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トランプ大統領「ゼレンスキーは独裁者」は、歴史的発言になるのかもしれない

ドナルド・トランプ米大統領のこの発言は、もしかすると「歴史的発言」となるかもしれない。

そして、国連安全保障理事会は、「ロシアとウクライナの紛争の早期終結を求める」決議を賛成多数で採択した。米国やロシア、中国など10カ国が賛成、英国やフランスなど欧州5カ国が棄権した。

英国などが求めた「全面侵攻」という言葉は入らず、「ロシアとウクライナの紛争」と和らげた表現にとどまった。国際的に認められたウクライナの主権や領土保全を支持する文言も入っていない。

米国が「世界の警察官」となることで保たれてきた、戦後の国際社会の秩序が、根底から崩れることになったのではないか。

世界の警察官、米国が守ってきた秩序とは、世界のさまざまな国が米国に領土を守ってもらい、石油を確保するルートを守ってもらい、米国の市場にモノを売って儲けて、豊かになってきたということだ。

そして、長い歴史の中で、土地や資源を奪い合ってきた隣国同士のいざこざも、米国によって抑えられてきた。例えば、欧州の「ドイツ問題」、英仏の不仲、日中韓、中東など世界中でだ。

もちろん、米国が絡んだ紛争はあったし、米国自身が紛争の当事者になったことはある。だが、戦後80年は、人類史の中では稀にみる平和な時代だったのは間違いない。それは米国の覇権があったからである。

トランプ大統領の「ゼレンスキー大統領は独裁者」と批判し、ロシアの「力による一方的な現状変更」を正当化する屁理屈に同調したことは、この米国が守ってきた秩序を完全否定することに等しい。

これから世界は、近隣の間で力の差がある場合、力の強い方が弱い方を一方的に攻めて、それを屁理屈でもって正当化していいということになった。そして、その屁理屈を米国が認めるということになったわけだ。

そうなると、今のウクライナ・ロシアの戦争のみならず、イスラエル・ハマスの紛争や世界中の紛争は、力の強い側の屁理屈が通るということになる。

なにより深刻なのは、中国による台湾軍事侵攻のいわゆる「台湾有事」や、まさかのロシアによる北海道侵攻なども、それを屁理屈によって正当化できるということになる。

世界中で、力の強い側が、弱い側の領土や資源を横取りし、人を殺し、それを屁理屈で正当化するだろう。そして、米国がその屁理屈を認めて紛争を終わらせる。

「力による一方的な現状変更」を認めないと、「警察官」として出てくることはない。コストがかかる警察官はやりたくない。むしろ、力の強い側が奪ったものを上納してくれば、それにお墨付きを出す。力の弱い側を「もうやめろ」と脅す。

これでは、米国は「世界の暴力団」ではないか。

トランプ大統領の発言は、戦後米国が築いた国際秩序が完全崩壊したものとして、「歴史的発言」となるのかもしれない。

さて、ここからは、約3年続いてきたウクライナ戦争が、なぜ急に「休戦」の流れとなったのかを考えてみたい。端的にいえば、「トランプ大統領の存在」となるわけだが、ではその存在とはなんなのかだ?

私はウクライナ戦争について開戦時からずっと論考を書き続けてきたが、それは日本の「国際政治学」「国際関係論」の主流の考え方とは全く違うので、それはご了承いただいて、よろしければ読んでいただければと思います。

私は、開戦前から「ロシアはすでに負けている」と言い続けてきた。

東西冷戦終結の後、旧ソ連の衛星国家だった東欧圏諸国が次々と民主化し、EU・NATOへ加盟した。いわゆるEU・NATOの東方拡大だ。によって、ロシアの影響圏は東ベルリンからベラルーシの線まで後退した。旧ソ連だったバルト三国もEU・NATOに加盟した。遂には、ウクライナまでEU・NATOに加盟を希望する事態となった。

例えるならば、相手に連打されて、ロープ際まで追い込まれたボクサーが必死に拳を振り回したら、一発当たったというのが、2014年のクリミア奪還であり、2022年からのウクライナ戦争だ。

ウクライナ戦争関連でテレビや新聞をみると、散々ウクライナの地図を見せられて、ドンバス地域で戦闘があったとかなかったとか、どこが占領されたとか、奪還したとか、そういうニュースばかりみせられる。

