京急の街「横須賀中央」【山側編】|山口百恵と坂と神社とトンネル
急な坂道駆け上ったら
今も海が見えるでしょうか
ここは横須賀
「横須賀ストーリー」より
みなさんご存知だろうか。
「横須賀ストーリー」。
伝説の昭和のアイドル、山口百恵だ。
この曲は、1976年6月にリリースされた、13枚目のシングル。
そして、京浜急行「横須賀中央駅」の発車メロディーでもある。
作詞:阿木燿子
作曲:宇崎竜童
歌:山口百恵
「超異例の組み合わせ」と言われ、当時話題となったそうだ。
35歳の僕は1985年生まれだから、まだ産まれてもいない。
宇崎竜童さんが当時を振り返るインタビューの中で、それまで山口百恵周辺や自身のことを語っている曲がなかった、と語り、そういった思いから生まれた曲。
横須賀は米軍キャンプがあり、中学生の山口百恵が母を助けて新聞配達をしていた街、坂を登れば海が見える街。
1970年代で一世を風靡した昭和のアイドル、山口百恵の生まれそだった街であり、彼女自身の転換点になったと言われる大ヒットナンバーのテーマとなった街。
そんな横須賀の中心地である「横須賀中央駅」の街を撮った。
横須賀中央とは
横須賀中央駅は、京急線の駅、KK59。特急、快特もとまり、品川から快特で44分という距離だ。駅ビルとしてモアーズがあり、横須賀市の繁華街である。
いわゆる「横須賀」といえば、この横須賀中央駅や汐入駅あたりを中心に指すことが多いのではないかと思う。
例えば山口百恵の「横須賀ストーリー」にしたって、米軍キャンプがあることにしたって、この「横須賀」には様々な時代の想いやロマンのようなものが重なっているように思う。
なんせ、あの森山大道だって、「ヨコスカ」を撮っているし、その他名だたる写真家たちが、何かしらの動機をもって訪れた街だ。
カメラを持つ僕としては、エキサイティングでもあり、一方でそんな凄みのある街を撮れるんだろうかと気が引けてしまう部分もあったりする。
少なくともこんなブログ1記事で話していると長くなりそうなので、2回に分けた上で、第1回として横須賀中央駅から山側の話をしようと思う。
坂にロマンを感じてしまう僕
土曜日の早朝である。
今年の夏は暑い。「うだるような」とはこのことか、と毎日思う。
早朝なら少しはましか、と朝6時台から京浜急行へ乗り込んだ。
電車に揺られながら、山口百恵の「横須賀ストーリー」をYoutubeで聴く。
ドシャーんという感じの、荒々しくも哀愁を感じるビックバンドの演奏に、「これっきり、これっきり〜」と印象的なフレーズを山口百恵が歌う。
アイドルというが、今のアイドルとは全然違う印象だ。
声は太く、歌からは幼さは感じない。
たとえば、宮崎アニメのヒロインに描かれるような力強さ、自立していく姿が印象的だ。
そうこうしている間に京浜急行特急は横須賀中央駅へ。
土曜日朝7時の横須賀中央はまだ人もまばらで、むしろ金曜日からの午前様といった雰囲気だ。
がらんとした雰囲気に、なんとなくやるせなさを感じて、とりあえず駅前にあった神社へ入ってみた。
すでに日は境内の石に鋭くジリジリと指し、入り口の木の下にはコントラストの強い木陰ができている。
とりあえず坂だ。山口百恵が駆け上がった坂というやつを体験してみたら、なにか見えてくるんじゃないか、と山側へ歩くことにした。
たしかに。
坂がずっと続く。
古い商店街。
この感じだけで、なにか雰囲気があるから不思議だ。
店はシャッターを閉めているが、日中になったら開くのだろうか。
商店街の路地からは、さらに急な坂が両脇に伸びる。
手入れがされずに、登れなくなっているものもあれば、まだまだ使われているものもある。
しかし、坂はあれど、振り返っても海は見えない。
きっと昔はこのあたりからも海が見えるくらい建物も少なかったのかもしれない、などと思いながら、歩いていると、僕を呼んでいるかのようにどこか惹かれる坂を見つけた。
「振り返れば海」を求めて
その坂を行けば、海が少しは見えるかもしれない。
建物の間から少しでいい。
その景色を見てみたい。
そんな気持ちで進むと、坂はすぐに終わってしまい、そこには鳥居がたっていた。
駅前にも神社があり、またここにもある。
なんでもない神社だ。
しかし、朝日の射し込み方が最高すぎて、今までに見たどんな神社より立派に見える。
前に汐入を歩いたときにも地蔵堂に魅了されてしまった僕は、またもや本日のテーマと関係のなさそうなものに熱中し始めた。
読んでいただいている方には申し訳ないが、どーせこんなブログなのだから、求めていた景色に出会えなくたって、それはそれでおもしろい。
それよりも今目の前にある光ときたら。。。
そんなことを考えてしばらく美しい境内に一人、写真を撮り続ける。
そして満足し、賽銭箱の横の指示通り、「二礼二拍手一礼」で祈りを行う。とはいえ、なにかを祈ったわけでもない。
形に満足して終了だ。
そうして神社を後にし、僕は横須賀中央駅西口方面へ向かった。
トンネルを抜けて
横須賀中央駅西口を出て左手、ガードを潜り、緩やかな坂を少し上ると、いかにも古いレンガ造りのトンネルがある。
もちろん中は現代の作りになっているようで、入り口だけがそういった佇まいを残している。
朝8時。
市の職員だろうか。せっせとトンネル内の掃き掃除をする60代くらいのおじさんが二人いる。
こんな暑いのに、大丈夫なんだろうか、と心配になってしまうが、今の時代は60代なんてまだまだ若いと思われてしまうのもしれない。
トンネル内は日陰だからまだ涼しい。
歩くとなるとまあまあ長い。
この先に僕が求めた坂や海の見えそうな場所はあるのだろうか。
Googleストリートビューで先の景色を見ちゃおうかとも思ったが、自分の足で歩いてみようとすぐに思い直した。
トンネルというのはおもしろい。
歩くことなんてそうそうない。
ましてやこの夏の暑い日、しかも休日でこんな朝の早い時間に、山口百恵の見た景色を探してこんなところを歩くやつなんていないだろう、と思いながら、この新しい体験を楽しんだ。
トンネルは光と影がとてもはっきり分かれるもので、写真を撮る身からすると必然的にシャッタチャンスだ。
あと少し、と歩みを進めてようやっとトンネルを出た。
そこには、おもしろみを感じない、平凡な住宅街が広がっていた。
坂も見当たらない。
僕はうんざりして、すぐに今来たトンネルを引き返した。
横須賀中央の海側なら、きっとまた違うおもしろさがある。
そう考えて朝8時の繁華街を歩き始めた。
つづく。。。