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風雅な格言集『幽夢影』⑮~「太平の世に値(あ)い、湖山の郡に生まれ・・・」

太平の世にい、湖山の郡に生まれ、
官長廉静れんせいにして、家道優裕ゆうゆうたり。
つまを娶れば賢淑けんしゅくにして、子を生めば聰慧そうけいなり。
人生かくの如くして、全福と云うべし。


(清・張潮『幽夢影』より)

――平和な時代に遇い、山紫水明の地に生まれ、
清廉で温厚な長官をいただき、暮らし向きは豊か。
妻を娶れば賢くしとやかで、子を産めば聡明でさとい。
このような人生であれば、完璧な幸福と言える。

幸せのカタチ

天下泰平の時代に風光明媚な土地に生まれ、地方長官は清廉で家庭は裕福、妻は淑女で子は俊才・・・

これは、古来、中国人の誰もが望む典型的な「幸せのカタチ」です。
人の生涯でこれ以上望めるものはないでしょう。

中国人が何を幸福とするかは、旧正月の春聯を見ればよくわかります。

吉祥門福星高照  吉祥の門 福星 高く照り
平安宅萬事如意  平安の宅 万事 意の如し
――吉祥の門に天上の福星が照り映え、平和な家は万事が思い通り。

財運歩歩高  財運 歩歩 高し
家景年年好  
家景 年年 好し
――金運が一歩一歩 向上し、家計が一年一年 改善する。

現代中国語で書かれたこんな今風のものもあります。

有錢有閑福氣旺、吃好喝好身體棒
――カネありヒマあり幸せいっぱい、よく食べよく飲み元気いっぱい。

吉祥如意、平穏無事、家庭円満、無病息災など、あれやこれやですが、とりわけ金運が良くて裕福になることがめでたいとされます。

それは、新年の挨拶が「恭喜發財」(お金が儲かりますように!)であることからもよくわかります。

中国人の幸福感は、「仙人」という発想にも象徴的に現れています。

仙人は、道教の産物です。

道教は、道家(=老荘思想)とは似て非なるもので、欲望に関して言えば、道家は「無欲寡欲」を唱える思想ですが、道教は福禄寿の現世御利益を祈願する欲望まみれの宗教です。

そして、道教の究極の目的が、不老長生の仙人になることです。

我々日本人がイメージする仙人の姿は、「杖をついて霞を喰っている白い髭の痩せた爺さん」というストイックな感じが多いかと思いますが、本場中国の仙人は全く違います。

中国の仙人は、中華料理みたいに、もっとギトギトとしたエネルギッシュな存在で、ストイックとはかけ離れた存在です。

美味い物を食べて、ワッハッハと笑い、天空を翔けめぐります。

仙人になるための修行には、瞑想・道引・呼吸法・辟穀法などいろいろありますが、中には性交の秘訣を説く「房中術」なるものもあります。

「永遠の時間を過ごすからには、禁欲生活などたまらん、楽しくなくてはならぬ」と現実的、即物的、享楽主義的な中国人は考えるのです。

同文同種とは言え、島国の日本と大陸の中国では民族性に大きな違いがあります。

幸福の追求や欲望の満たし方という点については、控えめを美徳とする日本人とは異なり、中国人は、良くも悪くも、露骨とも言えるほどストレートでバイタリティがあるように思います。

値太平世、生湖山郡
官長廉靜、家道優裕
娶婦賢淑、生子聰慧
人生如此、可云全福


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