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令和版小倉百人一首試作2/5
できるだけ原文に近い表現で、令和の子にも読める百人一首の試作、21~40。
21 長き夜に来ると言いつつ来ぬあなた月も朝日を迎えるまでに
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな 素性法師
長月は、夜が長い旧暦九月。「すぐ行く」と言ったのに、来ないあなた。
22 山で吹き秋の草木を枯らすのは山と風から嵐となりて
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ 文屋康秀
「山」と「風」を合体させたら「嵐」という漢字ができるという言葉遊び。
23 月見ればなぜか悲しく思う秋私一人の秋でもないのに
月見ればちぢに物こそ悲しけれ我が身一つの秋にはあらねど 大江千里
「ちぢに」は「さまざまに」の意味。
24 この度は急な旅ゆえ何もなくせめて錦の紅葉たむけん
このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに 管家
「幣」は、神にささげる紙を切ったもの。菅原道真の歌。
25 名のとおり逢坂山で逢えるなら人に知られずあなたにあいたい
名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな 三条右大臣
「さねかずら」はツル性の植物。その名に「寝る」と「(ツルを)繰る(たぐり寄せる)」の意味をこめる。
26 小倉山峰で輝くもみじ葉よ今ひとたびのあの人を待つ
小倉山峰のもみぢ葉心あらば今一度の行幸待たなむ 貞信公
「行幸」は「天皇が来る」こと。
27 みかの原水わき流れる泉川いつ見いつ見た恋しいあの人
みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ 中納言兼輔
「わきて」は「(水が)湧く」と「分ける」の意味。恋しく心が分かれてしまった。
28 山里は冬の寂しさしんしんと人目も見えず草枯れ見える
山里は冬ぞ寂しさまさりける人目も草もかれぬと思へば 源宗于朝臣
人も訪れず、草も枯れた山里。
29 できるなら折ってみせよう初霜の白さの中の白菊の花
心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花 凡河内躬恒
霜の白さと見間違えるほど美しい白菊。比喩が極端。見間違えるわけないやん。
30 有明の月の明け方別れては朝が来るのがつらく悲しい
有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし 壬生忠岑
妻問婚の朝の別れ。
31 夜明け前月の光と見るほどに白く積もった雪降る吉野
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪 坂上是則
月の光かと思えば雪の白さだった。
32 山川に風が流れを止めたのか赤く染まった紅葉が重なる
山川に風のかけたる柵は流れもあへぬ紅葉なりけり 春道列樹
「柵」はダムのような設備。
33 ひさかたの光のどかな春の日に落ち着きもなく花が散る散る
久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 紀友則
桜の花びらがせわしなく散る風景。
34 誰もかも知る人はなく高砂の松だけ昔の思い出伝え
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 藤原興風
知人はみんないなくなってしまった長生きしている我。
35 あの人の心は知らぬがふるさとの花だけ昔のままに匂って
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之
「匂う花」は「梅」。万葉の頃は「花」といえば「桜」ではなく「梅」だった。
36 夏の夜はあっという間に夜が明ける月はまだ雲の中にいるか
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ 清原深養父
作者は清少納言の曽祖父または祖父(諸説あり)。
37 白露が風に飛ばされ秋の野にくだけた玉のように散りける
白露に風の吹きしく秋の野は貫き止めぬ玉ぞ散りける 文屋朝康
宝石が散っているように美しき露。
38 忘れられあなたはどこかへ行っちゃったあなたの誓いはどこに消えたか
忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな 右近
神に誓った恋なのに、あなたは来なくなってしまった。
39 茅生える小野の篠原忍ぶ恋心乱れてあなたを思う
浅茅生の小野の篠原忍れどあまりてなどか人の恋しき 参議等
「~小野の篠原」までが「忍」の語を出すための序詞。
40 隠しても顔に出るのか我が恋はどうかしたかと人の問うまで
忍れど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで 平兼盛
秘密の恋がばれちゃった。
令和の子に和歌の言葉が伝わるかな。って、この文を見ている子どもはいないだろうな。
せめて大人が子どもたちに伝えてほしい日本の伝統。
百人一首を覚えて授業で意味を覚えるだけでなく、五七五七七のリズムを持った「歌」として親しんでほしい。
「短歌」は「短い歌」であり、「和歌」は「日本の歌」である。百人一首の意味をつかみながら現代語のリズムで口ずさんでほしい。そのための試作。
で、今回は、ここまで。