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【高校受験】モーゼの海を、ムスカと歩く
長女が高校に受かった。
一途に「あの高校へ行きたい!」とずっと言っていた志望校の英語科に、推薦で入学が決まった。
よかった。本当によかった。
推薦。
そう、一般入試ではなく、推薦入試。
なんだ、推薦入試か。
じゃあ、ラクだね。
…って思っただろ?
私だってそう思ってたさ。
私、推薦入試って、
もっと勉強しなくていいんだと思ってた。
でも長女は、めちゃくちゃ勉強した。
自分を律し、追い込み、信じられないくらい勉強した。それも、中学校3年間、ずっとだ。
私は何度も「もうそんなにやったら十分じゃない?」と思った。でも長女はその手を緩めなかった。
私のnoteはいつも、同じように子育てしている方に一つでも参考になるような記事を、と思って書くことが多い。
でも、今回はごめんなさい。
今日は、私の娘に対する今の感情を、ありのままに書かせてもらう。
誰のためになるかはわからないけど、
そんな日があってもいいよね。
私もやっぱり親バカだな、と思う。
さて、一言で推薦と言っても高校受験には、自己推薦と学校推薦がある。
娘の志望校は私立高。私立の場合、中学校からの校長推薦なので、こんなことは言いにくいのだが、よっぽどのことがない限り不合格になることはない。
私も中3の時、
同じ学校推薦で、同じ高校の英語科に入った。
中学校内の職員会議で推薦してもらえることさえ決まれば、もう受かったも同然だ。私の推薦受験は、学科試験もなく面接だけだった。
私は当時、周りが必死で受験勉強している年末年始に、ダラダラ紅白を観ながら毛蟹を食ってた。だって推薦決まってんだもん。どうせ受かるし。推薦組でこっそり当時禁止されてたカラオケに行ったのがバレて「推薦取り消すぞ!」と生徒指導室で怒られたりした。
だから、娘もそんなもんかと思ってた。
推薦て、ラク出来るよな、って。
しかし、第一希望の高校に入りたすぎる長女は、まず、推薦基準を満たすために勉強しまくった。
ちなみに、娘の志望校の英語科の推薦基準(推薦入試の入試要項)はこちら。
1,本校のみを志願する者
2,人物優良な者
3,学習成績が3ヶ年の評定平均値3.8以上でかつ英語の3ヶ年の評定平均値が4.3以上の者、但し、
①実用英語技能検定準2級以上(コピー提出)取得者は上記の学習成績を問わない。かつ、学科試験(国・英)を免除する。
②実用英語技能検定3級以上(コピー提出)取得者は上記の学習成績を満たしていれば学科試験(国・英)を免除する。
レベルの高いところではないと、バレたはず笑。
元々真面目で一生懸命、超がつくほどストイックな性格だ。元陸上部部長なだけある。長女は必要以上に勉強しまくって英検も取り、早い段階で推薦基準を超えた。しかし、なぜかその推薦基準を超えても尚、長女は勉強し続けた。
彼女がこの時点で何を目指していたのか、母である私にも、よくわからない。多分、目の前のテストの順位を上げたいとか、評定を上げたいとか、とにかく負けず嫌いな性格が功を奏したのだと思う。
私だったら、もう勉強しない。
だって、推薦基準満たしたんでしょ?
