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エッセイ

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心にうつりゆくよしなしごとを… わたしのフィルターを通した日々の所感です。
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秋・とんぼ・黄金の草原と王子さま

秋・とんぼ・黄金の草原と王子さま

あれは幼稚園の頃。
みんなで工作をした。
秋だったから、たしかとんぼの紙飛行機、みたいなものだった気がする。
画用紙を切って、クレヨンで色を塗って、折り目を付けて完成。
先生が、お外に出て、みんなでとんぼを飛ばしてみましょう、と言った。
みんなは、わあっと歓声をあげて、我先にと外に飛び出していった。
男の子たちは早くもとんぼを飛ばしあって大騒ぎだった。
気が進まなかったわたしは、のろのろと靴を履き

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ピンクのスパンコール

ピンクのスパンコール

ピンク色のスパンコール…、なんて夢のような言葉の響きでしょう。
けれどわたしには、ほろ苦い、幼い日の思い出があるのです。

うすももいろのジョーゼット風の布地をたっぷり使った、フリルいっぱいのネグリジェ。それはかつて、母がわたしと妹に作ってくれたものでした。
母はわたしにワンピースのネグリジェを、幼い妹にはお揃いの生地でパジャマを、得意の裁縫でこしらえてくれました。
胸元にはこまかいピンタックの上

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おばあちゃんのピンクのスカーフ

おばあちゃんのピンクのスカーフ

わたしのおばあちゃんのおはなしをしましょう。

おばあちゃんは、どんな人だった?と聞かれたら、わたしはよくよく考えあぐねた末に、こう答えます。「よくもわるくも、女性的な人であった」と。

小柄で背中の丸いおばあちゃんは体が弱くて、それが彼女の精神を蝕んでいたように思います。
狭いコミュニティの中での息詰まる付き合い、病弱で満足に畑仕事や家事ができなかったこと…。きっと人生のあらゆる場面で、他者から

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月夜のボート

月夜のボート

彼を思うときー、わたしはいつでもこんな情景が脳裏にうかびます。

真っ暗な夜に、星あかりを頼りに進む一艘のこぶね。
舟の先にはちいさなランタンがひとつきり、掲げてあるだけ。
そのボートに彼はたったひとりで、脇目もふらず、ただひたすらに月に向かって、
前に前に漕ぎ続けるのです。

彼は、そんなひとでした。

自分の思想を何よりも大切にし、人に嫌われることなどちっとも怖くなかったひと。
大きな理想を掲

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桃にまつわるエトセトラ

桃にまつわるエトセトラ

いただき物の、桃をむく。
実家の母が持たせてくれた桃。
親戚が桃農家なので、そこの桃をお土産にと買ってくれたのだ。

フルーツライン、と地元で呼ばれる通りには、
道の両側に産直のくだもの販売所がぽつりぽつりと軒を連ねる。

お店に掲げられた看板には、「もも」とか「なし」とか「ぶどう」と手書きの文字、その横にかわいらしいイラストも添えてある。
なんだかおとぎばなし見たいなお店たち。

子どもの頃、お

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わたしの灯台

わたしの灯台

わたしの左のふとももには、かつて灯台がありました。
灯台というべきか、公園にある水のみ場というべきか…ともかくそんな形態の、生まれつきのアザがあったのです。
それはうす茶色で、とてもちいさく、でも圧倒的な存在感でそこに存在していました。

へんな話ですけれど、トイレに座るたびに、わたしはいつも灯台とばっちりと目が合うのでした。
たとえどんなに面白い遊びに夢中になっている時でも、その灯台を見つけた途

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