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【410字小説】 逢いたい菜 #毎週ショートショートnote

「今日の『アオハル応援隊』はお祖父様の農園の一角で未来の食糧事情に貢献しようと品種改良に取り組む、斎藤純さんのご紹介です。」

 聞き覚えのある名に、課題の手を止めテレビに顔を向ける。同姓同名が多そうだが、右頬の泣きぼくろと僅かに残る昔の面影ですぐわかった。

 幼馴染で仲良しだった純だ。懐かしさに胸が弾む。私が小六で転校し、それきり連絡は途絶えていた。

 別れ際「絶対作るね!」と涙でぐしょぐしょになって送り出してくれた記憶が鮮明だ。

「エグ味がなく甘くて栄養価が一般の品種の二倍あるそうですが、開発秘話はなんと,ほうれん草が苦手な初恋の子だそうで…」
「ええ…給食で出るといつも僕の皿に乗せるんで、美味しいの作るって約束したんです。」
「新しい品種の名前もその子に向けたものですか?」
「はい!『逢いたい菜』です。」

 はにかんだ満面の笑みで品種名を披露する彼を目に、私はスマホに手を伸ばす。農園を検索し呼び出しボタンをそっと押した。

(本文410字)

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今回はこちらの企画に参加させていただきました。楽しい企画をありがとうございます。

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

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