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阿呆列車 リバティりょうもう13号

 いつもお読みいただき、ありがたうございます。玉川可奈子です。昨日は、贔屓力士である貴景勝関が幕内最高優勝を成し遂げ、自分のことのやうに喜んでゐました。けふも引き続き、Yakult1000を飲んで願掛けをしてゐます。

 「鉄道とは、決まつた時間に人と物を運ぶ道具です」

 かつて、とある学校で鉄道研究部を担当してゐた際に、子供らに伝へてゐた言葉です。確かに、わが国の鉄道は十五秒刻みで、列車が運行してゐるくらゐですから、「決まつた時間」といふのは大袈裟には聞こえません。
 少しでも列車が遅れると車内アナウンスで、

 「列車が遅れまして申し訳ありません」

と車掌が謝罪します。たとへ、人身事故でどう考へても鉄道会社に非がなくても、上記の定型文ともいふべき謝罪をする。

 「そんなに謝らなくても…」

と思ひますが、「決まつた時間に…」といふことを重視すると、謝罪は肯はれるでせう。

 決まつた時間に人と物を運ぶ鉄道ですが、もちろん、意味や目的があつて運ばれるわけです。観光もあれば、通勤もあります。人に会ひに行くといふ予定もあれば、朝漁れた魚を都市部に運ぶといふ目的もありませう。何かしらかの目的をもつて人は運ばれるのですが、無目的に鉄道に乗るといふ物好きな人がこの世の中には少なからず存在します。古くは、内田百閒の『阿房列車』がさうでせう。

 そして、私もその一人です。さういへば、昨年は西九州新幹線に「乗る」ためだけに長崎県へ行きました。それも、ある意味では「阿呆列車」ですね。百閒のと区別するために、私は「阿呆」の字を用ゐます。ご了承ください。

リバティりょうもう13号 浅草駅

 令和五年正月某日。初詣客や観光客、幸せさうなカップルや外国人で浅草寺周辺はものすごい人が出て、活況を呈する中、一人、東武線浅草駅のホームに立つてゐました。目的の列車は、リバティりょうもう13号。終着は赤城駅です。

 ホームに入線してきた三両編成のリバティりょうもうに乗り込みました。リバティは遠くから見ると格好良く見えますが、近くで見ると印象が異なります。座席は6のA。コンセントもあり、Wi-Fiも入り、優秀です。

 乗車券は、ふらっと両毛フリーきっぷを利用しました。浅草駅から赤城駅の片道は1,220円。フリーきっぷは2,440円。別に乗車券でもよかつたのですが、気分の問題です。
 このフリーきっぷは三日間も有効期限があり、便利ですがりょうもう地区を観光するのには少し盛りだくさんな気もします。

リバティの座席
リバティりょうもう13号

 東武線の旅の最大の見どころは、浅草から業平橋までの間、隅田川を渡る時にあると私は思つてゐました。今日もよく晴れてゐて、見事でした。業平橋もとひ東京スカイツリー駅を出発し、しばらく下町の中を走りますが、この景色も好きです。特に、北千住駅の手前の堀切駅から牛田駅のあたりは牧歌的な感があつて好きです。
 東京未来大学が見えてくると、教員免許の更新のために講習を受けた時のことを思ひ出します。私が受けた時は、過去の講習の録画でした。出口教授(三遊亭小遊三先輩の親戚)の非行関係の話が面白かつたことを今でも覚えてゐます。

 北千住駅で、ずらずらと人が乗つて来て、座席がほぼ埋まりました。後ろに座つてゐる家族連れは静かにしてゐるので振り返つたら、寝てました。前の席に、金髪のお姉さんが座つてゐましたが、うつらうつらしてゐるのが隙間から見えて面白い。絶妙に窓ガラスに当たらずにゐる姿を観察してゐました。昨夜のRIZINでも観てゐたのでせうか。
 久喜駅を出発したあたりで、車内アナウンスが入り、

 「満席となつてをります…」

といひました。遠くの車窓に雪を冠した山々が見え、景色も味のあるものに変はつてきました。

 羽生駅から、秩父鉄道が出てゐますが、一瞬見えたホームに車両は停まつてゐませんでした。いつだつたか、現地の仲の良かつた異性と、行田へゼリーフライを食べに、ではなく稲荷山古墳を見に行つた時のことを思ひ出します。

 利根川を渡りきつたのが十二時五十分。浅草駅からちやうど一時間です。車窓左手に、富士山が見えてきました。右手には遠く筑波山も見えます。この辺りの人はゐながらにして筑波嶺も富士の嶺も仰げるとは、それだけで恵まれてゐるやうに感じます。

 筑波嶺も 富士の高嶺も 上毛野 まがなの道に 見えにけるかも 可奈子

 「分福茶釜」で知られてゐる茂林寺駅を通過すれば、早くも館林駅に着きました。目の前の金髪のお姉さんが降りて行きました。いつの間にか起きてゐたのでせう。その他にも、二、三人の乗客が降り、降りた分の人員が再び乗車してきました。
 なほ、茂林寺はなかなかの古刹で、狸像が面白いです。

 群馬県もよく晴れてゐます。館林駅までおよそ一時間五分程度ですが、近いのか遠いのか。しかしながら、この辺りも都心への通勤圏でせう。安い土地代などに釣られてこんなところに家を買つた人もゐるのではないでせうか。車がないと不便でせうが、案外車がなくても田舎暮らしはできるものです。
 現に私は島根県に住んでゐる時に、自転車のみで何の問題もありませんでした。現地の人から、