で、カラオケ行っちゃうだろうな。
でも、己に対しても負けず嫌いの長女は、推薦基準を超えても更に勉強しまくった。勉強しまくって、しまくって、しまくって…
成績が爆上がりした。
その結果「特待生推薦」を目指すことのできる基準に近づいた。
特待生推薦とは、前述の推薦基準とは別に、特待生推薦の基準も満たしていれば、当日、特待生推薦用の学科試験を受けることが出来て、更に点数が良ければ特待生になることが出来る、という制度だ。
もし、その推薦で特待生になれなくても、その後2月にある一般受験で再チャレンジして高得点を取れば、追加で特待生になることもある。
ただし2月の学科試験になると受験人数も増えるし、受験科目も増え難易度も上がる。可能性は更に厳しくなる。ここまで来たら、なんとしてでも推薦で特待生資格を取りたい。
「特待生」になると、
高校3年間の授業料がタダになる。
授業料だけじゃない。入学金、教材費、模試代、修学旅行費まで、全てだ。それを知った長女は、更に勉強しまくった。
休みの日も集中したいからと、携帯を終日「おやすみモード」にしてリビングに置き、自分の部屋にこもった。わからない問題がある時は叔母の家に聞きに行き、泊まり込みで勉強した。夏休みは毎日お弁当を持って、朝から18時まで図書館に入り浸った。
そして、最終的に中3の前期の成績でギリギリ特待生推薦の基準をクリアし、「特待生推薦」の切符を手に入れた。
そりゃ「ウチの子、特待生になれたらいいなー」とは思っていた。でも、まさか本当にその権利を与えられるとは。
いや、与えられたのではない。
彼女は、奪い取ったのだ。
だって、学校ではもちろん、平日も、土日も、長期休みも、毎日毎日朝から晩まで本当に本当に勉強しまくったから。
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長女は自分なりの勉強法があるらしい。
それが正しいのか効率的なのかは不明だが、ワークや教科書、問題集の問題を、直接答えを書き込まず、ノートではなく、スケッチブックに何度も何度も何度も何度も問題を解くのだ。
長女のスケッチブックは、黒ゴマみたいな字で、真っ黒だった。
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そのスケッチブックが、
何冊も何冊も溜まっていく。
私には出来ない、と思った。
でも、きっとウチの子だけじゃない。
みんな、世の中の受験生は同じように必死で勉強している。うちの英語教室の生徒も受験生がいるが、みんな体調を崩し、メンタルをやられながらも必死にくらいついて勉強している。
長女は一般試験ではないから「合格・不合格」でいったら、多分合格は出来るのだろう。そこは一般試験の「不合格になったらこの高校に通えない」という不安は少ない。
だから、お試しでいいよ、って。
親としては、もちろん特待生になってくれたら嬉しいけど、なれなくてもいいよ、って思ってた。
でも、長女はそんなこと思ってなかった。
やってやるぞ、って。
特待生に絶対なるんだって、すごい気迫で勉強していた。
私には出来ない。
自分で自分に打ち勝ち、律して、追い込んで。
そんな娘が年明け、受験勉強の合間に久々に外出して向かったのが、長年通う書道教室の書初めだ。毎年、好きな四字熟語をカレンダーに書く。
今年長女が選んだ四字熟語は、
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「不撓不屈(ふとうふくつ)」
どんな困難にも負けず、挫折しないで立ち向かうこと。 諦めないで困難を乗り越えること。
平成の横綱かよ!
でも、長女らしいな、と思った。そして、
私はあなたを尊敬する、と思った。
私はあなたの母で、あなたは私の娘だけど、
それでも私はあなたを尊敬する。
あなたは私にないものを持っている。
特待生推薦試験の学科試験は、国、英、数。
国語と英語はまぁ、良い。問題は数学だ。
長女は数学が信じられない程出来ないのだ。
計算も全然出来ないし、あまりに数学的思考がちんぷんかんぷんで、わからない問題を叔母に解説してもらっても、顔に「?」が書いてある。
母は「あぁ、多分この子は数学に対する何かが先天的に欠如してるんだな」とこっそり諦めてた。ごめん、やっぱり私の子だわ、と。
でも、特待生推薦の学科試験には数学がある。
長女は、中3後期のほぼすべての時間を数学に費やした。何度も何度もワークを解き、過去問を解いた。彼女が買ってほしいと購入したワークは、ボロボロだった。
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そして、「その日」は突如訪れた。
叔母に数学を教えてもらっていたある日、急に
「あ、なんか数学わかったかも。」
と思ったらしい。その日から、
「ママ、私、最近数学がわかってきた。」と言い始めた。
