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【演劇】どん底(M.ゴーリキー、劇団東演)

 2024年9月1日(日)、劇団東演公演『どん底』を観てきました。記録を残します。同作を知らない方には、ややネタバレとなります。
・場所:三軒茶屋のシアタートラム
・公演期間:8月31日(土)〜9月8日(日)

■はじめに

 『どん底』は、ロシアの劇作家、マクシム・ゴーリキー(1868〜1936)による作品です。
 今から20年以上前の2000年、大学生だった私は、おそらく、池袋のサンシャイン劇場で、無名塾の『どん底』を観たことがあります。ただ、当時の私は、十分に理解出来ていなかったようで、長年の課題として心の中に残っていました。
 こうした背景もあり、今回の劇団東演のチラシを見たときから、私は「もう一度『どん底』を観てみたい!」と思い、この日を迎えました。

■あらすじ

吹き溜まりのような地下の安宿。そこには行き場のない人間たちがうごめいている。今日も、住人達と木賃宿の主人とのひと悶着が始まった。人間丸出しの住人たちはなんの遠慮もなしにぶつかり、飲んだくれ、罵りあうのだが……。

劇団東演のホームページより、短縮して引用。

大きな話の柱として、2つほどあげます。
①木賃宿の主人コストゥリョフ、その妻ワシリーサ、(ワシリーサの妹の)ナターシャ、コソ泥ペーペルの四角関係。
②安宿への新入りのルカが、住人たちに説く希望や慰め、生きる意味。

■メモと感想①:住人たちの逞しさ

 上記したあらすじにもありますように、「どん底」に生きる住民たちは「人間丸出し」です。
 身ぐるみ剥がされて生きる中に「何をお前は気取っているのだ。」という空気があります。プラスに捉えれば、逞しさと言えるのでしょうが、結構、生々しい気もします。
 具体例としては、「恥」や「良心」があるのか、特定の住民が他の住民を見下げることなんて出来るのか、といった下りもあります。貴族階級から落ちぶれた男爵のような男や、コソ泥と指さされて生きてきたペーペルのような男もいます。

 舞台セットや衣装、音楽、照明などが、そうした設定を支えていました。特に、住民たちの寝床として設置される大きな2段ベッド4台は圧巻でした。そこを俳優の方々が軽やかに動きます。また、白を基調とした衣装も、逆に汚れが目立つ印象であり、どん底の生活と対比的な清らかさのようでもあり、印象に残りました。
 そして、モスクワのユーゴザパト劇場との合同公演であり、同劇場のロシアの俳優の方も参加や、ロシア風の音楽もありました。

■メモと感想②:巡礼と呼ばれるルカ

 新しく宿に入ってきたルカが、住人たちに、希望や慰め、生きる意味を説いていきます。例えば、イカサマ賭博師に対してであったり、死の淵に瀕している女性に対してであったり。

 その中で、私は、小説の恋物語に陶酔しきっている娼婦のナースチャから広がっていく「嘘と真実」の下りが一番印象に残りました。自分なりの解釈として、以下のようなことを考えました。

①嘘の世界に生きるのは心地が良いかもしれないが、真実を知ることも、場合によっては、必要といったところでしょうか。この「真実」が「正義」と置き換えられる場面もあり、「理想(イデア)」のように繋がっていくのでしょうか。

②「よきもの(良いもの?善きもの?)のために生きる」といった下りがありましたが、どんな意味でしょうか。生きていればよいことがあるという意味でしょうか?善行を積んでいくプロセスが生きることであるという意味でしょうか?

③「神」の話も出て来ますが、どん底に生きる暮らし(生活でもない?)だからこそ「神」に救いを求めざるを得ないのか、といった逆説的に考える面もありました。ルカが次の場所へ旅立っていく姿にも(ある意味)無常を感じます。

■メモと感想③:四角関係

 宿屋の主人のコストゥリョフ、その妻ワシリーサ、(ワシリーサの妹の)ナターシャ、コソ泥ペーペルの四角関係です。

 ナターシャは、義兄と姉夫婦の家に同居しています。私は、Wikipediaのあらすじなどを少し読んで鑑賞したのですが、ナターシャが「虐待を受けている」という記載があり、私は、住人たちより立場の強い宿主である義兄から虐待を受けているのだと思い込んでいました。しかし、その実は、意外にも、姉のワシリーサから虐待を受けていました。

 各人の恋愛感情のベクトルの方向までは記載しませんが、1人の男性を取り合うように見える関係でもあり、虐待までも招くのですね。また、ナターシャの最後までは記載しませんが、個人的には「やっぱり」という感じで、ブルーな気持ちになりました。

■最後に

 ここまで記載してきましたが、結構ネタバレを含む形になってしまいました。ハッシュタグをつけようと思います。
 舞台全体として、劇団東演の俳優の方々のパワーやエネルギッシュさ、そして軽やかさやしなやかさを感じる部分がたくさんありました。観ることが出来て、本当に良かったです。
 そして、帰宅後、自宅で冷蔵庫から麦茶を取り出して飲みながら、「私も生活をしているのだなぁ。」と身を振り返るような気持ちになりました。あまり突き詰めすぎないようにしますが、誰しも、「どん底」とまでも行かずとも、「何でこんな目に」と思うこと位はあるように思います。
 翻訳の方は異なりますが、図書館で借りてきた戯曲を読んでみようと思います。

 本日は、以上です。最後までお読み頂き、ありがとうございました。


■公演概要

世田谷パブリックシアターのHPよりコピペしました。

キャスト・スタッフ
【作】M・ゴーリキー
【翻訳】佐藤史郎
【演出】V・ベリャコーヴィッチ/O・レウシン
【出演】豊泉由樹緒、能登剛、南保大樹、奥山浩、星野真広、光藤妙子、小池友理香、中花子、島英臣、石田登星、津田真澄、N・デニス、B・セルゲイ ほか

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