 「いつ車買ふの?」

と聞かれてゐましたが、

 「そもそも免許もないのに、車を買つてどうするんですか?」

と返してゐました。さういふと、現地の人は大抵黙りました。だから嫌はれたのでせう。賢い人ならば、

 「マア、近々…」

などと答へてお茶を濁すのでせうが。ASDの特性の所為にするわけではないのですが、どうしてもハツキリと言つてしまふのが私の悪いところです。

 さて、館林駅の次は足利市駅です。足利といへば、フラワーパークはもちろん、森高千里で有名になつた渡良瀬橋があります。歌詞と内容があまりにも美しい『渡良瀬橋』。かうした恋愛は美しく涙を誘ひますが、もうしたくはありません。

 片田舎のやうな車窓を眺めながら、ウィスキーを飲んでゐました。
 十三時七分。足利市駅到着。ここで、隣の席の人、反対側の席の人が降りて行きました。出発してすぐに、一瞬だけ渡良瀬橋が見えました。
 車窓に「カワチ」の看板が見えると、栃木県に来たナアと感じます。といふのも、以前、宇都宮で働いてゐた時、現地の人が好んで買ひ物をしてゐたのが「カワチ」だつたからです。
 この辺りから、車内で子供が突然大きな声を発するやうになります。私は、音に敏感でサイレン音や子供の泣き声や突然の大きな音でパニックになりやすいのです。かういふ時のライフハックは、

 一、その場所を離れる。
 二、音楽(倉木麻衣)を聴く。

になるのですが、太田駅に着いて下車した数人の中にその子がゐてホッとしました。館林、足利市、太田と都市部は民家も多く、小さな都市のやうな感じですが、少し離れると片田舎に変はり、私を楽しませてくれます。治良門橋駅にて列車交換のため、しばらく停車。この駅の読み方、「じろえんばし」と読みます。古い形式のりょうもうとすれ違ひました。この時、車内を一瞥すると、乗車率は目測で三割くらゐでした。

 藪塚駅に着く前あたりの車窓は、なかなかの田舎でした。人の気配がある、生きた田舎。人によつては、その景色に安心するでせう。そして、藪塚駅に着きました。どうしてここに特急が停まるのか不思議な感じがしました。下車してゐる人はゐませんでした。

車窓

 新桐生駅は群馬のベッドタウンのやうな感じがしました。以前、新桐生駅から桐生駅に歩かうとして、地図を見たところ、あまりにも遠くてタクシーに乗つた記憶があります。六年前くらゐでせうか。この辺りから、遠くに見えてゐた山がかなり近く感じられるやうになりました。
 小学校が見えてきました。凧揚げをやつてゐるのか、空に四つばかりの凧が舞つてゐました。

 次の相老駅はわたらせ渓谷鉄道と接続する駅です。わ鉄は私の好きな路線の一つです。沿線に不幸な歴史はありましたが、その景色、わっしー号をはじめとするトロッコ列車など多くの魅力があります。

参考 わっしー号

 定刻に、赤城駅に着きました。かういふと怒られさうですが、赤城駅は小さな駅です。上毛電気鉄道と接続します。京王井の頭線のお古車両が今も運用されてをり、懐かしいパーマンのやうな先頭車両がホームに現れ、交換して行きました。

赤城駅 上毛電気鉄道
赤城駅
赤城駅

 二十分ほど、赤城駅に滞在し、乗つて来た列車にふたたび乗つて帰ります。今度は、リバティりょうもう28号です。帰りも満席で、新桐生駅から特急券を持たずに乗つた者を車掌が毅然とした態度でデッキに追ひ払ふ姿を見て感心しました。

 私は、ただ帰るのも面白くないと思ひ、東武動物公園駅で降り、乗り換へて春日部駅で降りました。東口を出て、しばらく歩けば湯楽の里に至ります。東鷲宮の百観音温泉によく似た温泉で、塩辛いお湯です。混んでゐましたが、四年振りに良いお湯を堪能できました。

春日部温泉 湯楽の里
春日部温泉 湯楽の里

 サウナは十二分を六セット。その後、源泉の湯と壺湯に五分を四セット入りました。夕陽と星空が素敵です。
 源泉の湯はそこそこ熱いので、五分くらゐ入つてから出ると、頭がクラクラします。私はそのクラクラが好きなので、久し振りにそれを楽しめて良かつた。
 普段、かういふところに来ない人がたくさん来てゐるからなのか、髪を結ばない人が目立ちました。

 風呂上がりは、至福の十分マッサージを受けました。値段は900円(HPには1,200円とありますが、900円)です。絶妙なうまさでした…。最初はのんびりと優しく指圧をするので物足りないと感じてゐたのですが、徐々にぐいぐい押してくる。塊りをコリコリするのが絶妙にうまい。十分はアツと言ふ間でした。終はつた後、マッサージ師は一言、「凝つてるね」とのこと。

 「イヤ〜気持ち良かつた」。

 春日部駅に戻り、区間準急で浅草駅に帰りました。春日部の湯楽の里は、玉川可奈子おすすめのスーパー銭湯です。機会があれば、「玉川可奈子の好きなスーパー銭湯」も書いてみるかな。

 最後までお読みいただき、ありがたうございました。

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