を出発するシーンで幕を開ける。鮮やかな色のたくさんの船や、優しい色合いの空と海。ページの隅々を観察すれば、カモメに帽子を取られて慌てているクルーや、豪華客船の上で日光浴を楽しむ夫婦の姿も。わ、と声が漏れるほどに作りこまれた仕掛けは、両手でぎゅっとページを開いていなければならないほどのたっぷりとしたボリューム。隅々まで眺めているうちに、気分はオセアノ号のクルーの一員に!
港を離れたオセアノ号は、クジラの親子やクラゲなど、海の生きものたちと出会いながら進んでゆく。オセアノ号のいる「海の上」と、生きものが住む「海の中」は繋がっているけれど、まるで別世界。凪いだ海面の下には、船の何倍もの大きさの生きものがいて、北極に行けば、大きいと思っている氷山はその一角にしか過ぎないことが分かる。嵐になり、船を飲み込んでしまいそうなほどにうねる波の下には、昔々沈没したまま時が止まっている船がある。オセアノ号はさまざまな海の姿を見つめながら、「いろんないのちであふれる」ゆたかな海をゆく。
うみは ほんとに すばらしい!
物語は、たった10ページ。それでも、その中にぎゅっと詰め込まれた自然への敬意はきっと、優しく、やわらかくあなたの心に届くはずだ。
なかなか海にも出かけられない夏だからこそ、ぜひ「オセアノ号」で世界航海を。