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助宗たらの丸干しは過小評価すぎやしないか

 北東北の太平洋側のスーパーでは、よくタラの丸干しという干物が売られている。

よくスーパーで見かけるタラの丸干し

 丸干しと言っても頭と内臓を取り除いたドレスと呼ばれる状態で干したもので、さらに言えばタラはタラでもよくイメージされる大きなマダラではなく助宗すけそうたら (標準和名はスケトウダラ、あるいはスケソウダラ)と呼ばれる大きくても30センチ程度の小ぶりなものだ。
 助宗たらと言われてもピンとこない方も多いかもしれないが、いわゆるタラコや明太子はこの助宗たらのものが使われている。
 皮が薄く粒も小粒で舌触りが良いためにより一般的に「鱈」としてイメージされるマダラの卵 (これも青森などでは食べられる。時期になったらこちらも紹介したい)よりも塩漬けなどに加工して丸ごと食べるのに向くらしい。また、韓国語で助宗たらのことをミョンテ (명태と書くらしい)と呼ぶらしく、このミョンテが変形して明太子という名称になったとのことだ。
 以前紹介した沖はもと同じく、名前の知名度に対して加工品を見たことのある人はかなり多いと思われる魚だ。

 加工品としては福岡の名物として扱われることが多い明太子が有名ながらも、助宗たらが漁獲されるのは北海道や青森や岩手や宮城といった北国の太平洋側だ。卵巣や精巣 (こちらも白子として、マダラほどの値こそつかないものの冬の味覚として重宝される)を取り除いた後の身の部分はこうして丸干しに加工され、主に東北地方のスーパーに並んでいる。

 そしてタラコの消費量からなんとなく分かる方かもしれないが、このタラの丸干しはかなりお手頃な値段で売られている。具体的には100gで100円前後、1匹分で100円するかしないか程度である。さらに身離れが良い上に頭や内臓はすでに除去されているので他の干物と比べても非常に歩留まりが良い

 しかしなんというか、扱いが地味なのだ。
 タラの丸干しの隣によく氷下魚こまいという北海道で漁獲される同じくタラの仲間の丸干しが並んでいることも多いのだが、こちらの方が全体的に小ぶりかつ値段も若干タラの丸干しよりもお高めながらも、こちらの方が主役と言わんばかりの扱いを受けることも多い。なんならこちらについては関東でも売られていることがある。

焼いた氷下魚の丸干し。
確かにこれもかなり美味しい

 確かに氷下魚の丸干しも身が詰まっており美味い。
 しかしもっと庶民的で、しかししっかり美味しい助宗たらの丸干しにももっとスポットライトが当たってほしい。

こちらはタラの丸干しを焼いたもの。
氷下魚と比べて鱈らしいほのかな甘みがあり
これだけでも日本酒の佳肴である

 タラの丸干しは氷下魚の丸干しと比べて身が柔らかく、そして皮が薄い。そして何より安価だ。
 勿論焼いてそのまま食べるのも美味いというのは大前提の上で、今回はこちらを料理の材料として使うレシピを紹介したい。


 さて、タラといえば冬の味覚であるが、昨今の冷蔵技術の発達と干物の特性上、タラの丸干しは真夏でも問題なく手に入る。
 そして夏といえば冷汁。これに入れる干物をタラの丸干しに変えて、じゃっぱ汁ならぬじゃっぱ冷汁にしても非常に合う。

 作り方は一般的な冷汁と同様、すり鉢でゴマを擦ったところに焼いたタラの丸干しの身を加えてさらに擦り混ぜ、そこに炙った味噌と加えて冷やした出汁を溶かし、水切りした豆腐とキュウリやシソやゴマ、ミョウガなどの薬味を加えれば完成だ。
 じゃっぱ汁の旨さは必ず加えるタラの肝にあると思っているのだが、摺ったごまをたっぷり加えた冷汁のコクはじゃっぱ汁の肝に近いニュアンスがあると思う。
 タラの丸干しは皮が美味く、そして柔らかく食べやすいので皮も入れるのがさらに美味しく作るコツだ。

タラの身は柔らかく崩れやすいので、包丁で叩いても良い。
香りは落ちるがねりごまを使えば
すり鉢いらずだ
今年の夏の昼食に何度も登場したじゃっぱ冷汁。
タラの身の甘みがじんわりと体に染み渡る

 また、身に脂が少ないタラからは世界中の至る所でカラカラに乾燥させた干し鱈が作られており、これを使ったレシピは世界中至る所に存在している。
 干し鱈には干し鱈の独特の旨みがあるのだが、これを戻すのに手間がかかるのがネックだ。そこで水で戻した干し鱈の代わりに、半生状態のタラの丸干しを使うのもおすすめだ。

 まず鍋に水と干し椎茸を入れて椎茸を水で戻しておく。
 その間にタラの丸干しとネギをぶつ切りをする。
 更に本当は大根を入れたかったが、季節柄手元にないので代わりにニンジンを短冊切りにする。タラと根菜類の旨みは本当によく合うので、どうせなら合わせたい。
 これらともやしを火にかけ、具材に火が通ったら中華スープの素で味を整えたら完成だ。

 韓国の干し鱈のスープ、プゴク風である。
 下処理された丸干しは臭みも少なく塩味の汁物が合うと思う。手頃に使えて旨みも凝縮されているので、椎茸や鶏がらスープといった複雑な味わいの中でもしっかりと個性を発揮している。

 そして干し鱈といえば有名な料理をもう一品。
 焼いてほぐしたタラの身に刻んだ玉ねぎと茹でるなり蒸すなりしたジャガイモと卵とパセリを加えて潰し、塩胡椒で味を調える。
 あれば白ワインとしょっつるを少しだけ入れると更に美味しい。

パセリが良い仕事をするので必須

 これが冷めたら一口サイズに丸めて、熱い油で揚げる。

油の温度が上がってから入れるのが
綺麗に揚げるコツ

 ポルトガルの干し鱈のコロッケ、パスティス・デ・バカリャウ風だ。
 コロッケと言うが、衣はつけないで素揚げするのでフライドポテトに近い味わいだ。しかし、食感の豊かさと旨味の複雑さは段違いだ。
 干し鱈から作ると身を戻した後にほぐす工程が手間なのだが、タラの丸干しを使えば干し鱈らしい風味と凝縮した旨味を手軽に味わえる。


 そのまま焼いて食べても料理の材料にしても美味しいタラの丸干し。見かけたことはあるけれども買ったことはないという人は、この機会に是非購入してみてほしい。

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