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書評「裁判の中の在日コリアン」

1 必読の書


私の友人の皆様全員に、絶対に購入してほしい一冊です。「裁判の中の在日コリアン」(在日コリアン弁護士協会 現代人文社)。これ一冊で在日コリアンを巡る人権状況、その背景と本質が全て明らかにされ網羅されている。差別問題を語るなら絶対に入手して熟読するべきです。

2 日本国籍のはく奪問題

本書を読んでまずわかるのは、在日コリアン差別の根源に、サ条約発効に伴う朝鮮人の日本国籍剥奪問題があるということ。差別主義者達は「国籍の有無による区別は差別ではない」等というがその理屈は当てはまらない。植民地独立の際、植民地出身者に国籍選択権を与えるのは世界の常識であった。ところが日本は朝鮮人に国籍の選択権を与えないどころか、一片の通達で一夜にして全ての朝鮮人を「外国人」にしてしまった。これは、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」と定める憲法10条に反する暴挙だった。その背景には、植民地支配に対する反省のなさがあった。その姿勢は今に続くのだ。

この関係で重要なのは、国籍剥奪の是非を問うた宋斗会氏の民事・刑事裁判。日本で唯一の大規模な公民権運動というべき「指紋押捺拒否運動」である。後者の担い手であった崔チャンホ牧師が、前者の裁判(刑事)で述べた意見陳述は感動的だ。別の趙健治さんの事件では、裁判所は朝鮮人の法的地位に関する立法政策の誤りを理由中で認めている。

3 在日差別の根源

一片の通達で朝鮮人を「外国人」に追いやった日本政府は、在日コリアンからあらゆる公民権を一方的に剥奪した。この関係で重要なのは、「当然の法理」の是非を問うた東京都管理職裁判と、修習生採用問題。後者に関する金キョンドク氏の最高裁に宛てた「請願書」が全文掲載されているが圧巻だ。私はこれを読んで何度も何度も涙した。

このように朝鮮人差別の根源には朝鮮半島に対する植民地支配があり、侵略戦争の歴史がある。過去を徹底的に反省し、ナチ犯罪を自ら裁いたドイツと異なり、日本は過去を一切反省していない。この関係で、慰安婦訴訟、BC級戦犯訴訟、群馬の森追悼碑事件が重要だ。司法は常に歴史修正主義に加担してきたのだ。

4 差別の共犯者たち

権力が差別するなら、国民もそれに倣う。在日コリアンは、今日も生活のあらゆる局面において差別に苦しんでいる。この関係で重要なのは、日立就職差別事件と朝鮮学校襲撃事件。前者の原告である朴チョンソク氏の思想遍歴には学ぶところがある。後者の記載の筆者は具弁護士。具弁護士は学校が公園を使用した問題がひっかかり「具さん、これは公園の問題ではなく差別の問題なんだ」という弁護士の発言にはっとしたという。具弁護士の戸惑いの背景にあったものはなにか。日本人こそ真摯に考えるべきだ。

植民地支配と侵略戦争の狭間に落ち込んだ歴史の狭間に、朝鮮人集落がある。京都のウトロや川崎の池上町だ。本書はウトロの歴史と住民の闘いを記載する。ウトロは近時ヘイトクライムの標的にされた。ヘイトクライムを野放しにする日本の姿勢は、過去の植民地支配を反省しない姿勢とも重なっている。ヘイトクライム規制は待ったなしの課題だ。

5 問題を解決する義務は私たちにある

その他、本書は、戦後すぐの二つの刑事事件(小松川事件、金嬉老事件)から、昨年高裁判決のあった大阪ヘイトハラスメント裁判まで、在日コリアンに関する裁判を全て網羅している。全日本人は、本書を今すぐ購入し熟読すべきだ。在日コリアン差別を解決する義務は、在日コリアンではなく、私たち日本人にこそあるのだから。

初出2022年5月2日

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