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【YouTube】「台所の改善」日本の台所を欧米化する戦前の運動

【概要】


*国立映画アーカイブがYouTubeで公開した戦前映像の一つ。


『臺所の改善』 (ダイドコロノカイゼン、1932年)

文部省 17分, 白黒, サイレント

台所を「家庭生活の中心をなすもの」として、実情に応じた環境の中での工夫と改善の心がけを奨励する社会教育映画。改善は主に昔ながらのかまどのある台所について、排水を良くして清潔さを保つこと、採光と換気に注意すること、洋食器や収納棚の活用などが提案される。薪を使った煮炊きがまだ珍しくなかった一方で、衛生的で機能性の高い近代的な台所が広まりつつあった時代の記録としても興味深い。
(YouTube解説文より)

【全篇】『臺所の改善』1932年|「フィルムは記録する」より(国立映画アーカイブ 2024/9/26)


【評価】


これも、9月に国立映画アーカイブからYouTubeで公開された戦前映像の一つ。

「日本の台所は、暗く、不潔で、非効率的だから、欧米みたいにやれ」

と文部省が指導する映画です。

教育映画であり、少々味気ない内容ですが、生活史の記録として興味深かったです。


「座り流し」から「立ち流し」へ


「流はなるべく立流に」という意味が、最初わかりませんでした。


流し台は、なるべく「立ち流し台」にしろ、という意味。

昔は「座り流し」というのが多かったんですね。

流しが低い位置にあって、しゃがんで料理とかしていた。

そういえば、2000年代に東南アジアを旅したとき、途上国の貧しい家では、まだ床にまな板を置いて、しゃがんで食材を切っていました。

ネットで調べると、以下のように書いていました。


流しの歴史では坐り流しから立ち流しとなるが、そうであるから坐り流しのある民家は建てられた年代も古いということがいえる。 立ち流しが一般に伝わるのは江戸時代後期以降ということだが、明治になっても坐り流しは使われ、ようやく大正時代に入って立ち流しは普及することになる。

今と昔の台所と浴室考(岡田憲治)
https://www.kitchen-bath.jp/wp-content/uploads/2015/12/24imatomukasinodaidokoroyokusitukou.pdf


別の資料によると、関東大震災で家を建て直す時、「立ち流し」に変えた家が多かったらしい。

この映像がつくられた1932年(昭和7年)には、すでに立ち流しが主流だったと思いますが、まだ座り流しも残っていたのでしょう。


流しは「立ち」でも、かまどは焚き火方式で、しゃがんで煮炊きする台所は、私の子供の頃はまだ田舎に残っていました。

こんなやつ↓


この映像に出てくる「立ち流し」↓


ここに出てくる台所の風景は、戦後にもある程度共通するので、昭和世代としては懐かしいものです。

確かに、昔の台所は、暗く、狭く、非効率的だった。

昔のお母さんたちの苦労がしのばれます。


「洋食器」でお膳がスッキリ


台所の欧米化には、食器の改善も含まれます。

昔のお膳に乗っていた和食器は、小さく、不統一だった。

この教育映画では、大きめの、統一された洋食器を使えば、食卓がより機能的になる、と指導します。


↓昔の食卓。今の旅館の朝食みたい。


↓洋食器を使えば、こんなにスッキリする、と。


お手本は欧米の台所


台所の収納も、立体的にすれば、効率的で清潔になります。

昔の台所↓


↓こんなふうに立体的に整頓しましょう、と。


今の感覚だと、収納を立体的にして、かえって貧乏くさくなっている気もしますが・・。


いずれにしろ、お手本は、欧米の台所です。

「欧米の台所は薬品棚のように整備されている」という表現が面白い。



欧米の台所がお手本というのは、今もそうかもしれませんね。

まあ、欧米の台所といってわれわれが思い浮かべるのは、ある程度金持ちの家の台所ですが。

広くて、統一された欧米の台所は、いまだに憧れの的ではないでしょうか。私も自炊するから、ああいう台所が欲しいと思う。よくリノベーション業者のチラシが入っていますが、家の広さがちがうから、日本の家屋で再現するのは難しいでしょう。


昔は、家庭の台所だけでなく、街の食堂の調理場も、暗く、狭く、不潔な感じのところが多かった。

食堂の裏を覗いたらメシが食えなくなる、とか言われたものです。

今はオープンキッチンで、客にも調理場が見える(見せる)ようになっているところが多い。ああいうのも、昔は考えられなかったでしょう。


台所の改善とともに、お母さんたちの苦労が少しずつ減っていきました。

昭和の戦後、私の子供時代の話になりますが、ガス給湯器がわが家に来た時のことを覚えています。1970年ごろのことですね。

それまでは、どんな冬の寒い日でも、お母さんたちは冷たい水で洗いものをしていました。

ガス給湯器が台所に取り付けられた時の、母親のうれしそうな顔が忘れられません。


もっとも、今の私は、ガス代がもったいないから、温水はほとんど使いませんが(昔より貧乏か・・)。

とにかく、台所にまつわるいろんな記憶を呼び覚ましてくれる映像です。



<参考>


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