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お金が無いと心配、でもお金があり過ぎても心配

誰しも「たくさんお金があればなぁ」と願っています。したがって「お金が無いと心配」という気持ちはよく分かります。しかし「お金が多くあっても心配」とは一体どういうことなのでしょう。

実は上記症状は、年を取れば取るほど、発症しやすくなります。

〇お金が無い  
〇お金がそこそこある  
〇お金が多すぎる

ここで、75歳のAさんに登場いただきます。

Aさんにとって「お金が無い」のは致命的です。これはなんとか避けないといけません。次に「お金がそこそこある」という状態はどうでしょう(これはわりと心地よいのではないでしょうか)。では「お金が多すぎる」と、一体何が問題なのでしょう。

人には「死」というゴールがあるため、お金が多くあり過ぎると、多く遺ってしまうことになります。


以下、あくまで仮定の話です。

Aさんのリタイア時(65歳)の総資産が1億円でした。現在(75歳)約1.5億円の資産となっており、逝去時(94歳)に2.2億円にまで増えるとすると、そのお金を引き継ぐ「相続人」がいたとしても、少なくない税金(相続税)を支払う必要が生じます(配偶者は先に亡くなっている前提)。

あるいは引き継ぐ人がおらず、Aさんが保有資産について明確な意思表示をしなければ、多く遺ったお金も最終「国庫」に帰すことになります。

<お金が無いと心配、お金が多くあり過ぎても心配。>というのは、そういうことです。

1億円        1.5億円    2.2億円
リタイア時(65歳)  75歳     94歳(逝去時)

実はAさんのような無名の資産家は日本に数多くいます。しかし「なぜリタイア後に資産が増えるのか?」と不思議に思われる人もいるでしょう。

Aさんが下記条件に当てはまれば、老後にお金が増えていっても何ら不思議はありません。


〇公的年金、企業年金、個人年金保険などからの収入があり、毎月の生活費が赤字にならず、逆に黒字になっている(人は年を重ねるほど消費が細る傾向にあり、頭で思い描いたほどお金が使えないという側面もあります)。

〇現役時代から相当額の資産を蓄えている。また資産の一定割合を投資に回しており、確固としたポリシーに基づき投資を続けている(投資の実際では資産価格がアップダウンしますが、長期的には資産が逓増していく傾向にあります)。

つまり、収支が赤字にならず、リスク資産を適切に持ち続けていれば、リタイア後も資産が増えていくケースは決して珍しくないのです。


誰しもリタイアを迎える際、お金の管理の「分かれ道」に立っていることを、今から真剣に考慮しておいたほうが良さそうです。それは、

1.お金を使い切るほうの道
2.お金を増やしていくほうの道

どちらを選ぶかという「運命の分かれ道」です。

まず、1.の道です。この考え方はストンと腹落ちしやすいでしょう。以下、単純な計算になることをご容赦ください。

仮に公的年金等で、毎月10万円の不足があったとしても、65歳から90歳まで生きるとして、その不足分の合計は3000万円になります。換言すれば、リタイア時(65歳)に3000万円のお金があれば、暮らしていくことは出来るわけです。

ただし実際は「ワタシお金を使い切る!」と意気込んでも、なかなか気持ちよくお金を使うことが出来ません。その原因はシンプルに、お金を崩し使っていくことに慣れていないためです。


誰もが現役時代は支出をセーブし、貯蓄に励みます。コツコツお金を積む習慣が染みついているため、リタイアしても「積んでいく」マインドがなかなか抜け切らないのです(もちろん平均余命が延びる中、お金が足りなくなる事態を過剰に心配してしまうことも原因のひとつでしょう)。

職業柄(ファイナンシャルプランナー)、個人のお金の管理を「通史」として覗き見ることがあります。そこでは、一人の人間が「ふたつの役柄」を演じ分ける必要があると痛感します。

それは「上る人」と「下る人」です。

誰しも現役時代は上ってコツコツお金を積み上げます。そして、リタイアすれば今度は下るわけです(資金をコツコツ取り崩します)。



仮に、お金は自分が生きている間だけ使える「利用券」と割り切れば、「上り」と「下り」両方を実践する必要があるのではないでしょうか。

リタイア後、下り始めるためには、お金を増やす「フェーズ」は何歳までと明確に決めておく必要があります。繰り返しですが、お金を多く遺し過ぎても、別の心配(相続税など)が生じるわけですから。


他方、2.お金を増やしていくほうの道を選ぶ人は、次世代に資産を遺す意思を明確にする必要があります。相続税という負担があっても、より多くのお金を遺せる事実に変わりはないためです。

わたしはお金を増やすほうの道を否定しませんが、中には、お金を増やすことそのものが目的化してしまう人もいます。資産の「数字」のみを追いかけて、増えるお金に満足するのみでは、なんだか寂しい風が吹くと思いませんか。

日本の相続税は、資産を遺す人に課税するのではなく、資産を受け継ぐ人に納税義務が生じます。自分の子どもにそういう負担をさせるくらいなら、自分で使うなり、寄付をするなり、意思表示をはっきりさせたほうが心持ちはラクになるかもしれません。

人生のある地点で、思い切って「貯める」から「使う」に舵を切る。これは「死」がある個人のお金管理の宿命です。以上、お金が無いと心配、でもお金があり過ぎても心配。というお話でした。

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