緩衝材としての優等生
義務教育卒業までの自分について、
さぞ扱いやすかっただろうなあ、と思う。
過去の自分へのねぎらいを込めて書きたい。
中学卒業までの私
私は、突出した才のない優等生だった。
勉強だけはできるけど、それも別に学年で1番というほどではない。
他の運動や、芸術科目、コミュニケーション力は並前後。
なんといっても、遠慮がちで空気を読む。
人が良かったわけではない。
ただ他人より小心者で、他人の評価に敏感で、争いを好まなかっただけ。
そこに、後天的に身に着けた人当たりの良さが加わる。
家庭環境にも、これといった問題はない。
教師が放っておいても問題ない、
むしろ他生徒の問題の緩衝材として最適な、
扱いやすい女子生徒のできあがり。
そんな立ち位置に、9年間いた。
公立の小学校、公立の中学校。
そこそこ治安が良くて、でも、だからと言って上品でもない住宅地。
だからこそ、日常の些細なことまで子供や教師や親の目が届き、大きな問題として扱われた。
それ自体はいいことだと思う。本来の学校教育の在り方だ。
ただ私は、「平和な」義務教育下で、
「優しく」て、「空気が読め」て、「他人を優先する」、
日本的な「優等生」が感じた感情を書くだけ。
例えば、
グループとグループの諍いが起きれば、
どちらにも属さない人間として客観的意見聴取の的になり
仲介役をさせられる。
諍いが終わり、グループ同士が仲良くなると
あの子が先生になにかしゃべっていた、と仲間外れの標的にされる。
クラスメイトからいじめの対象にされた発達障害の子がいれば、
何度くじ引きの席替えをしてもなぜかその隣の席に。
友人が使用後のあみだくじを復元してくれると、
教師が手を加えて私がその子の隣になるように何度も「調整」されていた。
授業中に隣の子と交換して丸付けしてね、と言われるプリントには
その子の鼻水がついてくることもあって
次の席替えでも自分が隣になる絶望に飲み込まれた。
クラスメイトの投票でクラス委員になったかと思えば、
不登校になりかけの子が委員を希望しているの、と
担任から呼び出され、辞任させられた。
クラスメイトにはなぜ辞任したのかと非難された。
一つ一つは本当に些細なことだ。
自分一人が我慢すればなんの問題もなく済んだし、
実際、私は我慢して問題は簡単かつ迅速に収束した。
ただし結果は、私の我慢に見合うとは思えなかった。
仲介役というのは大抵、敵対していた者同士が和解すると冷遇される。
小学校で隣の席の人物が日常生活に及ぼす影響は計り知れない。二人一組で取り組まされる課題は当然失敗し、意見交換がうまくいくことはなく、給食の時間は苦痛だ。
委員を譲った生徒が再び不登校になれば、とっ散らかった議題に急遽取り組まされる。
そもそも私は立候補すらしていないのに。
もちろん、もっと上手く立ち回れる生徒はいくらでもいるだろう。
だけど、私はただの平凡な優等生だったし
不完全で未熟な10代の児童だった。
卒業する頃に残ったのは、教師という人間への圧倒的な不信感と、
「優等生」をしない人間への憎悪と、
人間社会への絶望だった。
「学校は社会の縮図」と思っていたから。
社会人になって、実際にそうだと思う。
ただ、家庭環境に恵まれたうえでという条件はつくが、
努力すれば、公立の義務教育以降は、自分の生きる場所を少なからず選ぶことができる。
高校以降は学力で絞られた集団になるし、
就職先も業種や職種や専門性である程度絞られた集団だ。
そういった意味で、平凡な「優等生」にとって公立の義務教育は、地獄そのものだった。
大学では、ただただ教師への不信感から、教員課程の授業も取った。
なんであんな人間たち(例外の恩師はもちろん居た)が、
人にものを教えるという職に就けているのだろう、と思ったのだ。
教育に特化した学部や学科でなければ、
専門科目の勉強と少しの実習だけで、教員免許は取れた。
もちろん、部活動参加が基本的にサービス残業で、
親からの理不尽なクレームにも対応しなければならず、
ブラック極まりない労働環境だということもわかった。
今も、相当にブラックな環境で働いている教師の友人を思うと
心配で心が痛い。
それでも、平等に教育を受ける権利があるはずの子どもを
少し器用なだけで、その場限りの緩衝材や、調整剤として
「使う」ことは絶対に止めてほしいと願う。
少子化も進んでいることだし、クラス人数を減らして
部活動は、学校やPTAや保護者がお金を出して講師を呼び
すべての学校に事務専門員を増やす。
不可能なことなのだろうか?
とてもそうは思えない。
たったこれだけでも、先生に余裕が出ると思う。
先生の余裕は、生徒たちの余裕にもなる。
先生にも生徒にも余裕のない張り詰めた学校という場所が、
少しずつでも変わってほしいと思う。
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