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書評

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2023年10月の記事一覧

ローゼン「尊厳」

ローゼン「尊厳」

ローゼン「尊厳」読了。

単に「尊厳」概念の定義や歴史的変遷を追うだけではない。具体的ケースに適用して妥当性を検討する「反省的均衡」の思考をとる。とても論争的な書だ。

筆者はカントによる「尊厳」の世俗化を支持する立場に立ちつつ、ドイツ憲法に見られる「尊厳の法制化」には批判的なようだ。

「尊厳ある小人」「ダシュナー事件」の分析には唸らされる。

「尊厳」概念のカソリック的解釈によれば堕胎はいかな

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書評「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)

書評「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)

1 本書の特徴

一体、何人の人の証言を聞いたのだろう。一つ一つがずしりと重い証言。職業柄、高齢者からの聞き取りの苦労が痛いほど分かる。公的な記録も整わない時代の出来事。だからこそ、民衆の声を一つ一つ集めて残しておく必要がある。民衆の証言を集めることそれ自体が権力への抗いといえるだろう。

本書は、権力に抗った民衆の貴重な声を拾い集めて後世に伝える、大変な労作だ。

2 ウトロとは何か

まず圧倒

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安田菜津紀さん「国籍と遺書、兄への手紙」書評

安田菜津紀さん「国籍と遺書、兄への手紙」書評

安田菜津紀さん「国籍と遺書、兄への手紙」読了。

ずっしり重いが、最後に爽やか。不思議な読後感です。

「家族」とは?「故郷」とは?と思いを巡らせていた筆者は、父親が残した〝遺書〟(戸籍謄本)をきっかけに、やがて「ルーツ」とは何かを考える〝旅〟に出ます。

筆者の〝ルーツ〟の一つは、韓国・大邱にありました。自己の〝ルーツ〟を探り当てた筆者は、「ルーツ」とは「根」であり、「日頃、土の下に隠れて目に見

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書評「なぜ市民は座り込むのか」(安田浩一)

書評「なぜ市民は座り込むのか」(安田浩一)

尊敬する安田浩一さんの最新著「なぜ市民は座り込むのか」読了。日本社会の、底の抜けたような堕落・腐敗に対して、腹の底からの怒りを安田さんと共有する。

本書のタイトルは上記のとおりだが、一冊を貫くテーマは少し違う。

真のテーマは「笑うな」である。

踏みつけられた者の怒りを笑うな。出自や属性やルーツを笑うな。言葉を笑うな。辛苦に満ちた記憶を笑うな。

沖縄は日本史上一貫して「差別」に晒されてきた。

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書評「裁判の中の在日コリアン」

書評「裁判の中の在日コリアン」

1 必読の書

私の友人の皆様全員に、絶対に購入してほしい一冊です。「裁判の中の在日コリアン」(在日コリアン弁護士協会 現代人文社)。これ一冊で在日コリアンを巡る人権状況、その背景と本質が全て明らかにされ網羅されている。差別問題を語るなら絶対に入手して熟読するべきです。

2 日本国籍のはく奪問題

本書を読んでまずわかるのは、在日コリアン差別の根源に、サ条約発効に伴う朝鮮人の日本国籍剥奪問題があ

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