だが、ユーラシア大陸全体の地図を見ると、まったく違う風景がみえてくる。

この戦争は、NATOとロシアの勢力争いであり、NATOの東方拡大にロシアはすでに敗れていることがわかる。

そして、ウクライナ戦争を通じて、NATOはさらに勢力を拡大した。中立国だったスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟したからだ。

それによって、ロシアは約1300キロメートル以上、NATOと接する防衛ラインが長くなった。また、ロシアにとって貴重な「不凍港」である、バルト海をNATO加盟国に包囲されて、艦隊を自由に動かすのが難しくなった。

確かに、ウクライナはロシアに領土を奪われている。だが、極端にいえば、仮にウクライナがロシアに完全に占領されたとしても、NATO側の勝利は揺るがない。NATO側にとっては、ウクライナはベラルーシとともに元々ロシア側。NATOにひきこめれば儲けものだが、そうでなくても、戦争を通じて東方拡大はさらに進んだのだ。

要するに、NATO側とすれば、この戦争はすでに勝利しているのだから、実はいつでも終わらせられた。問題は終わり方だったといえる。

まず、ウクライナがロシアに領土を奪われた状態で終戦すると、「力による一方的現状変更」を認めることになる。上記の通り、それは世界中の地域に対して、悪影響がある。

また、ロシアが「勝利」を宣言するだろう。実際はすでに負けているのだが、周辺国の領土の一部を切り取っただけで、勝利を宣言し「大国ロシア」をアピールするのはプーチン大統領のいつものやり方だ。実際は、「大国ロシア」など幻想にすぎないが、そういうアピールは面倒くさいし、「民主主義陣営の終焉」のような言説が広がるのもよくない。

NATO内部でもいろいろ立場も違えば、思惑も違うことも問題だ。端的には、米英と英仏では違うわけだ(その他もいろいろありますが、とりあえず1つはこれ)。

独仏からいえば、パイプラインが爆破されるなど、ロシアからの天然ガスの輸入が細り、エネルギー不足に悩まされている。できれば、早く停戦してほしいという「本音」があるだろう。

一方、米英はロシアからのパイプラインがなく、天然ガスのロシア依存はない。早期停戦へのこだわりはない。もしかしたら、長期化によってプーチン政権の弱体化、大統領の失脚があるなら、それもよしということだろう。

だから、戦争終結を決めることができない程度の、中途半端に戦争を長引かせるような小出しな武器の支援を続けてきたともみえる。

要するに、NATO側にとっては、いつでも戦争を終えてもいいのだけれども、プーチン大統領の「大国ロシア」と、権威主義陣営の「民主主義の終焉」のアピールをどう抑えて、「NATO側の勝利」という形をどう演出するか、見定めていたということではないかと思う。

そう考えると、私はこの戦争が始まった時からずっと言っているのだけれども、ウクライナとはなんなのかということになる。大国の思惑で、ウクライナ人の命がなんと軽く扱われていることかと、強く憤る。

そして、トランプ大統領の登場である。

とにかく停戦する。プーチン大統領の言い分に完全に寄り添い、ゼレンスキー大統領を「独裁者」と呼ぶ。

これは、端的にトランプ大統領にとって、上記のような「NATO勝利の演出」など、どうでもいいことだからだ。

「アメリカ・ファースト」だから、NATOの東方拡大、ロシアの勢力交代など、どうでもいいことだからね。むしろ、

「誰も止められずもたもたしている戦争を、俺が止めてやった」

ということに、トランプ大統領の価値観がある。プーチン大統領を持ち上げるのも、そうやって戦争で疲弊するロシアに貸しを作って、さてどんな「ディール」をするかなと思っているのだろう。

米国とウクライナは鉱物資源を巡る共同開発の協定で合意した。米企業の事業参画を想定しているという。既に、ディールは着々と進んでいる。

いずれにせよ、これまでの国際社会の常識は完全にひっくり返された。既存のエリートは右往左往するばかりで、アンチ・エリートの「地頭賢人」たちが激しい駆け引きが繰り広げる世界がきた。

そういう世界が来たことを完全に示したという意味で、トランプ大統領の「ゼレンスキーは独裁者」は歴史的発言なのかもしれない。




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