なんだそれ。
そんな、モーゼの十戒みたいに、ある日突然海が割れて、パァーーーーっと道が拓ける、なんてことあるんかいな。
でもそれは本当だった。最後の定期試験で、
長女は数学で95点を取ったのだ。
試験中、テストの問題をみて
「解ける…、解けるぞ…!」と、ムスカみたいになったらしい。モーゼの拓いた海を、ムスカが堂々と渡っていく。
問題の解き方がわかるのが嬉しすぎて、ニヤニヤしながら数学の問題を解いたのは初めてだったと言っていた。
キセキだ。
私は長女がどれだけ数学が出来なかったかを知っているから、わかる。キセキだ。
全国模試のあと、初めて会った塾の先生に「僕、こんな低い偏差値初めて見ました…」と言われた娘が。「多分、小学校3年生くらいからやり直した方がいいかと思います。」と真面目に心配された娘が。これは奇跡なんだ。
きっと神様がさ、頑張ってるあなたを見て、あなたの脳内にモーゼを派遣させてくれたんだよ。ありがとう、モーゼ。そしてムスカ。二人とも申し訳ないけど、しばらくそこにいてな。
モーゼの十戒後も、長女は勉強し続けた。
最近は「寝てても、夢の中で図形の問題解いてて、疲れる」と言いだした。ポジティブな長女には珍しく「不安になってきた」とも漏らすようになった。
不安になった長女は、悩んだ。
そして考えた結果「最後は運で決まる」と思ったようで、街なかのごみを拾い始めた。人に親切にし始めた。
もう、考え方が大谷翔平じゃん、と私は笑った。
いや、泣いた。
推薦試験当日。
私は5:00に起きてお弁当の唐揚げを揚げた。
目ん玉が飛び出そうな程高いイチゴも入れた。
娘の大好きなチョコブラウニーもつけた。
娘は、家を出る直前まで数学の問題を解いていた。
ボロボロの数学のワークにつけていた「わからない問題付箋」が今朝、全部取れたと笑顔で教えてくれた。
リビングのテレビでは、めざまし占いが流れてる。
長女はさそり座だ。今は私と次女しか見てない。「悪かったら困るから、私たちで見てから伝えよ」って、二人でこそこそ話してた。
そしたらなんと、長女のさそり座、12位だった。
「まじか。」
これは見せんとこ。
「占い、私何位だったー!?」
そこへタイミング悪く現れる長女。
…見ちゃった。さそり座12位、見ちゃった。
「まじか…」
長女は苦笑いしていた。
車で試験会場まで送る。助手席の長女は、
「なんかワクワクしてきた!」と言い始めた。
出た。
こうなったらきっと大丈夫。
暗唱大会の時もそうだった。
「オラ、わくわくすっぞ!」って悟空かよ。
もう大丈夫。行ってこい。
「終わったら電話して!迎えにくるから。」
「OK!行って来ます!!」
行ってこい。
今までの努力、ぶちまけてこい。
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13:05、電話が鳴る。
え?試験もう終わった?
午前が学科試験で、13時から面接って書いてた気するけど。
「もしもしママ?終わったから迎えに来てほしいんだけど。」
声を聞いて、ヤバいと思った。
元気がない。声が小さい。
ただ静かに話してるってことではない。
覇気がない。母だからわかる。
これは、うまくいかなかった時の声だ。
車を出しながら、考える。
学科試験、出来なかったか?
あんなに勉強したのに。凹んでるのか?そうだとしたら、なんて声かけよう。
朝降ろした場所で、長女は待っていた。
車に乗り込む。一言も話さない。
「どうだった?」
聞いた。だって聞くしかないじゃん。
「やっぱり、めざまし占いって当たるわ。」
まさか。
「全然解けなかった。」
「まじか…。」
「数学、過去5年間出てなかった分野の問題が出た。しかも、今まで解いた過去問と比べても一番難しかった。最後の問題はスムーズに解けたけど、あんなに簡単なはずがない。全然できなかった。」
「国語と英語は?」
「できなかった。国語はあれだけやった文節の問題は一問も出なかったし、英語もいつも満点取る大問1でもう解けない問題が出た。長文とリスニングはいけたと思うけど、大問1を解けなかったのがショックで、大問2の問題があんまり頭に入ってこなかった。」
「…まじか。」
母はそれしか言葉が出てこなかった。
あんなに頑張ってたのに、上手くいかない事ってあるんだな。
こうなったら、今母から言えることは一つ。
「あのさ、悩みには「自分の力で変えられるもの」と「自分の力で変えられないもの」があってさ、試験結果はもう「自分の力では変えられないもの」じゃん。だから、今から悩んでもしょうがないと思うんだよ。」
これは、いつも英検のあとに私が生徒にいう言葉だ。
「いまあなたが唯一出来ることは、今覚えている試験の内容、面接の内容を、覚えている限りノートに書き残しておくことと、いま感じていることを書き出しておくことだよ。もしかしたら、うまくいかなかった原因はこれかもしれない、とか。とにかく、次に活かせるように。」
