三島由紀夫は愛されているか
わーい、三島由紀夫Tシャツがたくさん新発売だ。
この度、三島由紀夫の名作『金閣寺』、『潮騒』、『花盛りの森・憂国』、『仮面の告白』アイテムが登場しました。文学ファンのみならず、ファッションとしても楽しめるアイテムです。こちらのアイテムは発売開始と同時に大好評をいただき、多くの方に愛されています。三島由紀夫が記す深いテーマと美しい描写を感じながら、日常に文学のエッセンスを取り入れませんか?
(pTa.shopに三島由紀夫アイテムが続々追加!インプレスホールディングス 2024年6月26日)
今月は、アラフォー女性に「ロックTシャツ」は是か非か、なんてくだらない論争があったけど。
それというのも、教養ある大人が着る、いい絵柄のTシャツがなかなかないからであろう。
三島由紀夫Tシャツが出たからには、これを着るしかあるまい、と着る気満々でデザインを見たのだが、
「俺が着たいのとちがう・・」
と思わざるを得なかった。
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それでも、三島由紀夫アイテムがふえていくのはいいことだ。
2020年に没後50年だった三島だが、来年2025年には、生誕100年を迎える。
それなのに、「三島があんまり盛り上がってない」と感じ、最近わたしは心配していた。
わたしはリベラルだが、保守の側を見渡して最近気づくのは、三島由紀夫への言及が少ないことだ。
日本保守党の飯山陽をしばらく追いかけていたが、わたしが知る限り、彼女が三島に言及することは一度もなかった。
保守とは何か、を論じるとき、彼女は必ず「福田恒存」を持ち出す。
三島由紀夫ではなく、福田恒存を持ち出すのが、今の若手保守の流行?
若手保守評論家の浜崎洋介なんかを見ても、そうだ。
浜崎は没後50年のとき『三島由紀夫』を出したが、そのあまりに冷たい論じ方に、「この人は、ほんとに保守?」と思ってしまった。
リベラルの平野啓一郎も同じ機会に三島論を出しており、わたしはそれを読んでいないが(読む気がしない)、三島への距離感はそれと変わらないのでは。
浜崎の魂に刺さっているのも、三島ではなく、福田恒存である。
そして、日本保守党党首の百田尚樹にいたっては、
「三島由紀夫って、ほとんど読んでない^^;」(2018年3月18日のツイート)
と言っている。
三島を読んでないって、保守うんぬんの前に、作家としてどうなんだ、となるけれども。
まあ、読んでないものは仕方ない。
没後50年があんま盛り上がらなかったのは、コロナということもあっただろうが、文壇・論壇の三島への支持と注目度が、不足しているからと感じざるを得なかった。
三島作品の映画化も、亡くなった竹内結子の「春の雪」(2005年)以来、ないのではなかろうか。
若手アイドルが「潮騒」に出演する、という習慣(?)がなくなったのは、その世代のものとしては寂しい。
三島自身が「『憂国』一編を読んでもらえばいい」と言った以上、「憂国」と、そして「英霊の声」、豊饒の海全編の映像化に、誰か取り組んで欲しいものである。
最近の明るい話題としては、「美しい星」が英訳され、ヨーロッパでちょっと流行ってるらしい、くらいだろうか。
ただこれも、三島由紀夫研究者で、三島を商売にしている井上隆史のリポートだから、割り引いて聞く必要があるだろう。
もちろん管見の限りではあるが、その井上隆史の三島論をふくめても、1995年の猪瀬直樹『ペルソナ』以上の話題性ある三島論は、それ以降出ていないと思う。
盾の会の最年少会員であった村田春樹が70代半ば(1951年生まれ)。まだこれから、秘話や新資料が出てくる可能性はあるとはいえ、来年の生誕100年の盛り上がりが早くも心配である。
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三島由紀夫が盛り上がっていない、その象徴的な事象が、若手保守系があまり憲法改正を論じないことではないだろうか。
論じてる? 日本保守党とか参政党とか、ちゃんとやってる?
岸田を「改憲やるやる詐欺だ」と非難する時だけ「改憲」を持ち出すが、自分たちが積極的に改憲を進めようとしているとは、思えないのだ。
三島が好きな人でも、文芸畑の人は、「憲法なんか解釈の問題」と軽視する。
三島が死を賭けて訴えたメッセージが、伝わっていない・・
最近になってようやく、自民党議連が9条2項削除案を出したけれども。
こういう動きを保守全体で支えるべきではなかろうか。
と、リベラルのわたしが言うのは、差し出がましいにもほどがあるが。
「9条削除」がベストであることは、三島由紀夫も、現代のリベラルの井上達夫も、同意見である。
「2項だけ削除」は、三島にも、井上にも、次善の策だが、「3項加憲(自衛隊明記)」よりははるかにマシだ(自衛隊明記だけでは、自衛隊は軍隊ではないという欺瞞が続く)。
自衛隊を軍隊と認めて、憲法の規範性を確立するーーそれは、右も左もない、日本の自立のための最優先課題だ。
その後に、「天皇」をめぐって、右と左は別れるかもしれないが、それは後でいい。まず9条改憲を進めなければならない。
と、朝から血圧を上げても仕方ない。
いまちょっと、三島の霊が降りてきていた。
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別言すれば、改憲論議を停滞させている、同じ空気が、三島由紀夫と真正面から向き合いにくくさせている。そんな気がするんですね。
そして、大きく言えば、その空気が、日本の政治と文化全般を腐らせている。
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わたしは、もう目が疲れるから、本とか読まないけど、三島の短編「軽王子と衣通姫」だけは、ときどき読む。
その冒頭の一文だけでよい。好きなんだ、この書き出しが。それを読むだけで、呼吸が整い、心が落ち着く。
崩(かむあが)りましし雄朝津間稚子宿禰天皇(おあさつまのわくごのすくねのすめらみこと)の皇后が下部(しもべ)どもに松明(たいまつ)をかかげさせ、夜の深みを先皇の陵(みささぎ)へと急ぐ時に、あやしい火が陵のあたりでかき消えるのを見た。
こういうヤマトことばのリズムに、心がいやされる。
こういうのを現代文として書けたのは、三島が最後ではなかろうか。
どんな形でもいいから、三島はもっと愛されてほしい。
<参考>