
【ショートショート】 恋花粉 #毎週ショートショートnote (410文字)
タンポポと菜の花の束を抱えて帰ってきた結を見て、侍女が声を上げる。
「…お着物が…花粉で染まっています!」
結はふと胸元に視線を落とす。
淡い桜色の絹の生地に、黄色い柔らかな大小の円が散らばるように染まっていた。彼女は「まぁ!」と愛おしそうに目を細める。
そして、花の香りを確かめてくすぐったそうに笑った。野の春の香りはどこか懐かしいような温かみを感じる。
花粉は落ちにくい。侍女は小さく息をついたが、結の表情に思わず口元が緩む。すっかり恋する乙女だ。
「上様からですか?」
結は「はい」と微笑み、胸元を見る。
「花は枯れますが…これならずっと残せますね。」
「…恋花粉。」
「恋花粉…?」
結がほんのりと頬を染め、侍女を見る。
「まるで、恋をもたらす花粉の魔力に当てられたようかと…」
結が目を見開く。
「恋花粉…すてきね…」
彼女は胸元をそっと撫で、微笑む。
「早速歌に残しておきましょう!」
結は足取り軽く自室に姿を消した。
(本文410文字)
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今回はこちらの企画に参加させていただきたく、書きました。楽しい企画をありがとうございます。
これは、この小説に登場する正室のサイドストーリーなのですが、よろしければ本編の小説もお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。