とにかく、前を見るしかない。
「もし今回特待生に落ちて来月再チャレンジするとしても、もし特待生になれて次の入試が大学受験だとしても、今日思ったこととか感じたことは、その時の糧になる。人間は忘れていく。その前に書き残しておきな。それだけノートに書いたら、一旦まずは明日の結果が出るまで、忘れよ。で、休もう。」
「そだね。」
家に着くまでの間、車の中で何とか娘を励ました。娘はつぶやいた。
「あー、まじで今日あそこで試験受けてた人、
全員さそり座であれ。」
そりゃ無理だろ。
推薦試験翌日、10:00。
合否が出た。
推薦入試の結果は「合格」。しかし、
「残念ですが、特待生には該当しませんでした」と書いてあった。
だめだった。
まじか。
だめだったか。
あんなにがんばってもだめなのか。
私は家でHPから合否を見た。
娘は今頃、学校で授業中に呼び出されて担任から結果を聞かされている。
心が痛い。
あんなに頑張ってた娘を見ていたからこそ、
胸が痛い。
今頃、あの子は泣いてるだろうか。
悲しんでいるのか、悔しがっているのか。
ひとまず、出張中の夫と両家の祖父母に連絡する。ずっと勉強を見てくれていた叔母にも。
みんなから「合格おめでとう!」と返信が来た。
そうだった。合格はしたんだ。
そうだよな。喜ぶべきことなんだ。
まず、褒めてあげなきゃ。
特待生になれなかったから落ち込むって、贅沢だ。
でもやっぱりつらい。人生ってきついよな。
努力が叶わなかった。あんなに、あんなに頑張ってたのに。あんなに勉強してたのに。帰ってきたらあの子になんて声をかけよう。泣いちゃだめ。母親の私が泣いてちゃだめだ。喜ぶべきことなんだから。
着信が来た。私の母からだった。
もしもし、と出る。
「残念だったね。」
母の声を聞いたら、ダメだった。涙が決壊した。
みんな「合格おめでとう!」と言ってくれた。わかってる。でも、やっぱり私の心の中は圧倒的に悲しかった。多分あの子も今悲しくて悔しくて泣いてる。でも、そんなの贅沢だ。志望校に合格出来たんだから、特待生になれなくて悲しくて泣くなんて、贅沢にも程がある。そんな部分は隠さないといけない。それはわかってる。
でも、母だけは開口一番「残念だったね」と言った。「あんなにがんばってたのにね…」と。なんでわかるんだろ。母ってすごいな。それがやっぱり今抱えてる本音に一番近くて、私のこらえてた気持ちが溢れ出てしまった。
私も「がんばってたんだけどなー」と返そうとした。でも、声が出なかった。泣いてしまって言えなかった。
特待生になってくれたら親は嬉しいとかそんなのとっくの昔にどうでもよくて、彼女自身が目指してたものに「なれるかなれないか」、そのためにした努力が「報われるか報われないか」の、ただそれだけだった。今回は報われなかった。それは仕方ないよな。
16:00、「ただいま〜」と娘が帰ってきた。
私はハグしようと玄関で娘を待っていた。
しかし玄関から入ってきた長女は、私の広げた両手をスルーして、「大丈夫。もっかいチャンスあるから。」と言い放った。
未練がましく「抱きしめようか?」と言った母を、「大丈夫」と通り過ぎてリビングの本棚へ向かい「ママ、これ見て。」と一冊の本を私に差し出した。
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子ども向けの絵本だ。長女の好きな本。
「これ、私の座右の銘だから見て。」
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「こっちも見て。」
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「私、今、底力が試されてるんだと思う。だから、頑張る。」
そうだった。
あなたは平成の横綱だったわ。
そうだよな。
不撓不屈の精神でがんばるんだもんね。
強い。あなたは強いよ。
考え方がマッチョすぎて、私は敵わない。
あとから聞いたら、長女は結果を聞かされた時、担任の先生の前で大泣きしたらしい。悔しくて悲しくて、泣き止むまで時間がかかって、落ち着くまでなかなか授業に戻れなかったと言っていた。でも、そこから半日でまた立ち上がった。すごいわ。あなたはすごい。
そだね。きっと大丈夫。
あなたならきっと、叶えられる。
モーゼも、ムスカも、悟空も、みんなあなたの脳内で、次の出番を待ってるよ。
来月、娘は再度、学科試験を受ける。
次が最後のチャンスだ。
長女は土日2日間だけ勉強を休んで、部屋でカラオケしたり、K-popを踊り狂ったり、4時間本気でルフィの塗り絵をしてリフレッシュした後、気が済んだのか、また月曜日から勉強を再開した。
行け、娘よ。
その底力を見せてやれ。
キミならきっと出来る。
泣いても笑ってもあと一ヵ月。
終わったら、カラオケ行こうな。
がんばれ、がんばれ、がんばれ。
大丈夫。
がんばれ。
がんばれ!!!