青島美幸の名著『み~んなブスを好きになれ』の思い出
数日前に、日本保守党の百田尚樹と、青島幸男の共通点について書いた。
そのとき、青島幸男の娘、青島美幸(1959ー)のことを、なつかしく思い出していた。
私は青島美幸のエッセーのファン、とくに「みんブス」シリーズの大ファンだった。
「みんブス」知らない? 集英社コバルト文庫で出ていた。
Wikipedia「青島美幸」の著書一覧から引用すると・・
『み~んなブスを好きになれ』1984 集英社文庫コバルト
『み~んなブスにひざまずけ』1985 集英社文庫コバルト
『み~んなブスで良かったネ』1986 集英社文庫コバルト
『み~んなブスがやめられない』1988 集英社文庫コバルト
『み~んなブスを好きになれ』から『み~んなブスで良かったネ』までを「みんブス3部作」と呼んでいたように思う。
上の書影は、その「みんブス」第1作を、いま私の部屋の書棚から取り出して撮影したものだ。
私は生涯にたぶん10万以上の本に触れ、のべ数万の本を所有してきたが、引っ越しのたびに処分して、いま書棚に残っているのは100冊くらいだ(家が狭いんでね)。
その栄えある100冊のうちに殿堂入りした、私にとって愛着のある本である。
(この本は、イラストのあしらい方など含めて編集のセンスがよく、編集者としての私の手本でもあった)
どういう内容かというと、ブスは、美女との関係でいつもわりを食うのだが、けなげに耐えてたくましく生きろ、みたいなメッセージを、ものがたり仕立てで書いてある。
久しぶりに本を開いて読んでみた。こんな感じだ。
とにかくブスは執念で、雪山を登りきった。
そう、今再びブスは地獄の底からよみがえったのであった。
ウワァーーッ、ハッハッハッハッハッ。
オッ?
ふと見ると、雪におおわれたほら穴から明かりがもれているではないか。
「そーか。あんにゃろう。あんなところでヌクヌクとあったまっていたのか。よおーしッ」
ブスはほら穴に近づくと、いきなり、
「ウンガァー」
と入り口に立ちふさがった。
「ギャアーー」
美女が驚くのも無理はない。
青黒むくれのギタギタ顔の上にブスの鼻の穴からは二本のつららがそそりたっていたのである。
「ブゥーースゥーー参上ーーッ」
「アーーレーーッ」
こういう文体は、いわゆる昭和軽薄体の流れにあり、当時はまだ新鮮だった。
いま読むと、前時代の長谷川伸の股旅小説や、大佛次郎の鞍馬天狗の文体の記憶も、あるかもしれない。この世代なら、ぎりぎりそのあたりの読書体験があって、おかしくない。
それに、父・青島幸男の「いじわる」テイストが、トッピングされている。
まあ、いまとなっては、なぜこのシリーズがそれほど好きだったか、正確には思い出せないが、やはりなつかしさは感じる。
80万部のベストセラー
青島美幸のバイオグラフィーでは、「『みんなブスが好きになれ』で80万部を売り上げ~」とある。
これが、エッセイスト青島美幸の最大のヒット作だろう。
だが、いまアマゾンで見ると、もう現役本ではない。
というか、青島美幸はまだ健在だが、彼女自身が表舞台からフェイドアウトしている印象だ。
青島美幸は、テレビタレントとしても活躍していた。
NHKの「YOU」では、糸井重里とパーソナリティをつとめた。
下の「YOU」時代のことを語っている糸井重里のインタビューでは、糸井と青島美幸、アントニオ猪木、ビートたけし、村松友視、坂本龍一が一堂に会した写真も載っていて、まさに「80年代!」という感じがする。
「有名な娘たち」の時代
思えば当時、私と同世代で、文化系の「有名な娘」がいろいろ活躍していた。
阿川佐和子(阿川弘之の娘、1953ー)の少し下の世代、飯干景子(飯干晃一の娘、1963ー)とか、羽仁未央(羽仁進の娘、1964ー2014)とか。
井上荒野(井上光晴の娘、1961ー)や吉本ばなな(吉本隆明の娘、1963ー)などは作家専業だが、上に挙げた人たちは、当時の言い方で「マルチタレント」だった。
同世代だから、私はその活躍をまぶしく眺めていた。
そして私と同世代だから、(亡くなった方を除いて)いまはみな還暦を越えている。
これだけ統一教会で騒いでいるのだから、飯干景子が引っ張り出されてもいいのに、なぜか出てこないね。
それはともかく、青島美幸の文才は、もったいなかったと思う。
彼女のキャリアを眺めると、20代までは「二世」で得をしたが、それ以降は、むしろ足かせになった気がする。
とくに、青島幸男の参議院の後継として、選挙に出たのは、イメージ的に失敗だったのではなかろうか(結果は落選)。
比較的最近、彼女は、青島幸男の政治理念を書いた本などを出していたが、悪いけど、だれがいまさらそれに関心をもつだろうか。
「政治」の不幸
ところで、青島幸男の関連で、もう1人、同世代の女性タレントを思い出していた。
高見知佳(1962-2022)だ。
彼女は「二世」ではない。「くちびるヌード」のアイドル歌手で、愛媛出身の南国風の顔立ちは、正直私の好みだった。
その彼女が昨年、参院選で愛媛選挙区から立候補したのは、非常に唐突な印象だった。ほとんどの人にとって、そうだったのではなかろうか。
選挙のときには、「安倍政治に疑問をもち」とか、「シングルマザーとしての思いを生かして」とか、いろいろ言っていたけど、全然ピンとこなかった。親交ある参議院議員の永江孝子から勧められて、ということだったが、イメージ的に、あまりにも政治との接点がなかった。
それが、青島幸男の資料を見ていて、「あ!」と思った。
高見知佳は、参議院議員時代の青島幸男と、日本テレビの情報番組「追跡」で長年パーソナリティを務めていた。
番組は、青島の都知事立候補と同時に終わったのだが、その番組で青島から感化を受け、「政治」への関心がはぐくまれていたのでは、と。
高見知佳は7月の選挙に落選し、その後すぐに子宮がんが発見され、12月に亡くなった。
青島幸男と高見知佳の立候補、そして彼女ががんで急死したことに、客観的な因果関係があるわけではないが。
ただ、青島の「政治好き」は、娘の青島美幸にも、共演者の高見知佳にも、そして青島幸男本人にも、あまりいい結果をもたらさなかったな、というのが私の印象だ。
<参考>