「裏金」連呼のマスコミは民主政に有害 安藤馨教授の「朝日」での警告が話題
今日(11月14日)の朝日新聞に載った、安藤馨・一橋大学教授(法哲学)の論考「解散権の制約は必要か」は、衝撃的だった。
最近よく問題にされる「首相の解散権」を取り上げたものだが、新鮮な切り口で、事実上、「左翼マスコミの偏向報道が選挙結果をゆがめた」可能性を指摘している。
それが、朝日新聞に載っているのも、皮肉で面白い。
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解散権の制約は必要か 有権者の判断支える「健全な報道」が解決策:朝日新聞デジタル
安藤馨教授と同じ、東大法学部・井上達夫門下の法哲学者たちが、これが朝日に載ったことに驚きの声をあげている。
コレを朝日新聞が紙面に載せているのは、割とスゴいコトだな、と。
(谷口功一・都立大教授)
前にも言いましたけどこの欄を安藤馨に任せた朝日新聞の胆力ですよ。
(大屋雄浩・慶應大教授)
作家の橘玲氏も、以下のようにポストした。
11/14朝日「憲法季評」安藤馨一橋大教授「健全な民主主義へ健全な報道を」「野党議員の不記載には「裏金」という情動的ラベルを貼らず、与党議員のみを「裏金議員」と呼ぶような(メディアの)やり方は、事実認識に基づかない評価をもたらそうとするものであり、民主政にとって有害ですらある」と指摘
(朝日新聞は、「裏金」報道で2024年度の新聞協会賞をとったことを、すごく自慢してPRに使っている)
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「首相の解散権」問題に馴染みのない人には、とっつきにくい話題かも知れない。
簡単に言えば、現在、衆院解散は首相の好きな時におこなえる「専権事項」「伝家の宝刀」とされている。
が、これは憲法的な根拠に乏しい。天皇の国事行為を並べた「憲法7条」を根拠とする、いわゆる「7条解散」は、法理的に無理がある。
首相が、自分の好きな時(たとえば支持率の高い時)に解散・総選挙ができるのは、与党に有利で、不公正だと批判されてきた。
安藤の師匠である井上達夫・東大名誉教授も、そう批判してきた。だから、首相の解散権には何らかの制限が必要だ、と説いてきた。
実は、石破茂も、首相の無制約な解散権を批判してきたのだが、自分が首相になると、さっそくこの「伝家の宝刀」を抜いてしまった。
だが、安藤馨は、従来の批判に反論し、解散権の制限は必要ないと言う。
首相の解散権によって、民意がゆがめられるなら、民主政にとって問題だ。
しかし、「首相の支持率が高い」のが、まさに民意の反映だとするなら、その機会に選挙がおこなわれること自体は不正ではない。
もし無制約な解散権によって、有権者が「政治状況によって踊らされ」、判断がゆがめられたら問題だが、有権者の判断の信頼性が確保されているかぎり、選挙に問題はないからだ。
むしろ問題なのは、選挙のさいにマスコミによって情報がゆがめられ、有権者の判断の信頼性が揺らぎ、それが選挙結果に反映されることである。
その点で、今回の選挙期間中、与党の議員に「裏金」のレッテルを貼り続けたマスコミの不公正こそが問題だ、と結論するのだ。
もし仮にそのような信頼性の不足が有権者にあるとすれば、それに対するまっとうな対処は、有権者の判断の信頼性を確保することである。具体的には今の政治状況についての正しい情報の提示によって、適切な事実認識をもたらすということにほかならない。それこそが民主政においてジャーナリズムに期待される役割である。ジャーナリストが、事実に基づかない感情的反発などの情動に働きかけようと笛を吹く活動家であるべきでない理由であり、党員の鼓舞を任とする政党機関紙がジャーナリズムに属しないゆえんである。解散権が制約されたとしても事情は本質的に変わらない。健全な民主政は健全に機能するジャーナリズムをなお必要とする。(中略)
今回の選挙において、不記載を公金横領や贈収賄の類と誤解しているとおぼしき怒れる有権者が見られたのはひとえに「裏金」という語の独り歩きの産物であろう。野党議員の不記載には「裏金」という情動的ラベルを貼らず、与党議員のみを「裏金議員」と呼ぶようなやり方は、事実認識に基づかない評価をもたらそうとするものであり、民主政にとって有害ですらある。
選挙終盤に発覚した自民党による、非公認候補の支部を含む各政党支部への一律2千万円の分配と拙劣な対応は有権者の怒りを招き、選挙の大勢が決した。だが、野党が「裏公認料」と呼んだこの分配自体には法的問題があるわけではないことや、また(たとえそれに納得しないにせよ)自民党の言い分を十分に認識した上で怒っていた有権者がどれだけいたかは、私自身を含めやはり心もとないところであろう。果たして敗北したのはひとり与党のみだったのか、民主政は無傷だったのか。
解散権の制約は必要か 有権者の判断支える「健全な報道」が解決策(安藤馨 朝日新聞2024/11/14)
最近、「マスゴミ」などと呼ばれるのは不本意だ、と言うマスコミ人がいた。
偏向マスコミのせいで、われわれの民主主義が危機におちいっている自覚はないのだろうか。マスコミが民主政を壊している。
安藤教授は、朝日に載せるということで、これでも筆を抑えていると思う。
しかし、その抑えた表現から、マスコミ人は、法哲学者の抑えきれない怒りを感じるべきである。
<参考>