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【バレエ】ザ・カブキ(The Kabuki)

 少し遅くなりましたが、2024年10月に観たバレエ『ザ・カブキ』の記録を残します。

■はじめに

 『ザ・カブキ』は、モーリス・べジャールが、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』をもとに、東京バレエ団のために創作した作品です。
 私は、普段、バレエをあまり観ないのですが、以前より、この『ザ・カブキ』だけは、生で観たいと思っていた演目でした。
 今回、念願が叶った訳ですが、あわせて、忠臣蔵の討ち入りの場面を観る初めての経験ともなりました。私はまだ、文楽や歌舞伎でも、最後まで通しで観たことはありません。

■あらすじ

現代の若者が一振りの刀を手にした途端に『忠臣蔵』の世界に迷い込む。若者はそこで、将軍家の供応役となった塩冶判官が、(判官の妻に横恋慕した執権の師直から嫌がせをされ、)殿中でご法度の抜刀をして切腹へと追いつめられるまでをつぶさに目撃する。判官切腹の場に居合わせた若者は、仇討の遺言を託される。さらにお家断絶となった塩谷家の人々の悲劇を見た若者は、残された家臣たちのリーダー、“大星由良之助”となる決意を固めてゆく……。

配布チラシを少し加工しました。

■感想など

 印象に残った点をいくつか記載します。

(1)フランスの要素(?)を感じた場面

 モーリス・ベジャールは、後年はスイスに拠点を移しているようですが、フランスのマルセイユに生まれた振付家です。
 そういう背景があるからか、個人的に、フランスの要素(?)を感じた場面がありました。

 それは、師直の邸内に討ち入り後、主君の仇、師直の首をはねた後の場面です。興奮冷めやらぬ志士たちが、舞台奥に向かって斜め一列に並び、跳躍しながら、息を上げ、息を整え(?)ます。
 個人的にですが、私は、ここで「革命」的な要素を感じたのです。細かく整理すると、君主を討ち転覆を図る革命とは異なるかもしれません。しかし、掟を破り、上役の(ような)師直を討つのは、「革命」に通じる要素があるのではないでしょうか。
 書くまでもないことですが、フランスは、「革命」のあった国です。その評価は別として、君主の首をはねた際、民衆にどのような動揺や興奮が走ったのか、伝わってくるような場面でした。

 他の場面も通して、『ザ・カブキ』は、『仮名手本忠臣蔵』に海外の影響が入っていて、とても面白かったです。固定的な見方が揺らぐというか、広い視点で相対的に捉え直すことが出来たように思います。海外の作品の中で、「日本はこんな風に捉えられているのか」と、がっかりすることもあるのですが、今回はとても楽しく観ることが出来ました。

 また付け加えると、討ち入りの場面も、男性ダンサーのみの群舞で凄かったです。いつか、文楽や歌舞伎の討ち入りの場面と見比べてみたいなあと思います。

(2)死とエロス

 甚だ勉強不足ではありますが、「死とエロス」について感じたこと、考えたことを、思い切って記載してみます。
 まず、「第七場:一力茶屋」です。

由良之助は仇討ちの決意を悟られぬよう、敵を欺くため祇園で酒色に耽っているように見せかける。由良之助は息子力弥が届けてきた密書を盗み見する伴内を斬り、今は遊女に身をやつしているあわれなおかるの身の上を案じる。

公演プログラムより

 もちろん敵を欺くためという理由があるのでしょうが、祇園で酒色に吹ける由良之助という設定が、後ろに迫る死に対比される面もあり、何とも華やかに映りました。

 次に、「第八場:雪の別れ」です。

あくまでも仇討ちの決意を明かさない由良之助に、顔世は失意の色を隠せない。判官切腹の折りの様子を由良之助に必死に説明する顔世は、波に流されるように由良之助から去っていく。

公演プログラムより

 由良之助と顔世御前の場面です。ここは、色々と解釈が出来る場面のように思いました。
 顔世御前が由良之助に、仇を討つよう懇願する訳ですが、儚さというか、切に願う感じがしました。初め、私は二人の間に恋愛感情があるのだろうか等、考えてしまったのですが、そこは、主君の妻と家臣の関係であり、もう少し理解が必要だなと、あとから思いました。

 また、顔世御前は前半はしっかりとした衣装を着ているのですが、後半は打掛のみになる感じでした。まだ十分に理解出来ていないので上手く書けませんが、由良之助にしろ、顔世御前にしろ、おかるにしろ、衣装の面について調べてみたり、考えてみたり出来たらなと思いました。

(3)現代との対比

 そもそも、出だしのプロローグが、「現代の東京」でした。

現代の東京。ロックに酔いしれる若者、無気力な若者、さまざまな若者がたむろする東京。若者のリーダーである青年が、古いひと振りの刀を見つける。彼が手を触れた瞬間、時代は急速にタイムスリップしていく。

公演プログラムより

 キャストには、現代の勘平とおかるという設定もあり、バレエの鑑賞眼に長けていない私にも、二人の動き方から、幸せさを感じました。
 このように現代の場面を取り入れることにより、作品に入っていきやすかったり、共感を得る部分が増えたりするように思います。

(4)文楽・歌舞伎との比較

 顔世御前は、桜の枝を持って登場する場面が何度かあります。(ここの変化もあるのですが、ここでは割愛します。)文楽・四段目の花籠の段との繋がりがあるのかなと考えたりしました(違っていたら、すみません)。

 他に、定式幕が使われたり、仮名手本の幕が下げられたり、人形の動きが取り入れられたりする場面がありました。今回のバレエと、文楽・歌舞伎との比較をもっと行っていくと、もっと作品や演出意図を深く理解出来るように思います。
 バレエは全二幕で、休憩20分を含む2時間15分で、凝縮された世界でした。

■最後に

 私が参加した回は、アフタートークがあり、高岸直樹さん(三代目の由良之助)と上野水香さん(顔世御前)の話を伺うことが出来ました。
 今回、宮川新大さんが、八代目の由良之助としてデビューされたそうで、このように受け継がれていくのだなと感じました。

 後半、もう少し丁寧に書いた方が良かったのかもしれませんが、あまりネタバレのようになっても困る気がして、多少端折りました。
 また、今回鑑賞し、個人的にかなり好きな作品になったので、また上演される際は観てみたいなと思います。

〈おまけの画像〉

ロビーにて①
ロビーにて②

 本日は、以上です。


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